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第10話 地獄の番犬(3)

「作戦というか最早賭けじゃない、それ」


アンナは俺から作戦の内容を聞いてそう言った。

確かに作戦なんていうほど大したものではないが。


「そうだな、だけど他に妙案は話し合っても出なかった。

俺の案には3人での連携が不可欠なんだ、協力してくれアンナ」


他に有用そうな案は出なかったが、誰も口に出さなかっただけだ。

可能性は限りなく低いが誰かが囮になって他二人が逃げ出す方法がある。

しかしそれは一人犠牲になってもらうことを意味する。

一日も経ってない即席パーティだが俺は避けれる犠牲は避けたい。

慕ってくれるメリーに、ヒューマンとわだかまりがあるのに食料を分けてくれたアンナなら尚更だ。


メリーは俺を見捨てるなど微塵のつもりもないだろう。

アンナのことは俺が見捨てないならその意思を尊重する、といったところだろうか。


アンナも敵に囲まれた窮地を助けたことに随分恩義を感じてくれて、自分だけ助かろうとしてるつもりがないのは先程の戦闘で十分伝わった。

彼女が盗掘パーティのリーダーを務めていたのはそうした性格により人望が厚いからではないだろうか。


「あんたの作戦に乗るのに条件があるわ」


他に案が思い浮かばなかったのか、アンナはそう持ちかけてくる。


「なんだ?」

「まず、もうアンタに関することで隠し事をしないこと」


仕方ないという感じで許してくれいたと思っていたが、どうやら間違いだったようだ。

俺が勇者の身分を隠していたことに大分おかんむりらしい。


「ホントすまなかった、もうしないと約束するから許してくれ」


これに関しては俺は目の前の女盗賊様にお許しを請うしかない。


「言質とったわよ」


なんて怖いことを仰られるがようやくお許しになってくれたようで。



「最後の条件、この戦いが終わったら」

「おいフラグ立てるのはやめろ」


思わず俺は口を挟んでしまう。

そんな俺にアンナはキョトンとした表情をする。


フラグ?旗なんて立てないわよ」

「俺の故郷の言葉で、戦いの前から終わった後の予定を話すと死ぬジンクスのことを意味してな」


この戦いが終わったら俺、結婚するんだ……なんて発言はもはや呪いの域で特にやばい。


「なるほどね。でも内容聞かないで私の条件を受け入れてくれないでしょ?」

「そりゃそうだ」

「クロウに私が所属する反帝国軍に加わって欲しいのよ」


なるほど。

彼女の仲間たちはアンデッドに倒された、戦力を一人でも補充したいのだろう。


しかしその条件は呑んでしまっていいのだろうか。

まず一つ目に勇者として魔王を倒すのを優先した方がいいのだろうか、ということ。


「勇者が世界を滅ぼすようなことをするなら止めよ、としか精霊には伝わってないよパパ」


と、メリーに聞いてみたら教えてくれた。

まあいいだろう、どのみち他種族を迫害する帝国打倒は世界のためになることだ。


問題の二つ目。

俺はアンデッドを切り伏せることには慣れたが、生きている人を相手にできるのだろうか。ということ。

慣れ、という感覚麻痺で出来ないこともないかもしれない。

だが日本という国で道徳を学び育った身としては、やはり犯してはならない禁忌に思える。


「俺は人を殺めた経験はないぞ」


どうやらその一言でアンナは理解してくれたらしく、神妙な顔をした。

彼女とて味方として引き入れようとするほど俺を信用してくれている、それは素直に嬉しい。

だが先程の約束を守るならこちらの事情は隠さず話しておくべきだ。


「その克服、いえハッキリ言うわ。人を殺めるだろうことも含めて、と言ったら?」


彼女はストレートに言葉を投げかける。


俺は考える。

反帝国軍に属さずとも、いずれ必ずその時は来るだろう。

この世界では身を守るために人相手だろうと剣を振るうことはありがちであろう、と俺は考えている。

あまり考えたくないし、やりたくない。

だけどあのケルベロスの一撃を受けたときから俺の心情は揺らいでいた。

甘い気持ちでいたらすぐ命は失われるだろうと身をもって思い知った。


