不安
隆と美貴が付き合って三週間とちょっとが経った頃
夜の街を、二人の男が話しながら歩いている
「おい、最近隆は、なにしてる?」
「ええ、最近あいつ、女が出来まして・・・」
「ああ、またいつものか・・」
「いや、今回はマジ惚で」
「あいつが?ウソだろ?」
「いや、マジです、毎日デレデレで話を聞くだけで体がかゆくなってきますよ」
「はははは、そうか〜あいつが、これで少しはおとなしくなるだろ」
「笑い事じゃないすよ〜」
一人は黒髪で短めのリーゼント、身長は高く隆と同じくらいある、眼は鋭く迫力のある顔つきだ、その男は、あの伝説の男、吉岡だ
もう一人は、隆の親友のハルだ
「あいつ、バイクが来たばかりなのに、最近の集会一回も来てないんすよ、何とか言ってやって下さい」
吉岡はハッとした顔をした
「だから最近、変なのがうろついてるんだな」
「?、変なのですか?」
「ああ、もうそろそろ来るころだろ、お前を呼んだのもこの為だ」
と吉岡が言った瞬間
凄い爆音が、町の中に響いた
ハルはとっさに目つきが変わった
「なんだあいつら?」
ハルが低い声で言った
バイクも服装も黒づくめ、旗には(ピエロ)と書かれている、中央に黒い車があり、それを囲むかのように単車が並んでいる、台数にして約30台、毘沙門天と同じぐらいの規模の族だ
「毎週金曜日この辺を流し回っている」
「え?この辺って、俺らの・・」
「ああ、そうだ、このあたりは、お前も知っているとは思うが、俺らの代で軒並み周りの族を潰してきた、それからはこの辺りをうろつく奴らは居なかったんだがな・・、お前らが土曜日に集会をしているのは知っているはずだ、これは間違いなく挑発をしてきているぞ」
「えっ?吉岡さん知っててなんで」
「あまったれるな!もう俺はチームを任せたんだ、お前らの問題だろ、隆をとっ捕まえて、教えてやれ」
「すいません、わかりました、この件は俺らで何とかします」
「おお、じゃあな」
吉岡は片手をあげ、夜の闇に消えていった
その頃隆は・・・
いつものように、美貴を家の近くまで送っていた
「髪切ったら、予想どうりいい男になったね?」
美貴が隆の顔を見ながら言った
「髪を切らなくてもいい男だけどな」
「はいはい」
「ね?そんな事より、明日休みでしょ?どっか行こうよ」
美貴が言った
「ん?ん〜ん、明日土曜日だよな?ちょっと無理かな・・・わるい」
隆が美貴の誘いを断ったのは初めてだった
「そっか・・・あ!わかった、集会?」
美貴が言った
隆はビックリした、美貴には族に入っている事を言っていない
「な、何で知ってるの?」
隆はビックリしながら聞いた
「横井君に聞いた、総長なんでしょ?最近集会に顔も出してないって言ってた」
美貴が何の悪気もなさそうに言った
「あのやろ〜、そんなことまで」
「横井君の事、怒らないでね、私がもっと隆の事が知りたくて、いろいろ聞いただけだから・・・」
「ああ、わかったよ」
隆は苦笑いをしながら言った
「でも、何で隠してたの?」
「いや、隠してたわけじゃなくて、何か言いづらくて・・・」
「ふ〜ん、隠し事しないでね」
「ああ、ごめん、あと明日は、予想どうり集会、総長だしね」
「そっか、危ないことしないでね」
美貴がうつむきながら言った
「ああ、わかったよ」
そんな事を話しているうちに、いつもの場所まに着いてしまった
美貴は隆にいきなりキスをした
「じゃ、明後日ね」
「お、おお」
手を振りながら美貴を送った
隆は内心ホッとした、族の総長をやっている事を、いつまでも黙っている訳にもいかなかったし、嫌がられると思い言えなくて悩んでいたとこだったからだ
隆は、横井に感謝した、でも一発殴ってやろうとも思った
隆は美貴とはまだキスしかしたことがない、いつもの隆なら、一週間あれば、やれるとこまでやっているだろう、それほど隆にとって美貴はとても大事な存在だった、
今思えば、ただ勇気がなかっただけだったのかもしれない
次の日の夜
隆は特攻服に身を包み一人鏡の前でたたずんでいる
「いや〜かっこいいなぁ〜俺って」
「自分で言わないでください」
慎也は呆れながら言った
「ん?不機嫌だなぁ?何かあったのか?・・・あ?まさか、愛と喧嘩したのか?」
「いえ、違いますよ、電話してもつながんなくて、どこをほっつき歩いてるんだか?」
慎也は呆れながら言った
「ん?お前ら付き合ったのか?」
慎也は急に恥ずかしそうに
「あっ、はい・・・つい二週間前に」
「なに〜何で早く言わない?そっか〜おめでとう、よかったな〜」
隆は慎也をどつきながら喜んだ
「すいません、何か言いずらくて、喜んでくれますか?」
「当たり前だろ、よかったな」
「はい、ありがとうございます」
慎也は機嫌が良くなり鏡の前に行った
「俺も着替えます」
