第4死 仲間①
「俺も動き始めるか」
楓季さんと離れるべきかを考えるために、ホールの隅にいた俺は、少しだけ今の状況を甘く見ていたのかもしれない。気がつけば、ホールにいた人達の大多数が集団を形成し始めていたのだ。
よく考えてみれば、答えは明白なことだが、このゲームで最低限生きていくためには何人かでグループを作った方がいいのだ。そうすれば、もし誰かが襲ってきたとしても、誰かに助けられるだろうし、逆にこちらが助けることも出来る。ただ数が多いといいわけでもない。なぜなら数が多くなると少なからずその中に反発してくるものも出てくるだろうし、それによって殺される可能性もある。だとすれば、何人でグループを組むのが最適解なのかということだが、5人前後が最善だろう。5人程度であれば、意思を統一することもそれほど困難ではないし、学校や会社などでグループワークをするときもそれに近い数字だ。
このことから、今このホールにいる大多数が5人か4人でグループを形成していた。
しかし、俺は今の今までそのことに気づくことが出来ていなかったが故に、まだ1人だった。
このままでは襲われる危険性が高まってしまうと言うことにようやく気づき、それと同時にやはり楓季さんの誘いに乗って、グループに入れてもらった方がいいのではないかという迷いが生まれてしまった。
しかし、先ほどの楓季さんのあの言葉に感じた嫌な気分からは逃れたかったため、その迷いを一旦振り払い、まだグループを完全には形成していないだろうと思われる人達の方へと走っていった。
楓季さんと話をしてから、もう既に1時間くらいが過ぎていた。
しかし俺は未だに一人で、内心焦りと不安が入り交じったような感情で、グループの中に入れてもらおうと奔走していた。
結局あの後、数が3人のところへ行ったのだったが、彼らは同部屋の住人で気心が知れた人とだけグループを組むと言うことと全く知らない人を仲間に入れるのは不安だったようで門前払いされてしまった。
それからこの時間に至るまでの間、少数の集団に声を掛けていくのだったが、最初に声を掛けた人達と同じ反応をされてしまい、そしてダメ元でもう人数が6人前後にまでなっている集団にも声を掛けたのだが、取り合ってくれるわけもなかったのだ。
まあ、もしも自分が同じ立場だったら全く知らない人を仲間に入れることはしないだろう。
案の定、グループとして形成されている集団の人達はお互いがお互いのことをこのゲームが始まる前から知っているようで、仲が良さげだった。
「あ、いっくんだ~!!」
そして俺が少し絶望感にうちひしがれていると、近くからそんな声が聞こえてきたのだ。
俺はこの声の主を知っていた。まあ知っているとは言っても1時間前に知り合うことになったのだったが、今の俺にとっては彼のそんな間延びしたような声が、微かな期待を抱かせるものとなり、声のした方を振り返った。
そこにいたのは思っていたとおり、安藤竜二だった。
「いっくんとまた会えるなんて思ってなかったよぉ。まあ、こ~んな狭い空間なんだから当たり前なんだけど~。でも、てっきりいっくんはもう仲間をつくってると思ってた~」
竜二のそんな軽い態度も言葉も今の俺にとっては心地がいいものだった。
というのも俺と同じで竜二も一人で、これはまだ仲間が出来ていないのでは。という変な仲間意識と誘ってみたら共に行動してくれるかも知れないという安心感が竜二の言葉を聞いた瞬間に沸き上がったからだろう。
つい1時間ほど前まではこん何も軽そうなやつと仲間になろうと思うことはなかっただろうが、今は是非とも仲間になりたいという衝動に駆られていた。
そして俺は竜二と視線を合わすと、さっきから頭で考えていたことを切り出した。
「なぁ、竜二、突然で悪いんだが俺と組まないか?」
「うん、いいよぉ」
俺が仲間になってくれという提案を竜二に出すと、竜二は二つ返事で了承してくれた。
一瞬、どうしてこんなにもあっさりと了承したんだ。もしかしてなにか企みがあるのではという疑心が生まれることになったのだが、その後の竜二の言葉で疑心は晴れるのだった。
「だけど条件があるんだぁ」
「条件?」
俺はすかさず竜二の発したその言葉に反応した。
(条件って何だ!?もしかして誰かを殺すとかか・・・だとしたら俺は)
俺の頭の中にそんな想いが去来しているとはいざ知らず、竜二は話をそこで不自然に切り上げると、「ま、ついてきて~」とだけ言って、歩き出していった。
この行動に俺は混乱した。というかいまだに竜二しか仲間を作ることのできていないこの状況下でこの場を離れるのがいい事なのだろうか。もう既に大多数の人がグループを形成しているからと言っても、まだそこに入り込める可能性は当然あるわけで、もしもこのまま竜二についていってしまえば、もう新たな仲間を獲得することも一定数いるグループへの加入も諦めなくてはならないのだ。それはこのゲームがまだ始まったばかりではあるものの、後々にかなり致命的な状況になることは明白だった。
そう、ここでした選択の一つでこの先に生き残ることが決まると言っても過言ではなかった。しかし、このまま竜二の後を追わずに単独で行動することのリスクは高かった。
そのことから俺はこの選択を後から後悔させないでくれよ。と切実に祈りながら竜二についていくことにしたのだった。