8月2日
カーテンから日差しがもれてる、朝のまぶしい光りが隆の顔にあたっている
「う〜ん、ま、まぶしい」
ガバ!
隆は慌てて起きた、時計を見ると9時10分(仕事は10時から)
「ヤバイ、遅刻だ」
隆はあわてて支度をし、携帯を肩と顔の間にはさみ階段を駆け降りた
「もし、慎也!?悪い、迎えに来てくれ!」
「え?隆さん、今日単車来るんじゃなかったんですか?」
「それが今起きて、取りに行けないんだ、悪いけどすぐ来てくれ、」
「えっ、マジすか?、しょうがないなぁ〜」
「ありがとう、ほんと好き、愛してる」
「いや、気持ち悪いです、とにかく行きますから」
「おっ、わかったよ、待ってるよ〜」
プチ
隆は、機嫌がいい、それは何故かと言うと、楽しみにしていた、単車の納車日、それと今日、仕事が終わった後に、美貴とデートだからだ、楽しみが二つある
すごく幸せな気分だ
「隆!階段はもっと静かに下りろ」
父の聡志が怒鳴った
「親父、わかったよ、ごめんな」
隆が素直に謝った
「あ〜?気持ち悪いなぁ〜お前が謝るなんて」
聡志が隆に近づき、隆のおでこに手をあてた
「やめろよ、俺だって、たまには素直になることだってあるんだよ」
隆は聡志の手を払いのけ言った
「いや!お前が生まれてきてから、初めて見た!」
聡志がビックリしながら言った
「死んだ、母さんに、報告してくる」
聡志は仏壇の方に走って言った
「はぁ〜じゃ行ってくるから」
隆は言い終わる前に玄関を出た
隆の家は、車の修理工場をやっている、あまり儲かってはいないみたいだが、父一人でやっているので、生活には困らない位の収入はある
母は、隆が幼い時に、事故で死んでいる、その為、聡志は隆を一人で育ててきた
かなりの苦労人だ、隆も父親には感謝している
隆は、家の工場の前で廃車寸前のバイクを見つめている
それはこの前までの、隆の愛車、真っ赤なXJRだった
「今まで、ありがとなぁ」
バイクに向かってつぶやいた
ブオオオオオオ〜ボォブオオオ〜
バイクの音が、遠くの方から聞こえてきた、隆は慎也だとすぐにわかった
この間のあいたダブルアクセル(ギアを変えるときに、一回アクセルを吹かすこと)慎也の乗り方だ
隆は工場から出ると慎也がちょうど着いた所だった
「慎也、悪いな、ありがとう」
「えっ!いや、別にいいすよ、なんか照れくさいんで、やめてください」
「あ?俺が礼を言うと変か?」
「いや、変じゃないけど、気持ち悪いです」
「ははは、そうか、じゃ行くか」
隆と慎也はバイク屋に向かった
隆はこの時、機嫌が良いだけではなかった
隆は今までの自分を変えようとしたことは一度もない、それは自分の、その性格が好きだったからだ、だがこの時、美貴に会ったことで、何かが変わろうとしていた、隆はその変化を楽しんでいるようにも見えた
バイク屋・・・
慎也のバイク音を聞いて、頭にタオルを巻いた色グロのおっさんが、店の中から出てきた
「おおやっと来たか、出来てるぞ!」
バイク屋の男が言った
隆はバイクのメットを取りながら
「どこのおっさんが出てきたかと思った、ははは」
隆は吹き出しながら笑った
「おい!俺はこれでもまだ二十歳前だぞ・・」
バイク屋の男が言った
慎也も笑いを我慢しながら
「コウさん、老けましたね」
なんとその男は、二年前に隆と、もめたあの男コウだ
「そりゃ、子供も生まれたら、老けるよ」
コウはタオルごしに、頭をかきながら言った
隆はまだ笑っている
「おい!いつまで笑ってる、そんな事より見に行けよ、お前の単車」
コウが煙草に火を点けながら言った
