花束を君に
ツイッターで募集した三題噺です、
「花、青、雪」
僕は急いでいた。
彼女との初めてのデートだというのに、まさかの待ち合わせ時間ギリギリだったからだ。
別にどうということはない。彼女へのプレゼントと思って花束を買っていたらこんな時間になってしまったのだ。完全に時間管理ミスだ。
我ながら寒い中走っているのはどうかと思うが、待ち合わせ場所まではあと500mもない。
きっと彼女はもう来ているだろう。
寒い中、一人で待っているだろう。
周りのカップルなんかを見て、なかなか来ない俺のことを怒っているかもしれない。
うわぁ……怒ってたらどうしよう。
彼女の誕生日にわざわざデートに誘ったのに、誘った側の俺が遅刻って、最低じゃん。
これで振られたらこの花束で殴ってもらおう。バラの刺とかで血まみれになっても悔やみきれないだろうなぁ。
そんなことを考えていると、待ち合わせ場所が見えてきて、そこに立っている一人の女性の姿も見えてきた。
俺は急いで駆け寄った。
「お待たせぇええええええっ!?」
と、言いながら盛大に滑った。
まるで漫画のように足を滑らせて背中で着地して、スカートを履いている彼女の真下に仰向けスライディングを決めた。
もしそういう競技があるならば、きっと10点満点をもらえたであろうが、そんな競技はこの世に存在しない。
若干呼吸困難になりながらも目を開いてみると、おどろいた顔をしながらもスカートを手で押さえて中が見えないようにしている彼女が見えた。中は見えなかった。
「……覗き魔?」
「げほっ。そんなつもりはなかったんだけど、遅れてごめん」
「ワタシも今きたとこデス」
むくりと起き上がるときに、地面に手で触れてわかった。
どうやらここ最近の雨のせいでできた水溜りが、今日の寒さで凍ってしまったということらしい。そこに足を取られたというわけか。
「ダイジョウブ?」
「あー大丈夫だ」
「問題ナイ?」
「ノープロブレムだ」
「それはOKデス」
彼女は海外からの留学生だ。
今年一年間の留学なのだが、今年度で国に戻ってしまうということで、あと4ヶ月ほどで帰国してしまう。
その前に告白をと思って、誘って、OKをもらったのが今日というわけだ。
立ち上がり、彼女の横に立つ。
青くて透き通った瞳で俺のことを見つめていた。
「ケガない?」
「背中がちょっと痛いくらいかな」
「このヘン?」
「だ、だいじょうぶだからっ」
どうしてこうも外人はスキンシップが平気なんだろうか。
俺の方が急に触られてビックリしたわ。服越しだけど。
「ところで、ソレなに?」
彼女は俺が手に持っていた花束を指差した。
俺が目の高さまで花束を上げると、彼女が不思議そうに聞いた理由がわかった。
花束は、転んだ拍子にぐちゃぐちゃになっていて、もはや元・花束となっていた。
がっくりと肩を落とす俺に、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「もしかしてワタシにくれるものだったノ?」
「そうなんだけど……これじゃあカッコつかないよな……仕方ないから捨てるよ」
「捨てるならワタシにクダサイ」
「へ?」
彼女が見せるいつも通りの笑顔のまま手を差し出してきた。
バラは花弁が散ってしまって原型を留めてないし、他のだってもう微妙だ。そのへんで摘んできた花の方がまだ綺麗に見えるかもしれない。
「これが欲しいのか?」
「ハイ。せっかくの贈りモノなのに、捨てるなんてモッタイナイデス」
「でもぐちゃぐちゃだし……」
「日本人、モッタイナイ精神がスゴイと聞いてマス」
「いや、まぁそうだけど」
「アナタも日本人を見習ってクダサイ」
「俺は生粋の日本人だけどな」
「ツベコベ言わず早くヨコシナサイ!」
俺は彼女に元花束を渡した。
それを笑顔で受け取った彼女は、嬉しそうに花を撫でた。
こーゆー屈託のない笑顔にやられたんだろうか、と今になって思った。
「OHー!」
急に何かを見つけたようで、彼女がテテテテと走っていった。
俺もそのあとについていくと、彼女は道路沿いの小さな木の根元にしゃがみこんでいた。
と、そこに花束をそっと置いた。
「これでダイジョーブ!」
まるで交通事故現場みたいだ。
などとは言えず、満足そうに笑う彼女につられて、俺も笑った。
彼女が良しとするなら、それもまたいいのかもしれない。
「オー! 雪デス!」
「おー」
寒い寒いと思っていたら、やっぱり降ってきた。
いつもならうっとおしく感じる雪も、嬉しそうに上を見ている彼女と一緒だと、なんだか幸せな気持ちになってくる。
「なぁ」
「ハイ?」
「好きだ」
「ハイッ! ワタシもデス!」
そう言って微笑む彼女は、とても可愛かった。
数年後。
彼女が帰国したあと、手紙や電話でのやりとりが続き、俺たちの関係は終わることはなかった。
そして俺は、彼女と共に生活するために、今度は俺の方が彼女のいる国へとこれから旅立っていくのであった。
おしまい。




