感情
俺達はただ、みんなと走っていたかっただけなんだ・・・
線香の匂いが余計に悲しみを増す
きれいな顔だ、まるで今にも起きてきそうだ
慎也の死に顔を見ながら、ただ茫然としか出来なかった
隆にとって、慎也の死は言い表せれないほどの悲しみ、絶望感だった
慎也の母さんへの罪悪感、愛への罪悪感、みんなへの罪悪感
慎也が死んだのは俺のせいだ、俺がいなければ慎也は死ななくてよかったんだ、だれも俺のせいだとは言わないが、心の中では俺が悪いと思ってるんだろ、そうだよ俺が悪いんだ
隆の頭の中は、罪悪感、嫌悪感、喪失感、絶望感、悲壮感、いろんな感情で一杯だった、もう自分を責める事しかできなくなっている、
「た・・か・し・・たかし・・おい!隆!」
「うん、ああ、なに?」
「大丈夫か?」
隆は周りを見渡した
ここはいつも見慣れた、慎也の部屋、だが悲しみの渦の中だ、目の前には白い布をかぶった慎也、向かい側には慎也の母が泣いている、さっき隆を呼んだのはハル、その後ろには横井と愛が目に一杯涙を浮かべている、その横には美貴もいた、それと部屋に入りきれない毘沙門天の仲間が10名ほど立っている
「慎也、ごめんな、俺さえいなければ、お前は死ななくて良かったのになぁ、ごめんなぁ、」
隆は両腕を床に付き頭を抱えた
「隆、お前のせいじゃない」
ハルは隆の肩に手をまわし、両肩を震わせながら泣いている隆を覆った
「あの子はね、この前こんな事を言っていたの」
慎也の母さんが泣きながら口を開いた
「俺はいつ死んでも悔いはない、毎日が楽しくて、今が一番幸せだ、隆さんがいて、大切な仲間もいて、愛する人間もいる、最高だ、母さん俺を生んでくれてありがと」
「って恥ずかしくなったんでしょ、顔を真っ赤にして自分の部屋に行ったの、そのあと私もね、嬉くてね、慎也は本当に幸せだったと思います、皆さん本当に感謝しています、ありがとう」
慎也の母が精一杯の笑顔で言った
「すいません、俺が代わりに死んでいれば・・」
隆が泣きながら言った
慎也の母は首を横に振りながら
「もし、隆君が死んでいたら、慎也もまともには生きられないと思います、それにそんな事を言わないで、慎也が悲しむから・・」
母は慎也の顔を見ながら言った
「うん、そうだよ、隆が無事で一番喜んでいるのは慎也君だと思うよ」
美貴が隆に近づき行った
「すいません、もうそろそろ、出棺の準備を・・・」
葬儀屋が言った
「あっ、もうそんな時間?」
母が言った
「はい、あと10分少々で・・・」
「慎也、ゆっくりおやすみ」
母が安らかな表情で言った
みんな泣いている、隆も別れを惜しむかのように慎也の顔を見ている
慎也は棺桶に入れられ、火葬場へと向かった
それから、10日の月日が経った
隆は慎也の墓の前にいた
墓の前で座り込みあの日の写真を見ていた、写真の中の慎也は笑っている
(あ!全然だめだ、二人とも笑うんだもん〜 ははは、なんで、写真を撮る前に、慎也の母ちゃんの名前を言うんだよ、わけわかんねよ〜ははは)
隆はあの時の事を思い出していた
写真の上に、涙が落ちた
「慎也、お前を守ってやれなった、一杯やりたい事があったろ、ごめん・・・」
隆は涙が止まらない
「おい、隆、」
隆はビックとして後ろを振り向いた
「ハルか、何の用だ?」
隆は涙を拭きながら言った
「おまえ、ここ三日間ず〜とそうしてるんだって、みんな心配してるぞ」
「うるせぇ、ほっとけ」
隆は墓の方に向き直った
「なに!心配して来てやったのに、それはないだろ」
「・・・」
「千春が捕まったらしいぜ」
ハルは隆の横に座った
「・・・」
「慎也の追悼集会やるんだろ」
「・・・」
「横井も相当責任感じてるらしいぜ、お前がこんな調子だからだぞ」
「・・・」
「おい!人の話聞いてるのか」
ハルは隆の襟首を掴み怒鳴った
隆は目を合わせようとしない
