第3死 楓季に感じた恐怖
「人を殺さなければ自分の命を守ることができないのだから、
しょうがないと思う。まあ、殺さずに生きることができる状況ならば、
人を殺すことは悪で、なんとしてもそれを止めなくてはと思うが、
この状況だ。本当にしょうがないよ。
俺たちだって自分が生きていくために何の罪もない動物を殺しているだろ?
それといっしょさ。それにこの刑務所にいる人はどんな罪を犯したにしろ、
何らかの犯罪を犯しているわけだから、
殺されても別に文句は言えないと思うんだよな。はは。
まあ、俺はこんなところで死ぬわけにはいかないけど」
問いかけに対して、楓季は少し考えるようなそぶりを取った後、
あたかもそれが世界の理かのように言ったのだが、俺は内心恐怖を覚えていた。
(この人の思考はかなり歪んでいる気がする。
そんなこと思っていても言うことはできないはずのことを平然と・・・。
少し距離を置いた方がいいかもしれない。
そうしなければ、俺はこの人に殺されてしまうかもしれない。)
伊南が楓季に恐怖を覚えていたちょうどその頃、
伊南達と逆サイドから男が潰されるシーンを見ていた男女4人が話をしていた。
「昨日のアナウンスの男の言っていたゲーム、面白いな。
まあ、殺した後に何らかの制約があるとは思ってはいたが、
まさかそれを破ったら殺されるとはな。
くくく、あの男はいい実験台になってくれたものだ。」
「お前って本当に悪魔みたいな男だよ。まあ、俺も同感だがな。
楽しい楽しい殺し合いが始まったよ。ほんと」
「ふふふ、君たちといっしょの部屋で本当に良かったわ。
君たちのような異常な考えの持ち主がこの刑務所の、
それも独房以外にいたなんて、ぞくぞくしちゃうわぁ。」
「3人揃っておかしな人だよ。こんなゲーム全然楽しくなんてないけど、
まあ、人が壊れていくのは楽しそうだし、ボクはほどほどに楽しもうかな!!」
「お前が一番危ない奴だと思うが、まあいい。
さてと次は誰が死ぬのだろうな。」
その言葉を最後に4人はその場を離れた。
「あ、そういえば伊南くん君はあれを見たかい?」
楓季は何かを思い出したのか、俺の目線とは逆の方角を指さした。
そこには掲示板があり、何かが書かれた紙が貼りつけられていた。
「いや、まだ見ていませんね。なんなんですか?あれ」
「簡単に言えば、部屋の自由化といった内容だったよ。
昨日まではあんなものなかったんだが、
さっきここに来た時に気づいてみていたら、
そういうことが書かれていたんだ。
このゲームでは殺されることが前提にあるから、
もしかしたら誰かを標的にして皆が寝静まったころに、
部屋に侵入して殺しにくるかもしれない。
そこを考慮してどの部屋にいるのかを分からなくするための措置だと思う。
それに刑務所で仲良くなった人と同じ部屋になり、
話し合うこともできるから、かなりいい措置だと思っている。
まあ、女性は反対してたけどな。君も知っての通り、
この刑務所では女性には、部屋を決める際に男性といっしょの部屋に
ならないようにできるいわゆる特権があったからね。
まあ、一部の女性は男好きなのか痴女なのか男と同部屋でもいいと
言っていた者もいたけど、大多数の女性は女性と同部屋になっていたから、
今回のあの張り紙でその特権はなくなったということだ。
まあ、俺としてはそれが普通だと思うんだがな、
女性だけが優遇されるこの世界は間違っているから。
っと話がそれたね。
まあ、そういうわけで俺はさっき仲間になった人たちと同じ部屋にするけど、
伊南君はどうする?いっしょに来るかい?」
俺が尋ねたことに対して、楓季さんは自分の意見も含めて教えてくれて、
さらにはいつの間に作っていたのかは定かではないが、
仲間の一人に誘ってくれて、少し前までの俺なら、
その誘いに応じていただろう。
しかし、先ほど感じた恐怖感のために、
この誘いに応じるのが最善なのか迷っていた。
「あ、もし一緒に来るなら、今日の19時に食堂の奥のテーブルに来てくれ。
それまでよく考えてくれていいよ。それじゃあ、俺は行くよ。またね。伊南君」
俺の迷いを察知したのか、
楓季さんは俺に考える時間を与えてくれてその場を去り、
俺は一人その場に立っていた。誰かが彼のことを陰から見ているとは知らず。