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宇宙戦隊リッキー団  作者: りったん
6/10

リオカ危機一髪!

 禁固二万年の方が良かった。宇宙酔いをしてしまいそうなくらい激しい動きをして、敵の攻撃をかわすキッシーを横目で見ながら、ユッキーは思った。


(多分、もう二度とミユには会えないんだ)


 そう思うと、酸っぱいものと同時に涙もこみ上げて来る。


「ユッキー、タイミング任せたよ!」


 キッシーが叫ぶ。ユッキーはハッと我に返った。


(俺はまだ生きている。生きているじゃないか!)


 大昔の映画の名台詞を知るはずもないのに、ユッキーは心の中でその言葉を反復する。


「オーケー、キッシー!」


 ユッキーは目の前のモニターを見つめ、両手で二つのダイヤルを握りしめた。


「へいへい、そんなんじゃ、当たんないよ!」


 キッシーはノリノリで小型艦を縦横無尽に操縦していた。




 一方、蝿のように飛び回る小型艦を攻撃しているロンブの艦隊では、総司令のブジュカがイラついていた。


「そのような手緩い攻撃では当たらぬ! それより、その鬱陶しい飛行物体を発進させた艦を探知できぬのか?」


 ブジュカは鬼の形相でレーダー係を睨みつける。レーダー係は失禁しそうになりながら、


「はい。付近には、敵の散布したと思われる無数の誘導弾の破片が散乱しており、識別が不可能です」


「おのれええ!」


 ブジュカはドンとキャプテンシートの肘掛けを叩き、折ってしまった。


(この恒星系の異星人にしては、知恵が回るようだ。どうする?)


 ブジュカは目を閉じ、腕組みした。


 


 その「知恵が回る」とブジュカに評されたリッキーは、出撃したユッキーの代わりに通信席に陣取っていた。


「さてさて、どこにいるのかな、親玉ちゃんは? キッシー、もっと挑発しちゃって! それから、そろそろゴムゴム戦法、開始してくれっかな」


 リッキーは通信機を微妙に操作しながら、キッシーに指示する。


「了解!」


 キッシーの威勢のいい返答が返って来た。


「親玉ちゃんの旗艦の位置が正確に割り出せたら、そこに向けて正確無比な空間跳躍、頼むぜ、ツッキー」


 リッキーは右手の親指を突き立てて、ツッキーにウィンクする。ツッキーは肩を竦めて、


「わかったよ、艦長」


と答えてから、前方に見えるたくさんの閃光に目を向ける。


「にしても、すげえな、あの攻撃。地球を殲滅したっていうのも、本当だな」


 するとさっきまでおちゃらけた顔をしていたリッキーが真顔になり、


「それが一番ムカつくんだよ。連中の宣戦布告状、翻訳後のものをさっき読んだけど、『我らが聖地を荒らした報いは死を以って償ってもらう』とか書いてあった。だったら、その聖地とやらを荒らした『ギンガ』の乗組員を全員殺した時点でおしまいだろ? 何で地球まで攻撃するんだよ?」


 ツッキーは妙に熱く語るリッキーに驚いていた。


「連中、何か勘違いしてるんだよ。自分達が俺たちより上だって思ってやがるんだ。そんな奴らは、徹底的にお仕置きしないとな!」


 リッキーはそう言ってニヤリとする。その顔は、かつて「歩く生殖器」と揶揄された頃のものだった。


「何考えてるんだ、お前?」


 ツッキーはリッキーの目的が違う方向に向かい始めたのを感じていた。


 


 キッシーは艦隊のあちこちを巧みに動き回る。


「いっけえええ!」


 ユッキーが両手でダイヤルを思い切り回す。すると小型艦の先端にあるノズルからビヨーンとゴムが飛び出す。このゴムも、天才発明家のツッキーが考案したもので、マイナス二百度の世界でもその伸縮性を保つ特殊素材だ。


 ノズルから飛び出した特殊ゴムは、近くにいた艦にボシュンと張り付いた。


「よし!」


 それを確認したキッシーがゴムを引っ張りながら艦の間を潜り抜ける。


 ゴムをグングン伸ばしながら、キッシーは艦隊の中をグルグルと飛行した。




「何をしているのだ、連中は!?」


 小型艦のしている事が理解できないブジュカは首を傾げていた。


「やはり、こんな辺境の異星人の考える事はわからん」


 ブジュカがそう呟いた時だった。


「うわああ!」


 突然、付近の艦が動き出し、ぶつかり合い始めた。


「何だ、どうした?」


 ブジュカはブリッジの窓の向こうで混乱する艦隊を見て尋ねた。


「異星人が何かを仕掛けたようです!」


 部下が決まり切った事を報告したので、ブジュカは、


「そんな事はわかっている! 何が原因か調べろ! あのような小さい船に何ができるというのだ! 貴様ら、もっと頭を使え!」


と怒鳴り散らした。


 


