再会
季節は秋から冬へと変わろうとしていた
気づいてみれば、あの集会から2カ月経っていた
あれから隆は、毘沙門天から離れ、仕事か美貴と逢っているか
一人でパチンコでも行っているかの毎日だった
隆は刺激のない生活に、結構飽きていた
隆はトイレの便座に座りながら煙草を吸っている
「なんか、面白い事ないかなぁ〜」
この頃の、俺の口癖だ
ピンポン
家のチャイムが鳴った
「・・・」
隆は無視した
ピンポン ピンポン ピンポン
三回鳴った
「・・・」
隆はまだ無視をしている
ピンポンピンポンピンポン
何回鳴ったか分からないくらい鳴った
「うるせぇな〜誰だ!?」
隆がトイレから怒鳴った
「隆〜!」
玄関の向こうから声が聞こえた
「み、美貴!ちょ、ちょっと待て!今行く!」
隆はあわてて用をたし、外に出た
「何してたの?遅いから心配した」
「え?」
「あっ!やっぱり忘れてる?」
「ん?」
隆は考えている
美貴は呆れながら
「今日は、飛行場に行く日だよ」
「あっ!そうだった!」
「もう、みんな向かってるよ、早く行こう!」
「おお、わかった」
隆は、車のカギを持ち外に出た
「親父〜車借りるぞ!」
隆は家の隣にある、工場に向かって叫んだ
「ぶつけるなよ!」
聡志の声が工場の中から聞こえてきた
隆と美貴は車に乗り込みエンジンをかけた
「大丈夫?」
美貴は心配そうに言った
美貴は車の運転する隆を見た事がない
「あん?心配するな、こんなのバイクと一緒だ!」
隆は余裕の顔でクラッチを離した
ぐうん、プス
車は一瞬前に進み、エンストした
「・・・」
隆は顔が赤くなってた
「・・・かわろうか?・・・」
美貴が言った
「・・・うん」
隆が小さな声で言った
隆と美貴は運転を変わり無事に出発した
美貴と付き合ってもうすぐ4ヶ月になろうとしている
美貴と会う時だけは幸せを感じていた
この日は、愛が実家に帰るという事で、みんなで見送りに行く約束だった
15分後、隆と美貴が飛行場に着いた
二人は飛行場の中に入り、みんなを捜した
10分後
「どこにもいねえな?」
隆が言った
「うん、もう行ったとか?」
美貴が言った
「いや、13:40分の飛行機って横井が言ってたぞ」
隆が言った
美貴が時計を見た
「おかしいね、もう20分前だよ!」
美貴が不安そうな顔で言った
「横井に、電話してみるわ!」
「うん」
美貴がうなずいた
隆は、ズボンから電話を取りだした
「ん?メールが来てる」
隆はメールを見た
「なに!」
「どうしたの?」
美貴が心配そうな顔で言った
「見てみろ!」
隆は電話を美貴に渡した
メールの内容はこうだ
隆さん、おはようございます
愛さんの見送りなんですが($・・)/~~~
13:40分の飛行機って言ったんですが
私の聞き間違いで、15:40分でした
すいませんm(__)m
「・・・」
美貴は無言だ
「どうする?」
隆が聞いた
「ご飯食べよ!」
美貴が言った
そういえば、今日はまだ何も食べてない
「そうだな、腹減ったし」
「うん、飛行場デートだね」
美貴が隆に笑みを浮かべながら言った
隆はグラっとした
(可愛い〜)
隆は美貴をぼ〜っと眺めていた
「ん?どうしたの?」
「チュウしようか?」
美貴の顔が一瞬にして赤くなった
「な、なに馬鹿なこと言ってんの?は、早く行こう」
美貴は隆の手を握り、引っ張って行った
二人は飛行場内にあるレストランに入った
「何食べる?」
美貴が隆に聞いた
「坦々麺!!」
隆が自信満々で言った
「ふふ、なんでそんな言い方なの?」
美貴が笑いながら言った
「俺は坦々麺が世界で3番目に好きなんだ」
「へぇ〜そうなんだ、じゃ2番目は?」
「チャーシュ麺!」
「フフ、なにそれ!?じゃ一番は」
美貴は笑みを浮かべながら言った
「美貴!」
隆はキマッタと思った
「ハハハ、何か微妙〜ハハハ」
美貴爆笑
「ん?面白い?」
隆が引きつりながら聞いた
「うん、面白い、ハハハ」
美貴爆笑
「・・・」
隆微妙
「あっ、ごめんね、ありがとう、嬉しいよ」
美貴が涙を拭きながら言った
隆は引きつり笑いをしながら店員を呼んだ
「オムライス一つ」
美貴が言った
「坦々麺」
「プッ、フフフ、」
美貴が我慢しながら笑った
「それでいいです」
隆は不機嫌そうな顔で店員に言った
「ごめん、フフ、面白くて、」
「いいよ、恥ずかしいから、あまり笑うな」
「うん、もう大丈夫!」
