夢
燦々と日差しが照りつける、ある初夏の日
二人の男が、函館東中の校門に入って行った
「あっ、隆さん、ハルさん、おはようございます!」
一人の学生が挨拶した
「おう」
ハルは愛想良く返事を返した
隆は無視をしている
「お前さ、もうちょっと愛想良くできないの?だから怖いとか言われるんだぞ」
ハルが隆に行った
「男は貫録!そんな誰にでも挨拶するかよ」
「隆さん、おはようございます」
二人の女生徒が挨拶してきた
「おう、天気いいねぇ〜、どっか行こうか?」
隆は笑顔で女生徒の方へ駆け寄って言った
「・・・・貫禄ね〜・・・」
ハルは呆れた顔で言った
キーンコ−ンカーンコーン
学校の鐘が鳴った
「あっ、行かなきゃ、隆さん、また今度ね」
女生徒が手を振って、学校の中に消えていった
隆も手を振っている
ハルは隆の近くに駆け寄った
「行くぞ、隆」
「あっ、ああ、」
隆は少し名残惜しそうにしていた
隆とハルは学校の中に入って行った
教室に向かう途中、廊下を歩いていると、近くの教室からもめている声がする
「ん?二年の教室だな」
ハルが覗いた
「おい!隆、面白いぞ、」
「あん?お前覗きの趣味あるの?」
教室を覗いているハルに言った
「いいから見てみろよ」
隆は教室を覗いた
「おお、初めて見る顔だな」
教室の中では、男子生徒四人が一人の男子生徒を囲んでいる
「おい!お前、昨日転校してきたばかりで、いきがり過ぎなんだよ!」
「・・・」
「しめちゃうぞ」
「・・・」
「何とか言えよ、馬鹿!」
「・・・」
「ビビって声も出ねぇのか?」
「フ・・」
その男は鼻で笑った
囲んでいる、四人のうちの一人が、キレた
「おい!片桐、何が面白い!調子に乗ってるじゃねぞ!ぶっ殺すぞ!」
片桐はその場で立ち上がり、すごい睨みをきかせながら
「やれるものなら、やってみろ、全員でかかってきてもいいぞ」
「なめやがって」
一人が殴りかかった
五分後・・・
その場に、四人が倒れてる
「やっぱりこんなものか、弱いなぁ〜」
片桐は一人の髪を掴みながら、もう一人の顔面に蹴りを入れた
周りでは、いつの間にか、凄いギャラリーが出来ていた
隆たちの周りでも、たくさんの生徒が覗いている
「あいつ、なかなか強いな」
隆が言った
「ああ、相当喧嘩慣れしてるな」
教室の中から、片桐がこっちに気づき、出てきた
ガラ
「おい!お前がこの学校で頭はってる隆だな!」
隆の顔つきが変わった
「口のきき方教えてやろうか?」
二人は凄い近くで睨みあっている
そう、これが隆と慎也の初めての出会いだ
この頃の二人は自分が一番強いと思っている、
そんな二人が出会ったのだ、喧嘩にならない訳がない
このあと、隆、ハル、慎也は学校の裏に行き、ハルの立会いの下殴り合った
結果は隆の圧勝だ、慎也も強かったが、隆の強さは半端なかった
「おい!終わりか?」
「ハァ ハァ ハァ」
慎也は立っているのが精一杯だった
「嘘だ、こんなに強い奴がいるなんて・・・」
隆が慎也にむかって
「おい!慎也とか言ったか?まだまだだな・・10年早いな、俺に喧嘩売るなんて」
「う、うるせえ、俺はまだ、負けちゃいねぇ」
「いや、お前の負けだ、あきらめろ、上には上がいる」
ハルが慎也の側に行き、慎也の肩に手をかけ言った
その瞬間、上から声がした
「何してる!お前ら!今行くから、動くなよ!」
二階の窓から顔を出し叫んでいるのは、体育の先公だ
「ば〜か!動くなよって言われて、動かない奴なんていね〜よ」
ハルは二階に向かって言った
「よし!このままふけるか?」
隆が言った
「ああ、その方がいいな、お前も一緒に来い!」
ハルが慎也を引張りながら言った
三人はそのまま学校を抜け出し、ある所に向かった
三人はしばらく走り・・・
「え!?なんで、お前の家に来たの?」
ハルが隆に言った
「こいつの傷、手当てしないとな、それに着替えも必要だろ」
慎也はビックリした
「はあ?いいよ、俺は帰る」
慎也は言った
「いいから入れよ」
隆は慎也を引っ張って家の中に入って行った
「痛いか?」
「・・・」
「何とか言えよな」
ハルが慎也の腕に消毒液をかけながら言った
ガチャ
「よし!これ着ろ、」
隆が部屋に入ってきた瞬間、慎也に向って上下のジャージを投げた
慎也はビックリした、
「お前ら、なんでここまで、俺に良くするんだ?俺はお前に喧嘩を売ったんだぞ!」
隆は振り返って
「別に良くしてるつもりはないけどな・・・まぁ、お前みたいな奴は嫌いじゃないけどな」
慎也は顔が赤くなった
「いいから早く着れよ、遊びに行くぞ!」
隆が言った
慎也はたたんであるジャージをひろげた
「・・・ダサ・・」
慎也がボソッと言った
「ははは、言うなお前!」
