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宇宙戦隊リッキー団  作者: りったん
5/10

READY GO!

 不安定な軌道を描いて太陽の周りを回る小惑星イトカワの中から発進したその名もススキノは、次第に速度を上げ、異星人「ロンブ」の大艦隊が集結している海王星付近を目指した。


「どうするつもりだ、リッキー? 現在確認が取れている異星人の艦隊の規模、総数一千だぜ?」


 オートパイロットの設定を終えた操縦席のツッキーがキャプテンシートのリッキーを見やる。リッキーは只今専用のコスチュームに着替え中で、半ケツ状態だったが、


「まあ、何とかなるんじゃないの? お前のあのミラー弾幕でさ」


と言った。ツッキーはリッキーの大きなおできがあるプリッとした尻から目を背けて、


「その手で行くしかないか」


と腕組みをして窓の外を見た。


「で、畳みかけるようにゴムゴム戦法で行く」


 ようやく全身タイツのような漆黒のコスチュームに着替え終わったリッキーは、フワフワとブリッジ内を遊泳し、ツッキーと索敵用の席に着いているキッシーの間に来た。


「その後は、俺とユッキーの撹乱戦法で、一気に形勢逆転だね?」


 キッシーは嬉しそうにリッキーを見上げた。だが、ブリッジ右後方の通信席のユッキーは憂鬱そうな顔をしている。


「最終的には、敵の旗艦を見つけ出して、白兵戦だ。大将を潰せば、連中も引き上げるだろ?」


 リッキーはツッキーとキッシーの肩に腕を回す。


「その前に敵艦隊に蜂の巣にされるかも知れないぞ」


 慎重派のユッキーが水を差すような事を言い出す。リッキーは苦笑いしてユッキーに目を転じ、


「おいおい、やな事言うなよ、ユッキーちゃんてば」


 彼は三人を見渡しながら、


「それより、早く専用コスチュームに着替えろよ、お前ら。防弾・耐電・耐熱の優れもんなんだからさ」


 何故かツッキーもユッキーもキッシーも乗り気でない顔をしている。


「コスチュームデザイン、誰がしたんだ?」


 ツッキーが嫌そうな顔で尋ねる。リッキーはニヤリとして自分を親指で差し、


「もちろん、俺」


 ツッキーは溜息を吐き、


「前から見るとそれなりにカッコいいのに、どうして背中に昔の文字が一文字入ってるんだよ?」


「いいじゃん、別に。仲間っぽくていいだろ、こういうのって」


 誇らしそうに胸を張るリッキーの背中に書かれているのは、大昔の「日本語」の「り」だ。


 当然の事ながら、ツッキーのコスチュームには「つ」、ユッキーのものには「ゆ」、キッシーのものには「き」が入っている。


 昭和の時代で言うと、銭湯の下駄箱みたいである。特にユッキーのは「ゆ」なので、銭湯そのもののようだ。


 無論、リッキー達の時代には銭湯など存在していないし、「日本語」も使われなくなっていて、その意味を知るものはほとんどいない。


 超レトロ好きなリッキーが調べて、自分達の名前に似た音の文字を当てはめてみただけなのだ。


 ちなみに、リッキー達はそれが昔の「日本語」だという事を知らない。


 そして、イトカワにランディングを試みた探査機を送ったのが「日本」だという事も知らないのだ。


 更に言えば、彼らの船のススキノという名前も「日本語」だったという事も承知していない。


「何となくカッコいいから」


 命名者のリッキーの談である。彼は、前世はきっと日本人なのだろう。


 リッキーは渋る三人を急き立てて、無理矢理着替えさせた。


「ほーら、カッコいいじゃんよ」


 リッキーはご満悦な顔でキャプテンシートに戻った。


 ツッキーとユッキーとキッシーは顔を見合わせて肩を竦めた。


 