10分後二人は食事を済まし、レストランから出てきた
「ね!?三階の送迎デッキ行こう」
「ん?ああ、いいよ」
隆と美貴は手をつなぎ、3階にある展望デッキにやってきた
美貴がデッキの引き戸を開けた
その瞬間、冷たい秋風が二人に向かって吹いてきた
「キャ、すごい風」
美貴の長い髪が、隆にかかった
美貴の髪はいい匂いだった・・・
「うわぁ〜天気が良くて気持ちいねぇ〜」
美貴が両手をひろげ、デッキに出て行った
この日は、風は冷たいが空は晴天だった
「ああ、気持いなぁ〜」
隆は、ポケットから煙草を出し、煙草をポンポン叩いていた
「ここ禁煙だよ!」
美貴は両手を腰に当て怒ったふりをしながら言った
「あっ、マジ?」
隆はあわてて、口にくわえていた煙草をしまった、その瞬間、隆は横にあったスタンド灰皿に気づいた
「うっそ〜」
美貴は隆の目の前まで来てはしゃいで言った
「フ、お前は何がしたいんだ」
隆は笑みを浮かべ美貴の頭に手を置いた
「フフ、向こう行こ」
美貴は隆の手を取り、デッキ際の柵まで来た
二人は、柵の上に両手を置き、ぼんやりと離陸して行く飛行機を見ていた
「隆とこうやってのんびりするの久しぶりだなぁ〜」
美貴は隆に言った
「ああ、そうだな、たまにはどっか行かないとな」
隆が煙草に火を点けながら言った
「うん、旅行でも行きたいね」
「ああ、いいなぁ〜、のんびり温泉でも入りたいなぁ」
「フフフ」
美貴は笑った
「ん?なんで笑ってるんだ?」
「うん、想像してた、二人で旅行なんて、すごく楽しそう」
「ああ、今度行こうな?」
「うん」
二人はそのまま、外の景色を眺めていた
どれくらい経ったのか、良く覚えていないが
二人で、どうでもいい話を、しばらくしていたような気がする
「隆さん?」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえた
隆は振り返った
「こんな所にいたんですか?下でみんな集まってますよ」
横井が悪びれた様子もなく言った
隆は頭にきて、履いていた靴を手に持った
「お前のせいで、何時間待ったか、わかってるのか?」
隆が靴を横井に向って投げた
グフ
横井の顔に命中した
「そうだよ、横井君、まずは謝りなさい」
美貴が冗談で言った
「あっ!もしかして、あのメールが届いたときには、もう着いてたとか・・・」
横井が申し訳なさそうに言った
「ああ、いたよ!!」
隆も起こったフリをしながら言った
「す、すいません!まさかもう着いてるとは・・・思いませんでした」
横井が顔を青ざめながら頭を下げた
「横井君、嘘だよ、久しぶりに楽しかったから、怒ってないよ」
美貴が横井に言った
「え!?本当ですか?良かった〜、ん?楽しかった?」
横井は安心したがちょっと不思議だった
「ああ、久しぶりにのんびりできたよ、ありがとな・・・じゃ行くか?」
隆は横井の肩にポンと手を置き、横井の隣を通り過ぎて行った
「うん、行こう」
美貴は隆の腕に自分の腕をからませた
「いや、ありがとうって、なんかすいません」
横井は二人の後ろ姿に向けて言った
「わかったから、早く行くぞ!」
隆が言った
横井はこの時、隆は美貴といることで、本当にまるくなったと思った
昔の隆なら、普通に殴られていただろう
二人の後ろ姿を見て、本当に幸せそうで、自然に笑顔が出てくる
美貴を隆の側から離したら絶対駄目だと、一人で納得していた
「横井く〜ん、なにしてるの〜」
美貴が遠くから、笑顔で手招きしながら言った
「あっ!今行きます!」
横井は二人のあとを追った
三人は一階のロビーまで降りてきた
そこには、見た事ある顔がたくさんいた
「おっ!来た来た」
ハルが言った
「おお、遅くなった、わりぃ」
隆が言った
「その子が、美貴ちゃん?」
ハルの後ろから身を乗り出したのは・・・
「あ、亜沙美さん!お久しぶりです」
隆が軽く頭を下げた
「可愛い子だねぇ〜、こりゃかなわないや」
亜沙美が笑いながら言った
「お前、まだ!」
隣でコウが子供を抱きながら、亜沙美を睨んだ
「嫌だね、これだから親父は、冗談に決まってるだろ!」
亜沙美がコウに向かって言った
コウは顔を真っ赤にしている
「美貴って言います、はじめまして」
美貴は亜沙美とコウに向かってペコっと頭を下げた
「いやぁ〜本当にかわいいなぁ〜、隆にはもったいない!!」
コウが笑いながら言った
「イヤラシイ目で見てるんじゃないよ、このスケベ親父!」