「なんだその顔?ふぬけたな、慎也はお前のその顔を見て喜ぶのか?慎也の憧れていた隆はこんなもんなのか?おい、目を覚ませよ!」
ハルは襟首を持ったまま、隆を揺すった
「頼む、一人にさせてくれ」
隆が今までに聞いたことのないくらい弱々しい声で言った
「フン、勝手にしやがれ」
ハルは隆の事を突き飛ばし、隆の前から消えた
隆はズボンを手で払いながらまた座りなおした
隆の頭に一粒の水が落ちてきた
「ん?」
隆は上を見た
一粒また一粒、雨が降ってきた
「雨か、慎也、お前も泣いてるのか?」
雨がだんだん強くなってきた
「隆、」
後ろを振り返ろうとした時、隆に後ろから誰かが抱きついてきた
「美貴か?」
「うん」
「風邪ひくぞ」
「隆?」
「なに?」
「責任感じてるの?」
「ああ、俺の責任だ、俺があいつを連れていかなければ、こんな事にはなっていなかったし」
「慎也君はあの時、どうして人をかばって刺されたと思う?」
「・・・」
「私が隆と付き合ったばかりの頃ね、慎也君がこんな事を私に言ってきたの「俺は隆さんが、悲しむところは見たくないんですよ、あの人美貴さんに完璧に惚れてるんです、俺からもお願いします、本気で付き合ってあげてください」って言ったの、その時は何を言っているかあまり意味がわからなかったけど、横井君をかばって刺されたことを聞いた時、何となくわかったような気がした、慎也君は本当に隆の事が大好きで、みんなの事も大好きなんだよ」
美貴は泣きながら言った
「美貴、俺はどうしたらいい?」
隆は泣きながら言った
「責任は感じないでって言っても無理だと思う、だからず〜と責任を背負ったままでいよ、そしたら慎也君の事をず〜と憶えているでしょ、辛くなったら私に言って、隆の背負っている物を私も半分背負うから、ず〜と隆の隣にいるから、一人で背負うのは重すぎる、だから二人で、ね?」
この時俺の中で何かが変わった、少し心が楽になった、本当に美貴が半分持って行ってくれたような気がしたのだ、そう、俺は慎也の事を絶対に忘れない、それが死んでいった慎也へのせめてもの償いなのだ
「美貴」
隆は振り返り美貴を強く抱いた
美貴は震えていた
「帰ろうか、風邪ひくぞ」
「うん、」
隆と美貴は立ち上がり、御墓に手を合わせ墓を後にした
帰り道
「そういえば、慎也君こんな事も言ってた」
「ん?」
「隆さんは、一度落ち込むとしばらく引きずるんだよねぇ〜、バイク廃車にした時も、慰めるの大変だったよなぁ〜、大変ですよ〜あの人!」
美貴は慎也の口マネをしながら言った
「ああ、そんな事もあったなぁ〜」
「本当、慎也君の言ったとおり、こりゃあ大変だわ〜」
美貴は歩きながら隆の腕に手をまわした
「嫌になったか?」
「ううん、すごく好き」
隆は顔が真っ赤だ
美貴も真っ赤だ
「ねぇ?」
「ん?」
「一か月に一回、慎也君の御墓の掃除に行こう、それも毎月2日の日」
「ああ、いいけどなんで二日の日なの?」
「私たちの付き合った日、慎也君に毎月の報告とお掃除をするの」
「ああ、そうだな、そうしよう」
そんな事を話しながら二人は帰って行った
隆の家・・・
「へぇ〜ここが隆の家なんだぁ・・」
「ああ、ボロイだろ?」
「ううん、そんな事ない」
「入っていくか、中」
「え!いいの?」
「ああ、部屋汚いけどなぁ」
「うん、入る」
ガチャ、隆が玄関のノブに手を掛けた
「ただいま」
隆が低い声で言いながら、靴を脱いだ
「お邪魔します」
美貴が言った
居間から父親の聡志が出てきた
「おかえ!!」
聡志は途中で声出なくなってしまった
「あ、はじめまして、橋本美貴って言います」
美貴が深く礼をした
「は、お、た、隆の父の隆です」
「何を言ってるんだ、おまえは」
隆が呆れた目で聡志を見ている
「俺の彼女」
隆が美貴を紹介した
「う、うそだ〜」
聡志は半信半疑だ
「本当だよ!なぁ」
隆は美貴になげかけた
