表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/20

五代目

函館南公園、函館の中でもかなり大きな公園で、昼間は家族連れで結構賑わう公園だ、

町から少し離れているせいか、周りにはあまり家もなく、夜になると少し淋しい、だが集会場所にはもってこいの場所だった


白い特攻服、後ろには毘沙門天の文字、30人ぐらいの集団が集まっていた


「よし、九時だな!」

親衛隊長の朝倉が時計を見ながら言った


「おい、今から隆さんから大事な話がある、黙って聞けよ!」

旗持の田淵が言った


皆が一方向に目線を向けた


その目線の先には隆とハルが並んでいた


隆が一歩前に出て、口を開いた

「みんなに報告がある!聞いてくれ」


隆が神妙な顔つきで話し始めた

「俺が、四代目総長になって一年が経った、出会いもあり、別れもあった、今思えばいろんな事があった、俺が総長になった瞬間、毘沙門天のメンバー半数が抜けたっけ、だけど俺を慕って集まってくれたメンバーもたくさんいた、すごく感謝している」


隆は、遠くを見ながら、少し淋しそうな表情で言った


ほとんどのメンバーには、隆がこれから言おうとしている事がわかった


みんなは、悲しい表情で隆に視線を送っている


「蛇鬼、ピエロ、との抗争、危ない橋を何回も渡った・・・だけどお前らがいたから乗り越えられた、本当に今まで付いて来てくれてありがとう」


隆は少し表情を和らげた

「俺は大切な仲間を失ってしまった、その責任を取るわけではないが、代を譲ることにした」


隆は我慢しきれず、目から熱いものが込み上げてきた

「毘沙門天四代目総長、小嶋隆、本日をもって引退する」

隆は涙をぬぐって、皆に堂々と宣言した


「嫌です!俺、何のためにチーム入ったか、わかんないです、隆さん、まだいいでしょ・・」

横井が泣き崩れながら言った


「そうですよ、あと一年ぐらい・・・」

田淵も泣きながら言った


「おい、お前ら隆の気持ちも組んでやれ」

メンバーの後ろの方から声が聞こえてきた


隆は顔を上げた

そこには、三代目毘沙門天総長、吉岡雅樹、が立っていた

その後ろには、三代目の幹部だった顔ぶれもある

副総長のコウさん、特攻隊長の仁さん、親衛隊長の秀さん、凄い顔ぶれだ

毘沙門天の伝説を築きあげてきた人たちだ


「隆は、自分のせいで慎也が死んだと思っている、まぁ、総長ならそう思うのが当たり前だろう、俺でもそう思うよ、その責任と、お前らにこれ以上の負担をかけたくないんだとよ」

吉岡が言った


「慎也さんが死んだのは、俺が・・・」

横井が言いかけている最中に、吉岡が横井の頭にポンと手を置いた


「隆が決めたことだ、わかってやれ、」


「ううう」

横井は泣いている


「隆!」

吉岡の後ろにいた、幹部の仁が言った


「はい」


「おまえ、幸せだなぁ〜、お前の為にこんなに泣いてくれる奴がいて」


「はい、幸せです、こいつらは俺の宝物です」

隆は皆を見回しながら言った


仁は満足そうに笑みを浮かべている


「で!・・・次の総長は?」

吉岡が煙草に火を点けながら言った


「はい、今から言います」

隆はキリッとした顔になり言った


皆が隆に注目した


隆が静かに語りだした

「今日は慎也の追悼集会だと思って来た奴らばかりだと思う、だが!なぜ追悼しなければいけない?」


隆が横井になげかけた

「慎也さんを忘れないために・・・」

横井は今にも泣きだしそうだ


「人間という生き物は、必要のない記憶を排除していくらしい、俺達は慎也を忘れることはないだろう、絶対に!・・・だが、世間はそうではない、慎也という人間を知らない人間もたくさんいる、知っていても忘れて行く人間もたくさんいる・・・慎也は俺たちの中で生きている、そうだろ!?なのに、悲しいだろ?、悲しすぎるだろ!」