ハルが笑いながら言った
「うるせぇな、さっさと着れよ!ハル!お前の分置いとくぞ」
隆はハルの分の服を置き、服を脱ぎ始めた
三人は私服に着替え隆の家から出てきた
「良し!行くぞ!」
隆が言った
「どこ行くの?」
ハルが聞いた
「いいから、ついてこいよ!楽しい場所に連れって行ってやるからよ」
隆がにやけながら言った
隆の家から10分ぐらい歩くと、その場所はあった
「パチンコ屋!」
慎也がビックリしている
「おおよ、この前、親父に教えてもらってよ」
隆が言った
「本当、お前の親父だったら・・・俺やったことないよ」
ハルが自信なさげに言った
「俺も・・・」
慎也が言った
「大丈夫、大丈夫、俺に任せとけ」
隆が言った
三人は店内に入った
今まで聞いたことのない騒音と煙草の煙
大人たちが、真剣な顔で台に向かっている
隆に先導され、比較的空いている所にきた
「ここでいいだろう」
隆がうなずきながら、一つの台に座った
隆を挟むように慎也とハルが座った
「ほら」
隆が二人に一万円づつ渡した
「え?」
慎也がビックリしている
「へへへ、親父の財布から、取ってきた」
隆が悪い顔をしながら言った
「お前、帰ったらやられるぞ」
ハルが心配そうな顔で見ている
「大丈夫だ、勝てばいいだろ」
ジャラジャラ
慎也が玉を出した
「これどうやってやるの?」
「まず。ハンドルを回して・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ってやるんだ」
隆が二人に説明した
「ふ〜ん、わかった、やってみるよ」
ハルがぎこちない手つきで、パチンコをやりだした
リーチ!!
慎也の台から聞こえてきた
「ん?」
「おお、熱いよ、熱いよ、・・・・・・・・・・惜しい・ま、こんなもんだ」
隆がどっかの親父に見えてきた
大当たり!
「おおお!!なんか知らないけど。絵柄が三つそろったよ」
ハルが興奮しながら言った
「な?面白いだろ!」
隆が笑いながら言った
「ああ、こりゃ面白いわ〜」
「ああ、俺の方も当たったよ〜ははは」
慎也が初めて笑った
隆は、慎也の笑顔に満足だった、
慎也と言う人間、まるで、昔の自分を見ているみたいだった、
隆は慎也の事を、ほっとけなかった
三時間後・・・
パチンコ屋から出てきた三人組
「いやぁ〜楽しかった」
ハルが言った
「こんなに楽しいとは、思わなかった」
慎也が満足げに言った
「・・・」
隆はあからさまに不機嫌だ
それを見た、ハルが
「隆、負ける時もあるんだから機嫌直せよ、ほら、さっき貰った一万円倍にして返すから」
ハルは隆に二万円手渡した
「しょうがないなぁ〜ほら」
慎也も二万円隆に渡した
「うう・・ありがとう、お前ら」
隆は泣き真似をしながらお金を貰った
「ちゃんと、親父に返せよ」
ハルが言った
「よし、ゲーセンでも行くか?」
隆が機嫌良さそうに言った
「おい、人の話聞いてるか?」
ハルは、勝手に歩き出した隆を追いながら言った
隆たち三人は、近くにある、ゲームセンターに向かった
中に入り三人は、サッカーゲームに夢中になっていた
「あ〜あ、慎也、次、俺の番だぜ」
隆に負けた慎也は、悔しそうにハルに席を譲った
「ちょっと、トイレ行ってくるわ」
慎也がハルに言った
「ああ、わかったよ、まだここにいるから」
ハルはゲームをしながら言った
慎也は一人でトイレに向かった
慎也は、立ち便器の前で用を足している
ガチャ
トイレに入ってきた、男たち六人
「か、片桐!」
「ん?」
見たことある顔だ
「誰だっけ?」
「はぁ〜、お前なめてんのか、朝お前にやられたばかりの田淵だよ!」
顔中、絆創膏だらけの男が慎也に近づいてきた
「あ〜、思い出した、で、またやられに来たの?」
慎也が馬鹿にするように言った
「おい!こいつ誰だ?」
田淵の後ろから金髪の男が現れた
「あ、昨日転校して来た奴で、片桐って言います、朝油断している時に、殴りかかってきやっがって・・・」
「おい、おい、嘘は駄目だよ、嘘は」
慎也が用を足しながら言った
(ちぇ、こんな時に、止まらない、まるで滝だな)
バゴン!その瞬間、後ろから慎也の後頭部に蹴りが入った
慎也は、顔と前の壁が衝突した
「グハ!卑怯だぞ・・」
慎也は鼻を押さえながら、ズボンを上げた
「おい!一人見張りに立たせとけ」
金髪の男が言った
「はい、わかりました」
田淵が言った
「ちょっと、ズボンについちまったろうが」
慎也が金髪の男に言った
「朝倉さん、やちゃって下さい」
田淵が言った
「上等だよ、また全員でかかって来てもいいぜ」
慎也が余裕な表情で言った
「フ・・・」
朝倉が鼻で笑いながら、慎也の顔面目掛けて、拳を突き立てた
ゴン!!!