亜沙美が怒鳴った
「あっ!美貴ちゃんよろしく」
亜沙美はニッコリと笑みを浮かべながら美貴に言った
「あれ?愛は?まだ来てないのか?」
隆が言った
「いや、来てるんですけど・・・」
横井が言いづらそうにいった
「ん?」
「まぁ今くるよ、ん?ほら来た」
コウが言った
「隆、キレるなよ」
ハルが言った
「あん?なんで?」
隆は不思議そうに言った
「会えばわかる」
向こうから愛と吉岡さん、その後ろに一人、頭に包帯を巻いた男がいた
「隆!久しぶり♪」
隆を見つけ、愛は一人走ってきた
「よう!元気そうだな、安心したよ」
隆が安心した顔で行った
「ん?きつかったけどね、新しい命がお腹にいるし、へこんでられないよね」
愛がお腹をさすりながら言った
「え!?マジ!?」
隆はビックリした
「慎也の分身、フフ、考えただけで楽しみだよね♪」
「そっか〜良かったな〜ハハハ」
隆は嬉しそうな顔で言った
「ビビったろ、もしかしたら自分の子じゃないかって」
亜沙美が隆の肩に肘を置き、耳元でささやいた
「ハハハ・・・」
隆は苦笑い
「それで実家に帰るのか?頑張れよ!」
隆は言った
「うん、しっかり静養して、丈夫な子を産むから」
愛がニッコリ微笑みながら言った
「ああ、愛!しっかり休むんだよ、変な男にだまされるなよ」
亜沙美が隆を横目で見ながら言った
「ハハハ、大丈夫ですよ」
愛が笑いながら言った
「愛さん、お久しぶりです」
美貴が言った
「ん?美貴ちゃん、久しぶり、慎也のお葬式以来だね、仲良くしてる?」
愛が美貴に言った
「はい、仲良くしてます」
美貴が言った
「隆が浮気したら、電話してね、すぐに飛んできて、ジャイアントスイングかましてあげるから、フフフ」
愛が笑いながら言った
「ハイ、お願いします」
美貴が笑いながら言った
「おいおい、ジャイアントスイングって、マジ?」
隆が笑いながら言った
そんな話をしていたら、後ろから吉岡が来た
「よう!隆!遅かったなぁ〜」
吉岡が言った
「すいません、ん?その人誰ですか?」
隆が吉岡の後ろにいた人物を見て、吉岡に聞いた
「ん?わかんねえか?」
吉岡が言った
「会ったことありました」
隆が考えながら言った
「ああ、こいつは・・・」
吉岡が話している最中に、割り込むように口を挟んだ
「すいません、自分で言います」
吉岡の後ろにいた、包帯男が言った
「ん?そうか?」
吉岡が言った
「俺、元ピエロの畠中正樹って言います」
正樹が言った
隆の顔つきが変わった
「愛をさらった、張本人じゃねえか、思い出したよ、千春に頭割られた奴だろ!」
隆が低い声で言った
「ハイ、そうです、どうしても謝りたくて・・・」
正樹が涙ながらに言った
「今頃来ても、遅いだろうが!!!」
隆は正樹に殴りかかった
それを、ハル、横井、吉岡が止めた
「あん?なんだお前ら!なぜ止める!吉岡さんまで!」
隆は押さえられながら抵抗していた
「話を聞け!最後まで!」
吉岡が言った
「だからキレるなよって言っただろうが」
ハルが言った
「落ち着いてください」
横井が言った
「お前ら悔しくないのか?慎也は死んだんだぞ、こいつらのせいで!」
隆が言った
「悔しいよ、だけど、話を聞いてからでも遅くないだろ!」
ハルが言った
「そうですよ、こんな所で暴れたら、一般の人まで迷惑が掛かりますよ、冷静に」
横井が言った
「この二人を止めるのも、大変だったよ」
押さえられてる隆の前に来た、亜沙美が言った
ロビーにいた、警備員がこちらを見ながら、指をさしている
それに気づいた美貴が隆のもとまで近づき隆の耳元でささやいた
「ね?話聞いてみよ?お願いだから、冷静になって」
隆は少し考えながら
「わかった、聞くよ!」
隆が言った
三人は隆から離れた
「話したい事があるなら、さっさと言え、聞いてやるよ」
隆は、腕に付いた汚れを、ポンポン叩きながら言った
「はい・・・」
正樹が静かに言った
「おい、お前はもういい、辛いだろ、俺が代わりに話すよ」
吉岡が正樹の肩を叩きながら言った
三人がさっき離れていたのは、正樹が愛に事情を話していたらしい
ハルと横井は、隆が来るまでと言われ、吉岡にきつく言われていたみたいだ
吉岡があまりにも、正樹に優しく接しているのが気に入らず
三人とも、正樹の事を鋭い目つきで見ていた
だが、この話を聞いて、俺ら三人は
心底、奴の恐ろしさを知ったのだ