隆は声を荒げて

「だから世間に教えてやる、毘沙門天五代目総長に片桐慎也と言う男がいた事を!」


その場にいた、全員がビックリしている


慎也が生きていれば、次期総長の座は間違いないだろう、だがその慎也は、もういない

みんなは、突然の事でビックリして、言葉も出ない


「うん?どうした?俺はいいと思うぞ」

吉岡が隆の横に来て言った


「で、でもよ、慎也はもういないんだぜ」

コウが言った


「そんなの関係ないだろ、隆も言っていたじゃないか、慎也は俺たちの中で生きているって、俺もそう思うぜ!」

吉岡が言った


「そうだけどよ・・・」

コウが何か言いたそうな顔をしている


「コウ!隆が決めたことだ!」

吉岡が言った


「ああ、そうだな・・・わかったよ」

コウが言った


「そ、そうだよな、慎也は俺たちの中で生きているんだよな」

朝倉が田淵に言った


「わかりました、俺達は五代目総長、片桐慎也に付いていきます!」

田淵が言った


「スゲ〜なんかスゲ〜」

横井が言った


「やりましょう!やってやりましょう!毘沙門天に慎也あり」


「何かかっこいいなぁ〜」


「やるぞ〜!やってやるよ」

周りにいたメンバーも納得しはじめた


隆は皆の姿を見て、やっと安心できた

隆の中では、やはり心配だった、死んでしまった人間を総長にすることは前代未聞、チームから抜ける奴らも出てくると思っていた、だが、心配するだけ損だった

こんなに熱い奴らばっかりで良かった、隆は胸を撫で下ろした


「だがよ、隆!?」

三代目幹部の秀が口を開いた


「はい!」

隆が返事をした


「慎也が総長だと言うのはわかった!だが、チームを引ぱて行く人間は必要だろ!?」


「はい」

隆は横井の方を向き

「慎也の愛情を一身に受け、慎也のバイクまで引き継ぎ、適任の奴が、ここに」

ハルが畳んである白い特攻服を横井に渡した


「え?なんすか?これ?」

横井は不思議そうな顔で、特攻服を開いた


「慎也さんの特攻服、総長用の?」


「ああ、死ぬ前に渡そうと思ったんだけどな・・・」

隆が少しうつむき加減で言った


「それを今からお前が着ることになる!」


「え?」


「ここにいる、横井を毘沙門天五代目副総長に任命する」

隆が真面目な顔で言った


「じ、冗談ですよね?うそ〜?マジすか?いやいや、え?本気すか?」

横井が乱れてる


「本気だ!その特攻服を着る時は、お前が毘沙門天の頭だ!」


「・・・」

横井がうつむいている


「おいおい、大丈夫か?毘沙門天つぶすなよ」

仁が笑いながら冗談ぽく言った


横井は与えられた責任とプレッシャーで押しつぶされそうだった

「仁さん、大丈夫です、こいつは正義感と勇気を慎也から引き継いでいます、喧嘩の腕も相当です」


「そっか、まぁ〜お前が決めた事なら文句は言わないよ」

仁が言った


「朝倉!」

隆が呼んだ


「はい!」


「お前は毘沙門天の中で唯一、俺とハルと同じ年だ」


「はい」


「横井はまだ副総長として未熟な点がいっぱいある、ハルと一緒に支えてやってくれ」


「わかりました、まかして下さい」


「ハルは総長参謀、朝倉を親衛隊長だ、横井を頼むぞ」

ハルと朝倉はうなずいた


「田淵は特攻隊長、慎也の後釜だしっかりやれよ」


「はい」


「以上が、五代目幹部だ、気合い入れてけよ!」

隆が皆に向けて言った


「はい!」

全員が一斉に返事をした


隆が横井の方に向かって進みだした


「おい!」

