ある発明による世界の改革
―― 時は21XX年、人類はようやく本格的な宇宙開発に踏み出していた。
かつて、アメリカが月面着陸を果たしてから、世界各国の宇宙開発は莫大な費用をかけながらも牛歩のごとき速度での緩やかなものでしかなかった。
それを一気に解消したのが10年ほど前に、日本の町工場で行われていた田中太郎博士によるある実験である。
後に「タナカ革命」とネットで祭り上げられ、いつの間にか世界共通の単語になってしまったこの実験は、かつて流行したプロジェクションマッピングや、3D投影の流れを受け、いかに非現実のものを現実に投影するかを研究するものであった。
ものすごくわかりやすくいうなら「二次元が来い」ということである。
三次元に二次元を投影する。もちろん、大きな装置を使ったりいくつかのスクリーンなどを複合すればそれらしいことはできる。
だが、それだけでは納得できない人間達がいた。
それこそがジャパニーズオタク。野生の技術者とも言える人間達が共同で、立ち上げたプロジェクトに田中博士は参加していた。
そして、そこでひとつの結論に至る。
「妄想こそがパワーである」と。
人間の妄想力、むしろ、脳科学的にはクオリアと呼ばれる人が物事を感じる感覚の仕組み、それこそが自分達の求めるものであり、脳内で明確に二次元を感じ取れたならばそれはすでに現実なのであるという結論に至った。
方向性を立てたならそれ以降は早かった。莫大な演算処理をどうするのかという問題もあったが、ユーザー自身の脳に演算を肩代わりさせることによって
後に、宇宙開発を始め、軍事、医療、スポーツ、学習などあらゆる分野で活躍するVR技術の確立である。
この件により、名前は平凡だが、稀代の天才であると田中博士は有名になり、特許や技術提供で得た莫大な資金を元手に
VRサービスを商材とする「株式会社レボリューション」こと通称REVO社を設立。REVO社はマニアックなこだわり、ユーザーライクな姿勢で有名なゲーム企業SAGAと技術提携、ドリームパスポート通称「ドリパス」と呼ばれるヘッドギアを開発。
これにより幾多の家庭用コンシューマーゲーム機が作られ、そしていよいよ、本日。
かつてから多くのサブカルファンから熱望されていたジャンルであるVRMMORPGその第一号「Elysium online.」をリリースした。
この物語はその初期出荷分である5万台のうちの一人になった一人の青年の物語である。