体育館の倉庫裏という定番。
設定、詰め込みすぎました…
部活動に勤しむ生徒たちでひしめく校内。
吹奏楽部のつき抜けた金管楽器やバスケのシューズ音、剣道部のかけごえ。
そんな青春が響いてくるのに、ここ体育倉庫裏には不穏な空気がただよっている。
よどむ空気の発生源は、約10名の女子。彼女たちの視線は一人の女子生徒へ集中している。
取り囲む人々のなかでひときわ目立つキツネ目のリーダー格――の、隣にいる人が円の中心を睨んだ。
「あんた、調子乗りすぎ。」
「なんのことです?」
背後は倉庫の壁、前には般若のお面一歩手前の女子軍団に囲まれた者が答える。
うざったいほど伸びきった黒髪に隠れて顔が見えないが、退路をふさがれているのにおびえているようなそぶりはない。
「は?とぼけんのかよ。」
「家が近所だからって調子に乗りすぎじゃない?!」
思うような反応が得られなかった女子軍団…とくに脇を固める人たちが騒ぎだした。
「ああ。貴文のことですか。いつもいつもお疲れさまですな。」
「雑魚のくせに、呼び捨てすんなっ!」
「あんたと貴文さまは違うんだからさあ!」
だいぶ痛い発言も、キツイ口調のおかげで相手を震えさせるに足る攻撃となる。しかし、他なら涙目になっているであろうこの剣幕でも、その者は平然としている。そして髪をかきあげずにゆらりと、彼女たちに近づいた。足がなければまさにユーレイのような奇怪さだ。
「別に、調子乗ってなんか。友だち呼び捨てにしてなにがおかしいのでしょうか。…わたしにしてみれば、貴文に熱をあげる理由がわかりません。ですから、不安にならなくても良いのです。」
「てめえ!」
不気味さに身体をのけぞらせていたうちのひとりが、完全なる般若面になった。
その手が襟元に絡み
横から拳が飛んでくる。
―止められない、か。
速度の緩まないグーの形をした手を受けるほうは、髪の奥で視認し、諦観の面持ちで目蓋を閉じた…
「なに喧嘩?愉しそうじゃん。」
だが拳は、誰かのこえによって止められた。
こえがしたほう、近くの建物から落ちてきたのは、ベルベットのような重みのあるマントの塊。
その塊はルビーのような石がついた杖を支点にゆっくりと立ち上がり、金髪長身の王子に姿を変える。
「でも五対一はひどくないか?」
仮面で顔全体を隠されているため、だれなのか分からない。
唯一のぞける瞳はサファイアを思わせる色だが、金髪含めこの学校にそのような容姿をもつ人物はいない。
しかし彼のキャンディーよりも甘いこえは、そこにいる人すべてが聞き覚えのあるものだった。