横井がビクッとした


隆がうつむいたままの横井の肩に手を置き、耳元でささやいた

「それを着て、みんなの前で挨拶してこい、バシッと決めて来いよ」

隆はケツを押した


「え?ど、どうしよ〜」

横井が押された反動でよろけながら言った


「おれがどんな気持ちで、お前を選んだかわかるか?」

隆が横井の後ろから声をかけた


「い、いえ、わかりません」

横井が泣きそうな声で言った


「俺は慎也になったつもりで考えた、お前だったらってな!お前のそのまっすぐな所、昔の慎也にそっくりだ」


「・・・」

横井は黙っている


「毘沙門天を頼んだぞ!慎也を頼んだぞ!覚悟を決めろ!」

隆が怒鳴った


「は、はい!」

隆の怒鳴り声は、横井の体にびりびりと伝わった

体がホンワリと温かくなってきた、それと同時に不安が一切なくなった

まるで、すぐそばに慎也さんがいてくれているような感じだ


「やってやる!」

横井は小さくつぶやいた



横井は覚悟を決め慎也の特攻服を着て皆の前にきた

皆を見渡し、ひとつ呼吸を置き、口を開いた

「こんな未熟な副総長だけど、絶対に後悔はさせない、隆さんから引き継いだ毘沙門天、精一杯やらせていただきます」


横井は顔をあげ皆の顔を見た

「あまり言う事はないけど・・・覚悟は決めた、要は頑張るって事!俺に任せてみて、後悔はさせないから、みんな、これからもよろしく!」


横井はいきなり大声で

「五代目毘沙門天、気張って行くんで、よろしく!!!!!」


横井が言い終わると、皆からの歓声に包まれた


「副総長〜よろしく!」


「うおおお、何かやる気出てきた」


「案外、かっこいい」


「付いてきますよ、副総長!」

色んなとこで声が上がった


「よし!今日は俺の引退集会と慎也と横井の就任集会だ、気合い入れてくぞ!」

隆が言った


「はい!」

皆が一斉に返事をしたその瞬間

少し遠くから何十台ものマフラー音がした

こちらに近づいてくる


「どこの族だ?ここら辺は俺らの・・・」

朝倉を遮るかのように吉岡が口を開いた


「いいんだ、俺が呼んだ」

吉岡はにやけている


「隆から電話もらってな、横井が毘沙門天の頭になるって言うから、挨拶させる為にな!」

吉岡が言い終わるや否や、20台ぐらいのチームが公園の中に入ってきた


青一色で統一された特攻服、異様な光景だ

全員がエンジンを止め、総長らしき人間が1人降り、横井の方に歩いてきた

横井は緊張していた


横井の両サイドを固めるかのように、ハルと朝倉が横井の隣にきた

ハルと朝倉は横井の両ケツを強く握った


「!」

横井はビックリした


「お前は、毘沙門天の頭だ、堂々としてろよ!」

ハルが耳元でささやいた


「な〜に、心配するな余裕こいてけ!」

朝倉も横井の緊張をほぐすかのように言った


その男は、横井の前で止まり、深く礼をした

金髪でリーゼント、目つきがやわらかく、どことなく優しそうな顔をしている


悪魔小僧デビルギャングの二代目総長、酒井和真って言います、失礼ですが、毘沙門天の五代目総長の方ですか?」

和真は横井に向かって言った


「ああ、毘沙門天五代目総長、片桐慎也だ!」

横井は堂々と宣言した


「初めまして、慎也さん五代目就任おめでとうございます」

和真は頭を下げた


吉岡が二人の横にきた

「よこ・・慎也、このデビルギャングというチームはな、毘沙門天の傘下チームだ、普段は函館の北の方を流している、代が変わっても傘下に入ると言っている、よろしくやってくれ!」