「ああっ!そうだった、俺、遅刻寸前なんすよ」
隆が慌てて言った
「そこ真っすぐ行ったあるから乗ってけ」
コウは煙草を持った手で工場の中を指差した
「すいません、じゃ行きますね、慎也もありがとな〜」
隆は言葉を発しながら工場の方へ走って言った
するとそこには、ものすごい威圧感漂うバイクがある、真っ黒なZRX2だ
そこには、張り紙がしてある、購入済 小嶋様
「これかぁ〜かっこいいなぁ〜渋いなぁ〜」
隆はそのバイクにまたがり、キーを回した
ゴォォオン 低音のドスの聞いた音だ
「うひゃ〜いい音♪」
隆はそのまま工場の裏口のシャッターを開け仕事に向かった
ゴオオオ〜ドッゴオオオ〜〜〜
「すげ〜いい音」
バイク屋の前で慎也が言った
「そりゃ、そうだろ、あのマフラーは吉岡使用だからな」
コウが煙草を吹かしながら言った
「マジすか?いいなぁ〜かっこいいな〜」
慎也がうらやましそうに言った
「ああ!おい!そんな事より隆に言うの忘れてた」
コウが慌てて言った
「え、なんですか?」
慎也が聞き返した
「千春が年少から出てきたんだ」年少=少年院
「そうなんですか?別に問題ですか?」
慎也は煙草に火を点けながら言った
「千春はなぁ、あの件がマッポにばれたのは、隆のせいだと思っている」マッポ=警察
「えっ、あの件て、ハッパすか?」ハッパ=大麻
「ああ」
「えっ!なんでですか?」
「ちょうど、千春が拘留されている時に、隆も別件で引張られてたんだ」
「ええ、それは知ってます、酔っ払いに絡まれて、半殺しにしちゃった事件ですよねぇ〜」
「ああそうだ、その時に隆の事を良く思っていなかったマッポが、千春にデマを流したみたいなんだ、「隆が言っていたぞ、あいつは大麻を吸っているとな、だから観念しろ」みたいな事を言ったらしい、俺もついこの前、その話を聞いた」
「それ、かなりヤバくないすか?」
「ああ、多分千春は、隆を狙って来るだろ、お前らも気張っとけよ」
「わかりました、伝えときます」
会話で分かったと思うが、あの2年前の事件からまもなくして、千春が大麻で捕まっていたのだ、千春は少年院の中でずーと隆に復讐することしか頭になかった
来伝・・・
「ただいま〜」
隆は大声で来伝の引き戸を開けた
「おかえり〜」
美貴が可愛い声で隆に言った
隆は入るなり、倒れそうになった
(かわいい〜もう一回言って)
「もう一回言って」
隆が思ってた事を口走っていた
「?・・おかえり♪」
美貴が笑顔で言った
(もう死んでもいい・・)
隆がにやけている
「なにを、ニヤニヤしてるの!さっさと着替えておいで、開店するよ!」
店長がエプロンをつけながら言った
隆は店長の一言で我に帰った
「おっ、おう」
隆は奥に行き、着替えてきた
「よしっ!やるか」
隆は頭にタオルを巻きながら言った
美貴が隆に駆け寄ってきた
「デート楽しみだね♪」
隆の耳元でささやいた
その瞬間、隆の顔が真っ赤になった
「う、うん」
隆は冷静を装い、無理して真面目な顔で言った
「?・・楽しみじゃないの?」
美貴が不安そうな顔で言った
「いや、すげ〜楽しみだよ」
隆が慌てて言った
美貴がニコっと笑い隆から離れて言った
店長はこの時、遠くから隆と美貴を見て、何かに気がついた
店長は隆に駆け寄って
「あんた、昨日美貴の事、ちゃんと送ったのかい?」
店長は隆の耳元でささやいた
「ああ、無事送ったよ」
隆は言った
「なんもしなかったの?」
「あたりまえだろ!なんもしてないよ!」
店長は残念そうな顔で
「そうかい・・」