「はい、よろしくお願いします」
「あれですよねぇ〜罰ゲームか何かで無理やり・・」
「ははは、面白いですね」
美貴が笑いながら言った
「もういいよ、俺の部屋二階の一番奥だから行ってて」
「うん、わかった」
美貴が二階へ向かった
「ごゆっくり〜」
聡志は見送ったまま、その場にボ〜と立ち尽くしている
「おい!親父何か食いもんねえか?」
「あ、あ?二階に千穂がいるから聞け」
「わかったよ」
隆も二階に行こうとした、その時
「ちょっと待った!付き合って何ヶ月なんだ?」
「一か月とちょっとかな」
「もうやったのか?」
「うるせぇなぁ〜どうだっていいだろ、ほっとけ!」
隆が聡志に言い放った
ダダダダダダダ
その時、ものすごい勢いで二階から妹が降りてきた
「すっごい、かわいい子が兄ちゃんの部屋に入って行った!こんにちわ〜って」
「ちゃんと挨拶したか?」
聡志が千穂に行った
「う、うん」
「あ〜うるせえなぁ〜俺は今心が病んでるんだ!そっとしておけよ」
隆は二階に上がって行った
「心が病んでる奴が、女連れ込むか?」
「うん、うん」
千穂がうなずいている
「でも元気出て良かったね、慎也君が亡くなってから初めて声聞いた」
「ああ、そうだなぁ」
二人は階段の前で二階の奥を見ていた
隆の部屋・・・
「なぁ?散らかってるだろ」
隆は部屋に入りながら言った
すると、美貴は部屋に掛かっている二着の特攻服を見ながら立ち尽くしていた
左側の白い特攻服、後ろには縦に四代目毘沙門天の刺繍、腕には四代目総長 小嶋 隆の刺繍がしてある
右側の白い特攻服、後ろには縦に五代目毘沙門天の刺繍、腕には五代目総長 片桐 慎也の刺繍がしてある
「こっちは俺のだ、で、そっちのが慎也に渡すつもりだった物だ、昨日出来て来たんだ、もう遅いけどね、二つ並ぶとかっこいいだろ?」
隆が言った瞬間
美貴が振り返り隆に抱きついてきた
「全然かっこ良くない、全然かっこ良くないよ」
「ん?美貴泣いてるのか?」
「危ないことしないでって言ったのに、隆も死んでたら、私・・・」
隆が美貴の頭を触りながら
「ごめんなぁ美貴、俺は今年でチームを引退するつもりだ」
「え?本当?」
「ああ、だからあと数回の集会は見逃してほしい」
「いや!」
隆は美貴の両肩を持ち引き離した
「美貴、聞いてくれ、俺にはついてきてくれてる大切な仲間がいる、俺にチームを任せてくれた人もいる、そんな人達を、俺は裏切れない」
「ごめん、わかってる、でも約束して、無事に帰って来るって」
「ああ、わかった、大丈夫」
隆は美貴をもう一度抱きなおした
美貴は涙を拭きなおし、その場に座った
「ごめんね」
「ううん、いいよ」
隆は美貴の隣に座った
美貴は隆の肩にもたれかかった
「美貴?」
「ん?」
「今日、泊って行けよ」
「え?」
美貴はビックリしたと同時に戸惑いもあった
「ごめん、無理だよな、門限あるしな」
そう美貴は19歳にもなって門限があった、それは夜の23時、隆は美貴を送るときは必ず門限までには送って行った
「・・・・・うん、じゃ泊まる」
隆は物凄くびっくりした、と同時に嬉しさが込み上げてきた
「え?マジ?本当?」
「自分で言ったんでしょ?それとも冗談で言ったの?」
隆は首を横にふった
「すげ〜嬉しい、でも大丈夫か?」
「うん、友達の家に泊まるって、あとで電話する、今日はず〜と一緒だね」
「う、うん」
このあと、美貴が部屋の掃除を初め、出てきたアルバムなどを見ながら夜を迎えた
この夜の事はあまりよく覚えてはいないが、
美貴を初めて抱いた、体中が震えた事をを鮮明に記憶している
今までにない事だった、今まで快楽の為だけに女を抱いていた俺には新鮮だった、満足感と言うか、独占感と言うか、なんとも不思議な気分だった
隆は完全ではなかったが、美貴のおかげで、慎也の一件を受け入れることができた
愛してるよ・・・美貴