「おお、久しぶりに写真でも撮るか?」
「あっいいすね、急いで着替えます」
隆はあわてて階段を降り、居間でテレビを見ていた妹に
「悪い、ちょっと写真撮ってくれ」
「ええ〜今すごくいいところなのに〜」
「おっ!千穂いいぞ、俺が行ってやる」
隣に座ってた親父が腰を上げた
「おお、悪いな」
隆が謝った
「いやぁ〜お前に謝られるのが快感になってきた」
隆は引きつり笑いをした
「お父さん、気持ち悪い」
妹の千穂が言った
二人は二階にあがり部屋を開けた
すると慎也がちょっとビビりながら
「あ、お邪魔してます」
慎也は親父にペコペコ頭を下げていた
隆の周りの連中は、隆の父、聡志に相当ビビっていた、こんな話がある・・・
隆が16歳だったころ、些細なことで隆と聡志が殴り合いの喧嘩になった
それを止めに入った、ハルと慎也
10分後三人は気絶していた
自分の息子を病院送りにしたのだ、それも止めに入った息子の友人たちも一緒に・・・
「よし!撮るぞ」
二人はしゃがんで(通称うんこ座り)カメラを凄い形相で睨んでいる・・・だが慎也だけはビビって睨みきれていない
「おい!慎也そんな顔で誰がビビるんだ〜」
聡志がカメラを覗きながら言った
「はい、すいません」
「おい、慎也あそこでカメラを持っているのは横井だと思え」
隆が慎也の耳元で言った
「わかりました!」
「隆!髪を切ったらいい男になったなぁ〜」
「髪を切らなくてもいい男だよ!」
「慎也もいい顔になってきたなぁ〜」
「あ、ありがとうございます」
「じゃ〜撮るぞ、はい富江」
パシャ
「あ!全然だめだ、二人とも笑うんだもん〜」
「ははは、なんで、写真を撮る前に、慎也の母ちゃんの名前を言うんだよ、わけわかんねよ〜ははは」
「ごめんごめん、じゃ次、真面目に行くぞ、」
「はい、チーズ」
「よし決まったな、じゃ安全運転行って来い」
聡志は言い放ち部屋から出て行った
「よし!そろそろ行くか?」
「はい!みんなビックリしますよ、久々の総長の出陣ですからね〜」
「は?みんな俺来るって知らないの?」
「はい、俺以外に誰かに言いました?」
「いや、言ってないけど」
「じゃ知らないですよ」
イタズラぽっく慎也は笑った
「なんか行きずれなぁ〜」
「ははは、隆さんらしくないすよ〜」
隆と慎也は家を出た
二人はバイクにまたがり
「いつもの河川敷だな?」
「はい!そうです!」
そんなとき隆の携帯が鳴った
「おい!ちょっとまて、電話だ」
二人はバイクのエンジンを切り、隆は電話を見た
非通知着信だ
隆は電話に出た
「もしもし〜隆君?ひさしぶり〜」
聞き覚えのある、妙に高い声
「だれだ?」
隆が低い声で言った
「え?忘れたの?淋しいな〜、こっちはお前に殴られた鼻がまだ曲がったまんまなんだよ〜」
「千春!?」
慎也がビクっとした
(あ!コウサンに言われた事、隆さんに伝えるの忘れてた!)
「やっと思い出したの?元気だった?」
「ああ、お前のその気持ち悪い声を聞くまでは、元気だったよ」
隆は半分笑いながら言った
すると、千春は急に低い声になり
「隆、口のきき方に気を付けろよ」
高い声で
「殺しちゃうよ〜」
「千春、やれないことを口に出さない方がいいぞ!」
「それはどうかな〜?」
「どういう意味だ?」
「今そこに誰かいるの?」
「ああ、慎也がいる、それがどうした?」
「ふ〜ん、まっいか、じゃ二人で旧函館病院の駐車場に来てよ」
「はぁ〜?なんでわざわざ、悪いけどお前と違って、こっちは忙しいくてな!」
「隆〜そんな事言って良いの?大切なハニーが酷いめにあちゃうよ」
隆の背中にゾクっとした悪寒が走った
「嘘だろ?」
「嘘か本当か来て確かめれば〜」
低い声で
「俺は、お前の事が憎くて憎くて、すぐにでも殺してやりたいんだ、俺はお前を殺せれば何でもするよ」
プツ、プー、プー、プー
電話が切れた
隆はボーとした顔で切れた電話を見つめている
「隆さん?どうしたんですか?」
慎也は心配そうな顔で隆に聞いた
「美貴がさらわれた」
「ええ!?マジすか?そんなテレビみたいな事、多分ハッタリですよ」
「千春〜〜!!!」
隆はものすごい声で叫んだ
慎也はその声と、隆のものすごい形相にビビった
(こんな顔見たことない)
「慎也!」
「はい」
「みんなには連絡するな!」
「え!?何でですか?」
「あいつらが来て、美貴になんかあったらどうする?悪いが覚悟してくれ」
「はい、わかりました」
慎也の中で覚悟が決まった
そう、これは喧嘩ではない、今からやられる事をぜんていに行くのだ
二人はバイクのエンジンをかけ病院に向かった
隆は怒りもあったが、それよりも不安な気持の方が大きかった
これほどまでに、不安な気持ちになったことは今までなかった
(美貴どうか無事でいてくれ)
隆の頭の中をよぎるのはこの事だけだった