影法師
※お題「独り歩きの影」「#深夜の真剣文字書き60分一本勝負」で書きました。
アスファルトに落ちた影が問いかけてくる。
「子供の頃に考えていた自分になれたかい?」
ぼくは、しばし目を閉じた。
初めてぼくが歩いた時、影法師は三つだった。ぼくは手を引かれ、二つの大きな影と一緒に歩く。そのうち小さな影が加わってきた。三つの影の周りを飛び跳ね、尾を振っている。ぼくは屈んで小さな影を撫でた。ぼく以外の大きな二つの影は、小さな影とぼくを見守っている。
今では、ぼくが大きな影だ。通りを一人で歩いている。小さな影は、もういなかった。大きな影は一回り縮んでしまい、ぼくとは離れ離れに過ごしている。
冷たい風が吹きつけてきた。ぼくは前屈みになる。ぼくの影は、公園の木の枝の影に隠れては露わになった。夕闇に薄れ始める影を街灯が照らし出す。コートの前を合わせ、足を速めた。体は凍え、胃が空腹を訴えてくる。
通りの向こうに手を振る影が二つ見えた。大きな影と小さな影。小さな影は懸命に手を振っている。あの日の影とは違っていた。しかし、同じ温かさでぼくに呼びかける。
「お帰りなさい」
ぼくも精一杯の思いを込めて言葉を返した。
地面に向かい、首を捻ってぼくは答える。
「ぜんぜん違っていたかな。でも、悪くないと思う」
ぼくの口から漏れたものか、それとも、影が吹き出したのか。笑い声が小さく響いた。