「はい」

横井が返事をした


「よろしくお願いします、就任集会、我々悪魔小僧も参加させて下さい」

和真が言った


「ああ、よろしく頼む!」


「ありがとうございます」

和真が横井に礼をした


「吉岡!こっちも準備はOKだ!」

遠くの方で、秀が叫んだ

皆そっちの方を振り返ると、そこには10人ぐらいと10台ぐらいのバイクがあった


「OB連だ、三代目の方たちだよ」

ハルが横井の耳元で言った


「なんせ、昨日連絡貰ったもんだから、この人数しか集まらなくてよ」

隆の横にいた吉岡が言った


「ありがとうございます、ここまでしてもらえるとは思いませんでした」

「慎也!気合い入れてくぞ!」

隆が言った


「はい!」







「ルートは国道を通って、新道を・・・」

朝倉がみんなに説明をしている


「おい、朝倉、ケツモチは俺たちで行くぞ、何か問題あるか?」

コウが言った



ケツ持ちとはパトカーなどが来た時に集団の最後尾に行き、

集団からパトカーを巻かせるのがケツ持ちの役割なのだ。




「ぜ、全然問題ないです、むしろ心強いです!」

朝倉が言った


「おお、まかせとけ、あとな、仁が車を出す、車には無線が積んであって、警察情報が無線で流れるようになってる、ルートはその度に変えれるようにしておけよ」

コウが言った


「わかりました、でもどうやって」


「ああ、何人かルート上に配置してある、検問や不審物があればすぐに無線が来る事になっている」

仁が勝ち誇った顔で言った


「す、凄いっすね、頼りになります」

朝倉が言った


「俺たちはどうしますか?」

和真が言った


「はい、デビルギャングの皆さんは、信号止め、そのほか周りを固めてください」

朝倉が言った


「わかりました」

和真は振り返り、自分のチームに指図した


信号止めとは先頭にいて、集団の先頭車が交差点に入る前に、交差点に入り一般車両などを止め、集団が通り終わってからまた先頭まで戻る、それを繰り返すのが信号止めの役割だ


「隆さん、最後に気合入れてやって下さい」

朝倉が言った


「おう!」

隆は皆の前にきた


「皆!今までありがとう、今日は特別な夜だ!最高の夜にしよう、最後にもういっぺんついて来てくれ」


隆は息を吸い込み

「気合い入れてくんでよろしく!!」

隆の怒声がみんなの耳を貫いた


「総長!今までありがとうございました」

隆の真ん前にいた横井が、隆に向い礼をしながら言った


「ありがとうございました」

横井の後ろにいた、チームのメンバー全員も横井に続いた


(思ったよりも横井の総長っぷり、いいじゃねえか、大きくなったなぁ)

隆は安心した


「よし!行くぞ!」

隆が自分のバイクにまたがり、エンジンをかけた

次々とみんなもバイクにまたがりエンジンをかけた


隆はこの瞬間が一番好きだった

皆と一つになれた感じがした、すごい音だが何故かホッとした

公園から単車が次々と出て行く、その光景を隆は見つめていた


「隆さん、行きますよ!」

隣で横井が言った


「お、おう、行くか?」


「はい!」

二人は集団に混ざり夜の街に消えていった



台数は70台近くの大規模集会、ギャラリーの数、もの凄い数だった

この日の夜の事は、みんなの胸の中に残ったことだろう

五代目毘沙門天、慎也こと横井は仲間に支えられながら、これから先、数多くの伝説を残すことになる。



だがその話は、また違う話・・・



あと、ひとつだけ不思議な事があった

見間違いだったとは、とても思えない

あの時の事は、今でも良く覚えている


町の中を走っている時、

前には五代目総長、片桐慎也の刺繍がしてある特攻服

そう、横井が走っていた

慎也のバイクに乗り、まるで慎也が走っているようだった

俺は横井が初めての事で緊張していると思い

横井の隣にバイクをつけた


「横井どうだ慎也になった気分は?」

俺は大きな声で横井に言った


「隆さん、何言ってるんですか?俺は慎也ですよ!」


「俺の前では、横井でいて良いんだぞ・・・・ん!!」

俺は、話の途中で横井の方を見た


俺はビックリした、心の底からビックリした


そこには、まぎれもない慎也の姿

俺は何が起きたか分らず、慎也の姿に釘ずけだった




「たかしさん、楽しいですね!?」

慎也がこっちを振り返りながら言った


その時、慎也は消えていた



「慎也・・・」


「なんすか?」

横井が言った


「嫌!お前じゃない」


「?」


俺はこの時、見間違っただけなんだと、何回も自分に言い聞かせた

だが今思えば、あれは間違いなく、慎也だった!




「慎也も一緒に走りたかったんだな」

集会が終わった後、吉岡が言ってきた


「吉岡さんも?」


「ん?見間違っただけだよ」

吉岡が笑いながら、言った


あのにっこり笑った慎也の顔、はっきりと覚えている



楽しかったなぁ〜あの夜は、なぁ・・・慎也

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