更に逆転!
異星人ロンブの大艦隊の旗艦に潜入し、艦内を翻弄したリッキー団。
艦隊総司令のブジュカは部下に命じ、彼らを「修練場」に誘導させた。
そこでブジュカは、リッキー団に一騎打ちを申し出た。
仲間が呆れる中、ドンドン話を勝手に進めるリッキーはブジュカの申し出を受け、一騎打ちを始めた。
ブジュカの装着している翻訳機の調子が悪く、お互いの言葉が相手をおちょくっているように聞こえ、リッキーはブジュカの妙なイントネーションと言い回しに笑い転げた。
「何がおかしいあるか!? あなた、私をバカにしてるあるね!?」
ブジュカが腹を抱えて笑うリッキーに顔を真っ赤にして怒る。
さながら赤鬼のようだが、残念な事に良き理解者の青鬼はここにはいない。
「そんな事ないなり、俺は至って真剣なりよ」
目に涙を溜めてリッキーは言った。
「ならばそれを態度で示すある!」
ブジュカがバンと床を蹴ってリッキーに向かって遊泳して来る。
「わかったなり!」
リッキーはようやく笑うのを止めて、ブジュカを待ち受ける。
「うりゃうりゃあ!」
リッキーの腕は、グニャグニャと肩の関節が外れてしまったのかというような動きをする。
「出たなり、蛸剣法なり!」
ユッキーが叫ぶ。キッシーが頷きながら、
「さっすが、筋トレマニアなり。肩の関節が柔らかいなりよ」
「相変わらず、妙な動きをする奴なり」
ツッキーはうんざり顔で呟いた。
「おのれ、気味の悪い動きをするあるね!」
ブジュカも変幻自在のリッキーの剣撃を受け止めるので精一杯のようだ。
「勝ったかもなり!」
ユッキーが身を乗り出して言った。
その頃、地球連邦政府の超巨大戦艦の中にある教会では、着々とザキージフとリオカの婚礼の準備が進められていた。
(大丈夫かしら、リオカさん?)
式場の設営を手伝っているミコは不安そうに手際良く敷かれていく赤の絨毯を眺めていた。
一方、その当事者であるリオカは、度重なるザキージフの催促をあらゆる理由をつけてうまく交わしていたが、そのネタも尽きて来た時に、
「緊張のあまり、眩暈がしてしまいました」
と一緒にいたミユの機転で何とか時間を稼いでいた。
「どうしよう、もうこれ以上時間稼ぎできないよ」
ザキージフから逃れるために入った控え室の中で、リオカは本当に眩暈がしそうになっていた。
「大丈夫、リオカさん?」
白のドレスに着替えたユマが心配して声をかけた。
「ありがとう、ユマちゃん。大丈夫よ」
あまり大丈夫でもなかったが、リオカは作り笑いをして応じた。
「ユッキー達、大丈夫かしら?」
ドレスを控え室のクローゼットにかけたままで、ミユが呟く。
「あら、絶対大丈夫ですよ、ツッキー達は」
ユマが笑顔全開で言う。ミユはユマを見て、
「楽観的ね、ユマは」
「違います。私達が信じてあげなくて、あと誰があの人達を信じてくれるんですか?」
ユマは真剣な表情で続けた。リオカとミユはビックリしてユマを見た。
「地球人達の中で、ツッキー達が異星人と戦っているのを知っているのはごく限られた人達です。そのうちの大半の人達が、ツッキー達を只の捨て駒だと思っているんです。だから、私は最後まで信じる事にしました」
ユマのプチ演説にリオカとミユはプチ感動していた。ユマは苦笑いして、
「正直言って、最初はツッキーって気味が悪くて嫌いでした。毎回撮影現場やスタジオに現れて、ジッと私を見ていて。でも、乱暴なファンや、常識のないファンを叱ってくれて、私のファンクラブを統制してくれたんです。だから今では彼の事が大好きです」
「おお!」
思わず拍手してしまうリオカとミユである。
「あ、やだ、何言わせるんですか、もう!」
自分が爆弾発言してしまったのに気づいたユマは顔を赤らめて俯いた。
「私もよ。ユッキーって、引っ込み思案の度が過ぎていて、あまり恋愛経験が豊富でない私ですら、『こいつ、私に気があるのでは?』とわかったほどよ。でも、今ではそんな不器用な男もいいかなって思えるようになったの」
今度はミユがお惚気タイムである。リオカは思わずユマと顔を見合わせて肩を竦めた。
そして、冥王星。
獄長のコーンラは、溜息ばかり吐いている。
(私、あの時どうしてあんな事を言ってしまったのかしら?)