「グハ!」
慎也はその場に倒れた
朝倉は慎也の上に、馬乗りになり殴り始めた
三分後・・・
「おい、おい、さっきまでの元気はどうした、あん?おい!」
朝倉は笑いながら殴り続けている
慎也は気を失いそうになっている
(やばいかも・・・)
その時、ゴン!トイレの外から鈍い音が聞こえた
みんなが一斉に入口の方を見た
ドン!
トイレのドアが開いた瞬間、見張りをしていた奴が、トイレの中に吹っ飛んできた
朝倉は立ち上がり入口の方を見た
「ん?何があった?」
「あ、ああ・・」
見張りをしていた奴は、あわてて、朝倉の後ろに隠れた
トイレの中に、隆とハルが入ってきた
「隆さん、ハルさん、何でここに?」
田淵はオドオドしている
「慎也・・・」
ハルが朝倉の横を通り、慎也の側へ行き、抱き起した
「大丈夫か?」
「・・・は・・さ・」
慎也はまともに喋れていない
ゴン!バゴン!ぐほ・・
隆はその辺にいた、奴等を片っ端から殴り始めた
「何で?」
田淵がびくびくしながら言った
「慎也をやった奴は誰だ?」
「俺だよ何か、文句あるか?その前に誰だよ、お前?」
朝倉が隆をからかうように言った
田淵が慌てて
「東中をしめてる隆さんです、こいつもついでにやっちゃって下さい」
「ふ〜ん、こいつ弱すぎたから、ちょっとは手ごたいあるかな?ははは」
朝倉が笑った
「ハル!慎也を頼むぞ!」
「ああ、まかせとけ」
「お前ら、絶対にゆるさねぇ〜」
隆が鬼のような顔をした
慎也は気を失いそうだったが、この顔だけは忘れないと、いつも言っていた
このあとは、その場にいた全員が隆に嫌と言うほどやられ、無事?に慎也を救い出し、隆の家へ連れて帰った
この後慎也は、目を覚ましてから、隆に「舎弟にしてください」としつこく迫り、隆も勢いに流され、ついOKを出した
慎也の中で、隆と言う存在が日々大きくなっていったのだ
凄く明るい場所、目の前に慎也がいる
「隆さん、本当に世話になりました、俺、隆さんに出会ってから、楽しくてしょうがなかった、毎日毎日が楽しみで、本当の兄貴みたいで、会えなくなるのは淋しいですけど、俺ずっと側にいますから、安心して下さい
それよりも、俺いなくて大丈夫ですか?それだけが心配です、はは・・・本当にいままでありがとうございました、幸せでした」
慎也は言い終わると、二コッと笑い、手をあげ目の前から消えて行った
ガバ
隆は布団から上半身だけ勢いよく起きた
「ん?どうしたの?」
美貴が目を擦りながら隆に言った
隆は少しボ〜っとしてから、今まで見ていたものが夢だとわかった
「ああ、ごめん、昔の夢を見ていただけだ」
「慎也君の?」
「ん?ああ、何でわかった?」
「だって、顔に涙が一杯」
隆は、夢を見ながら泣いていた
だがこの時の夢は、不思議だった、心があったかくなって、安らぎがあって、なぜか幸せな感じだった、慎也は、別れを告げに来たのだろうか?・・・夢を伝って