「デートの約束はした・・けど」
隆は言いたい衝動をとめきれず、恥しそうに言った
店長はにこやかな顔になり
「やっぱり、何かあったんだね、でいつ?」
「なんで、おまえがそんなに嬉そうなんだ?」
隆が店長に言った
「いいじゃないか〜教えてよ〜」
店長は楽しそうだ
「美貴に言うなよ、口の軽い男だと思われるから」
店長がうなずいた
隆は少し考えながら
「今日だよ」
店長はビックリして
「今日!なんでもっと早く言わないの?」
「えっ!何で言わなきゃいけないの?」
隆が逆に言い返した
店長がまた、近づいてきて
「今日2時にあがっていいよ」
隆はビックリして
「マジ?」
「いいよ、あとで報告しなよ!」
店長は隆の方を向き白い歯をキラつかせながら、親指を立てている
「やった〜!マジでありがと、店長様、ほんと好き」
隆は嬉しさの余り、店長に抱きついた
「やめなさい、気持ち悪いなぁ〜」
店長が隆の体を押しのけた
隆が急に考え込んで
「でも、大丈夫か?閉店まで店長一人だぞ」
その瞬間、店の引き戸が開いた
「いらっしゃいませー」
美貴が言った
「まぁ、とりあえず、美貴にも上手いこと言っといてあげるから、楽しんできなさい」
店長はカウンターから出て行った
「お、おい、まだ話が・・・まっいっか・・・」
隆は開き直って
「いらっしゃいませ〜」
隆が大きな声で言った
四時間後・・・
「隆!美貴!今日は暇だからあがっていいよ」
店長が二人に言った
「え!そんなに暇ですか?いつもと変わらない気が・・」
美貴が言った
「店長があがっていいって言ってるんだから、あがろう」
隆が言った
「そうですか、店長一人で大丈夫ですか?」
美貴が心配そうな顔で言った
「ん?あっ!そういえば、言うの忘れてたんたけど、夜専属のバイト雇ったから」
店長が言った
「え!?」
隆と美貴は声をそろえて言った
「いやね、家の店も隆のおかげで、だいぶん儲かってきたし、夜の出前も忙しくなってきたから、バイトの募集かけたのよ」
店長が言った
「何でそんな大事なこと、もっと早く言わないの!?」
隆が言った
「だから、忘れてたの、何をそんなに気にすることあるの?」
店長がニヤけて言った
「べ、別に気になんかならないよ・・で、男?女?」
隆が言った
「男だよ」
店長が言った
「私、仲良くなれるかな?店長どんな人ですか?」
美貴が興味深く聞いた
「ん?ああ、大丈夫だよ、仲良くなれるさ」
店長が横目で隆を見ながらニヤけて言った
そう、隆は心配でたまらなかった、美貴がそいつの事を好きにならないだろうか?そいつが美貴に言い寄って来ないだろうか?隆の頭の中は不安で一杯だった
隆はこんな感情を持ったのは、生まれて初めてだった
「もうそろそろ来る頃だね」
店長が時計を見ながら言った
その時、ドアの引き戸が開いた
カランカラン
「こんちわ〜」
だらしない、しまりのない声で一人の男が入ってきた
「ん?お前何しに来たんだ?」
隆が言った
「あっ!今日からお世話になります、ご存じ!横井です!」
なんとそこにいたのは、横井だった
「ええ!店長!バイトってこいつ?」
隆が横井を指差し、店長に言った
「そう、どうしても、隆と働きたいって言うから」
店長が言った
「横井さんだったんですね、新しいバイトの人って、これから一緒にがんばりましょ」
美貴が横井に手を差し伸べながら言った
「あっ、美貴さん、こちらこそ」
横井が手をズボンで拭いて握手した
「横井!俺は厳しいぞ!」
隆は新しいバイトが横井で、内心ホッとしていた