コーンラは、リッキーに、
「デートしてくれるんだろう?」
と言った事を後悔していた。
(あいつには、大統領令嬢のリオカがいるのに。私となんか、デートなんかしてくれるはずないのに)
いやいやをしているコーンラのところに、
「所長、大変な事がわかりました!」
と看守の一人がドアを開けて飛び込んで来て、凍りついてしまった。
「な、何だ、続けろ」
コーンラは赤くなった顔を帽子を深く被って隠しながら言った。
看守は何とか硬直を解いて、
「最深部にある特別独房のシステムが何故か稼動しています。誰かが入れられているようなのですが?」
「そんなはずはない! 特別独房は節電のため稼動させていないし、該当する服役者もいない。機械の故障ではないのか?」
コーンラは立ち上がって鬼の形相で看守を睨みつけた。看守は少しだけ漏らしながら、
「いえ、システムは正常です。間違いなく稼動しているのです」
と震えながら答えた。
「案内しろ!」
コーンラは大股で歩き、所長室を出て行く。
「あ、はい!」
看守は慌てて内股気味に彼女を追いかけた。
リッキーとブジュカの戦いはまだ続いていた。
どちらも疲弊し、肩で息をしている。
ブジュカは右腕を押さえた。リッキーの蛸剣法の剣撃を受け続けたため、腕が痺れているのだ。
「歳の差が出たなりねえ、おっさん」
リッキーがニタリとして言うと、ブジュカはムッとして、
「私はまだ二十九歳あるよ! あなたこそいくつあるか!?」
ブジュカの回答にリッキーは唖然とした。
(異星人の歳はわからねえなあ)
リッキーにはブジュカは五十代に見えていたのだ。
「ちょっと老けてるなりね」
ツッキーが呟く。彼はブジュカを三十代後半と見ていた。
「俺はその倍だと思ったなり」
キッシーもブジュカ五十代説支持者のようだ。しかも後半だ。
「歳相応でしょ?」
ユッキーはブジュカを二十代後半と思っていたようだ。
「何だ、俺達と変わらないなりか?」
リッキーは苦笑いしてブジュカを見た。
「我がロンブでは、初対面の人に年齢を聞くのは一番失礼な行為あるよ! あなた、許さないある!」
ブジュカが猛然とリッキーに襲いかかって来た。
「うお!」
一瞬出遅れたリッキーは防戦一方になってしまった。
「あなたの太刀筋、全部見切ったあるよ!」
ブジュカはリッキーの蛸剣法を完全に封じてしまった。
「俺の裏筋を見たなりか?」
りっきーは思わず品のない返しをしてしまう。
ツッキーとユッキーが項垂れ、キッシーがキョトンとした。
「見ないあるよ、そんなもの!」
ブジュカは激怒して更に押して来た。
「うわあ!」
リッキーは遂に壁に追い詰められ、絶体絶命である。
「勝負あったあるよ」
ブジュカはニヤリとした。リッキーは額に汗を滲ませながらも、
「まだ俺は生きてるなりよ、おっさん」
と強がってみせた。するとブジュカはフッと笑い、
「そうあるね!」
と剣を振り上げる。
「わわ!」
ツッキーはとうとうリッキーの悪運も尽きたと思い、目を伏せ、手を合わせる。
「迷わず成仏してくれ、リッキー。くれぐれも化けて出るなよ」
「ツッキー、リッキーは死んでないよ」
ユッキーが肩を叩いて教えてくれた。
「え?」
リッキーの方に目を向けると、ブジュカの剣はリッキーの頭の手前五センチほどで止まっていた。
「何の真似だよ、おっさん?」
リッキーは本当は震えそうなのを何とか堪えて尋ねた。ブジュカは剣を鞘に納め、
「あなた、殺すには惜しい男ある。いつかまたどこかで会ったら、その時が決着の時あるよ」
と言うとリッキーから離れ、去って行く。
「おい、どういうつもりだ? 負けた俺は何もしなくていいのか!?」
リッキーは納得がいかない顔で怒鳴った。
「リッキー、助けてもらったんだから、そんな事言っちゃダメだよ」
ユッキーが慌てて言う。話を蒸し返すリッキーに焦ったのだ。
「あなた達の勇気に免じて、今回は撤退するある。次はこうはいかないあるよ」
ブジュカは背を向けたままで答えた。
「け、かっこつけやがって」
リッキーはニヤリとして去って行くブジュカに敬礼した。
ツッキー達もそれに倣って敬礼した。
そして、コーンラと看守は、冥王星刑務所の最深部にある特別独房の前にいた。
「中に誰かが閉じ込められているようです」
独房の前にあるコンソールパネルを操作しながら、看守が言った。
「一体誰が?」
コーンラは眉をひそめ、腕組みをした。
ブジュカがリッキーに止めを刺さなかったのは、情けをかけたからではなかった。
彼らの聖地であるカインを地球人達が開発した裏にある者の関与が発覚したからだ。
「おのれ、コーツリめ。まだ残党がおったのか」
ブジュカは前方を睨み据え、ブリッジを目指した。