「分かった、参入を約束する」


どのみち目の前の問題もある。

誰か一人でも抜けたらあの三頭犬は倒せない。

せっかく憂鬱な人生が終わり、希望に溢れた未来への切符を手にしたのだ。

今度こそ自分の幸せのために、何かを手に残すために何かを切り捨てる。

そんな覚悟を含めて返事をした。

俺の神妙な顔を見てアンナは俺の案に従うと言ってくれた。






大広間に戻るとケルベロスは番犬らしいと言うべきか、お座りをして待っていた。

無論、全く可愛げはないが。


俺らが大広間に入るなり、真ん中の首が吠える。

それを見て俺はニヤリと笑った。

動さを観察したうえでの俺の考えが当たっているならこの作戦は上手くいく。


手筈通り、俺とメリーがケルベロスの前に出る。

左の首が〈闇の砲撃(ダークカノン)〉の魔法を炸裂させた。

先の作戦会議でメリーから黒い球の詳細を聞いたのだ。


メリーはそれを 〈闇の盾(ダークシールド)〉の魔法で受け止める。


いや、吸収・・する。


彼女は闇の精霊シェイド。

中級レベルの闇魔法なら吸収することはお茶の子さいさいだそうだ。



右の首が広間を炎の海にせんと口を開く。

俺はそれを確認するとメリーと同じく“闇の盾”を展開。

だがその強固さ、持続時間は先のレベルではない。


勇者とサポート役の精霊は契約に似た形で互いが魔力の経路パスで繋がっている。

メリーと俺なら影だ。

そして互いに魔力の譲渡が可能なのである。


そのことを聞き思いついたのは、彼女が吸収した〈闇の砲撃〉の魔力を俺に送ってもらうこと。

その魔力を俺が〈闇の盾〉に込めて炎の息を耐えるのだ。



そしてもう一つの策は。


俺は見ていて気付いた。

ケルベロスの首にはそれぞれ役割がある、と。

闇の魔法を放つ左首。

地獄の炎を吐く右首。



では真ん中の首は?



後方に控えていたアンナの放ったクロスボウの矢が真ん中の首の右目を射抜く。

ケルベロスは痛ましい声で叫びながらたじろいだ。

そこにもう一本の矢が飛ぶ。

左目に突き刺さり、中央の首の視界を奪った。


矢を迅速に装填させ、すぐさま二射目を痛みで動き回る的の狙い通りの場所を射抜く。

この世界の判断、技術がどれほどで平均なのか俺はまだ知らない。

それでも間違いなくアンナのクロスボウの腕は最高の領域、そう思わせるほどの鮮やかな結果が俺の目に映る。



そしてケルベロスはというと。

真ん中だけでなく、左右の首まで(・・・・・)混乱していた。



そう、真ん中の首は常に最初に吠えていた。

役割は左右に指示を出す司令塔だと俺は推測していた。

アンナに頼んだのはそれの無力化という大役。


撤退時のようにメリーに黒い霧になってもらって視界を奪うことも考えたのだが、黒霧に包まれた中央首の目に矢を当てるのは

アンナでもさすがに厳しいということ。

メリー曰く、さっき暴れて危険だったということ。

二つの要素から除外したのである。



綿密に打ち合わせていたとはいえ、アンナから評された賭け寄りの作戦は成功した。

勝運がこちらに傾いたと感じた俺は、怪我をしているとは思えないほどの跳躍をする。


「アンタの考えが当たったわね!」


アンナが喜びの声を上げて俺に続く。

互いにそれぞれ狙うは左右の首。

俺は右首を切り落とし、アンナは左の首の喉元を滅多刺しにした。


二つの首が息絶え、残るは両目を潰された中央の首。



「はあああああああっ!」



気合を込めて、


最大限の力を込めて、


勇者の剣を振り下ろす。



真ん中の首を斬り飛ばした。

その光景を見届けながら俺は力なく床に落ちた。

けが人が火事場の馬鹿力よろしく跳躍したのだ、代償に意識が朦朧もうろうとするなど至って道理。


立ちくらみのような、視界がどんどん暗くなっていく中でマナが俺に入ってくるのを感じる。

メリーから受け取った魔力が霞むほどの濃密さだ。



メリーとアンナが俺に駆け寄り何か叫んでいる。

だがその声は脳には届かず、俺は意識を手放した。





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