「隆さん覚悟してます!ビシビシやって下さい」
横井が言った
「じゃ、挨拶も済んだし、あんたら二人はあがんなさい」
店長が言った
「お、おう、わかった、じゃ店長頑張って!」
隆は手をあげて奥の更衣室に向かった
「じゃ、私もお先に失礼します」
美貴は二人に頭をさげ、奥に向かった
「えっ、二人ともあがっちゃうんですか?」
横井が残念そうに言った
「うん、そうだよ、今日は私と二人きりで、みっちり教えてあ・げ・る」
店長は横井にウィンクをした
「オェ〜、マジ気持ち悪いです」
横井が吐きまねをしながら言った
パン
横井は店長に頭を叩かれた
店の外・・・
「お待たせ♪」
美貴が店の裏口で待っていた隆に言った
「全然、待ってない、大丈夫」
「本当?良かった」
美貴はニコっとほほ笑んだ
「で、どこ行く?」
隆が美貴に言った
「あのね、今日バイクで来たでしょ」
美貴が言った
「おお、今日納車されたばかりだから、これからは冬までバイクで来るよ」
「私、バイクの後ろに乗ってみたい」
「いいよ、じゃドライブしよう」
「うん」
美貴は嬉しそうに言った
隆はバイクにまたがりエンジンをかけた
ゴオオオオオ〜〜〜
低いアイドリング音が響いた
「かっこいいね、なんかバイクに乗ると雰囲気がちがって」
美貴が言った
「そ、そう、あ、ありがと、じゃ乗って」
隆が顔を真っ赤にして言った
「う、うん・・・どうやって乗るの?」
「ここに足を掛けて」
隆がバイクのステップを出しながら言った
すると美貴はステップに足を掛け、隆につかまりながら乗った
「へ〜、あんがい乗り心地が良いんだね、もっと、シートが固いのかと思った」
美貴は、ポンポンとシートの上を跳ねながら言った
「じゃ行こうか」
「え、これどこにつかまるの?」
「うん?俺かな?」
隆は恥かしそうに言った
美貴の顔が赤くなり
「う、うん、何か緊張するね?」
「そ、そう?」
隆は無理に冷静を漂わせた
その時、隆の脇腹から美貴の腕が現れ、そのまま抱きつくようにつかまった
(もう、思い残すことはない・・・・・やわらかい・・・)
隆は、美貴の白い腕と背中に当たる胸の感触で満悦感に浸っている
「じゃ、行こう」
美貴が言った
「お、おう、しっかりつかまってなよ」
「うん」
隆はアクセルを吹かし、発進した
「気持い〜♪はは、楽しいね〜」
美貴が隆の耳元で言った
このあと二時間くらい、海沿いを走り、ドライブを楽しんだ
「ねぇ〜その辺で休もうよ」
美貴が後ろから大きな声で言った
「ああ、わかったよ」
隆は近くにあったコンビニに止まった
「疲れた?」
隆が美貴に聞いた
「ううん、大丈夫」
「何か飲み物でも買ってくるよ」
隆はヘルメットを脱ぎながら言った
「あ、私も行く」
美貴もあわててヘルメットを脱ぎ始めた
隆と美貴は一緒にコンビニに入り、飲み物を買って外に出てきた
少し、かたむきだした太陽の日差しを浴びた美貴が、ニコっと笑っている
「ね?海見に行こうよ」
美貴がコンビニの向かい側の堤防を指差し言った
「美貴?」
隆がぼ〜っとしながら言った
「なに?」
美貴が顔を横にして返事をした
「かわいいね?」
隆は思っていることを口に出している事に気づいていない
美貴の顔が真っ赤になった
「な、何言ってるの?いいから行こう」
美貴は隆の手を握り、引っ張って行くように向かった
隆の一生で一番で幸せな時間が走りだした
この時の隆は、初めての恋、初めての戸惑い、初めての体験、それが全て新鮮感であり、隆にとって、毎日がドキドキだった、でもそれが楽しくて幸せだった