 ロンブの大艦隊が、ゴムゴム戦法で大混乱に陥っているのを見て、キッシーとユッキーはハイタッチして喜んだ。


 艦隊の間をゴムを引っ張って飛び回った小型艦は、最後にその端を別の艦に貼り付け、ゴムが縮む溶液を噴射した。その途端あちこちに貼り巡られたゴムが一斉に縮み出し、艦を引き寄せたのだ。


「よおっし、バンバン、混乱しちゃってよね、異星人さん。で、通信しまくってくれよ」


 キッシーはぶつかり合いながら爆発して行く敵艦を見て呟く。


「上出来だ、キッシー、ユッキー。戻ってくれ。次は親玉ちゃんの船に乗り込むぞ」


 リッキーの声が通信機から聞こえる。


「了解、艦長!」


 キッシーとユッキーはビシッと軍隊式の敬礼を決めた。


 


 太陽系外縁部にある地球連邦政府の超巨大戦艦の大統領執務室では、


「な、何でそうなりますの、お父様!?」


 大統領のゴーウンの娘であるリオカが叫んでいた。


 ゴーウンは塞いでいた耳から手を放し、


「お前はザキージフと婚約しているのだぞ。婚礼を執り行うのに何の支障があるのだ?」


 リオカはギクッとした。


(ザキージフに近づくためとは言え、私ってば、とんでもない約束をしてしまったわ。リッキー、許して!)


 また心の中でリッキーに詫びるリオカである。


「それはそうでしょうが、今は緊急事態なのですよ、お父様! 婚礼など挙げていたら、国民がどう思う事か……」


 何とかこの場を乗り切るために、リオカは思いつく事は全部言おうと思っていた。


「緊急事態だからこそなのですよ、リオカお嬢様。戦乱が拡大すれば、私も出撃しなければならない。そうすれば、愛する貴女と二度と会えないかも知れないのです」


 ザキージフは嫌らしい笑みを浮かべて、リオカに顔を近づけて言う。


(何言ってんのよ、このキモヤロウが! あんたは最後の一人になったって、戦場には行かないでしょ、腰抜け!)


 リオカは満面の笑みを浮かべたまま、心の中でザキージフを罵る。


「ならば、そうなる前に貴女と契りを交わしたいのです」


 ザキージフが更にリオカに顔を近づける。リオカは全身に蕁麻疹じんましんが出るかと思うほどゾッとした。


「式を挙げるのがはばかられるのであれば、私は入籍だけで構いませんよ」


 ザキージフはリオカの手を取り、


「そして、貴女との愛の結晶を得られれば、私はそれ以上望む事はありません」


「……」


 リオカは我慢の限界だったが、それでも何とか堪えた。


(こいつ、結局、私の身体が目当てなだけじゃん! そんなの、ダメじゃん!)


 自分の超絶的な美しさを罪深く思うリオカであった。


「わかりました。婚礼を執り行いましょう、ザキージフ様。私も早く貴方と愛の結晶を作りたいわ」


 リオカは全身鳥肌になりながら、ザキージフにウィンクしてみせた。


(ああーん、許して、リッキー! 私が本当に愛の結晶を作りたいのは、貴方だけよお!)


 もう一度心の中で絶叫するリオカである。


 


 リッキーは敵の旗艦をまだ探索中だった。


「連中、旗艦を簡単に見つけられないように外観を全部統一してるし、大きさも均等にしてる。見つけられっかな」


 リッキーにしては弱気な事を言うと、ツッキーが思ってリッキーを見ると、


「やーい、気になって見たな、ツッキー。俺が弱気な事を言ったと思ってさ」


と大喜びしている。ツッキーは唖然とした。


「チェッ、負けちまったよ、もう」


 どうやら、キッシーと二人で賭けをしていたらしい。


「お前ら、この緊急時に何やってるんだよ……」


 ツッキーは項垂れかけたが、ユッキーと共に抗議してやろうと思い、ユッキーを探すが、姿がない。


「はーい、おまたあ。宇宙サッポロラーメンできたよお」


 呑気な顔をしてトレイに大昔のどんぶりのような形の容器を四つ載せたユッキーが現れた。


「あああ……」


 怒る気力も失せたツッキーであった。

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