 一方、偵察部隊を送り出した「ロンブ」大艦隊の総司令であるブジュカは、その報告を受けていた。


「たった一隻、だと?」


 ブジュカはキャプテンシートの上から偵察部隊の隊長を睨んだ。隊長はビクッとして後退あとずさりながら、


「はい。この恒星系にある小惑星の一つに接舷し、そこから別の船でこちらに向かっているようです」


「こちらに向かっているだと!?」


 ブジュカは遂にシートから身を乗り出し、隊長に掴みかからんばかりだ。


「どういうつもりか!? 自殺行為ではないか!? それとも我らは見下されているのか!?」


 ブジュカのあまりの迫力に隊長は失禁しそうだ。


「只今、その異星人達の意図を引き続き調査中です」


 隊長は泣きそうになりながら答えた。少しチビッてしまったらしい。


「それを先に言え、バカ者め!」


 ブジュカは再びシートに身を沈める。


「気に病む必要はないようだ。この恒星系の知的生命体は、我らと違って腑抜けばかりだな」


 ブジュカはニヤリとしてから、


「調査はもういい。捨て置け」


「は!」


 隊長は若干湿ってしまった股間の部分をもぞもぞさせながら、ブリッジから出て行った。


「つまらん」


 ブジュカはそう呟くと、目を閉じた。


 その時だった。


「我が艦隊の周囲に無数の敵艦らしきものが出現しました!」


 レーダー係が絶叫した。ブジュカはもう数秒で深い眠りにつけるところだったのを邪魔され、


「何だと!? 何故今まで気づかなかった!?」


と怒鳴った。レーダー係はアタフタしながら機器を操作し、


「空間跳躍したとしか思えません! 数およそ五千! 我が艦隊の五倍です!」


と泣きながら報告した。


「あり得ん! 何かの間違いだ」


 ブジュカは必死に否定しながらも、手元のモニターに転送されて来た映像を見て、それが現実の事だと理解した。


「全艦戦闘配置! 各砲座最大出力! 誘導弾展開急げ!」


 ブジュカは矢継ぎ早に指示を出す。


(何が起こっているのだ!? この恒星系の知的生命体の軍事力は、全て壊滅させたはずだ)


 彼は混乱から逃れようと、様々な可能性を模索していた。




「敵さん、パニックになっているようだぜ」


 操縦席で、ツッキーが嬉しそうに言う。キャプテンシートのリッキーもフッと笑って、


「さっすが、天才ツッキーだな。一瞬にして架空の大艦隊を出現させるんだもんなあ」


「へっへー、もっと言っちゃって、もっと褒めちゃって」


 ツッキーは操縦席にふんぞり返った。


 ツッキーが使ったマジックは、ミラー弾幕。


 多弾頭ミサイルを一定の場所に発射、その中に仕込んである鏡を利用し、敵艦隊そのものを写し出す。


 それを全方位に張り巡らせたのだ。だから、「ロンブ」の艦隊の「五倍」の「敵艦隊」が出現したのである。


 しかもその鏡一枚一枚にレーダーを撹乱する装置が搭載されていて、只の浮遊物も戦艦と錯覚させるのだ。


 まさに天才ツッキーのマジックである。


「本当はこれ、ザキージフのヤロウに使いたかったんだけど、まあ、いっか」


 ツッキーはリッキーと親指を立て合って喜びを噛みしめる。


「そろそろ行っちゃうよ、俺達」


 キッシーの声が通信機から響く。


「オーケー、キッシー、ユッキー。かましちゃってくださいよお!」


 リッキーはマイクを握りしめ、悪戯小僧のような顔で笑う。


「了解!」


 ユッキーが応じた。彼もテンションが高くなって来たのか、声がノリノリである。


 


「イヤッホウ!」


 ススキノの後部ハッチから、小型艦が発進した。


 ユッキーとキッシーが乗り込んでいる次なる作戦の実行艦だ。


「おうおう、どんどん無駄弾撃っちゃってよお!」


 操縦桿を握るキッシーは存在しない「敵艦隊」に一斉射している「ロンブ」艦隊を嘲笑った。


「行くよお、ユッキー!」


「おう!」


 小型艦は「ロンブ」の艦隊の下方へと回り込み、急接近を試みた。


 


 ブジュカは、敵の反撃が全くない事に気づき、敵そのものが存在しない事を悟った。


「攻撃中止だ!」


とマイクに怒鳴った。そして歯軋りし、


「おのれ、我らを愚弄した戦法を採りおって!」


と見えるはずもない敵を睨むように宇宙空間に目を向けた。


 


 地球連邦政府の超巨大戦艦は、太陽系の外縁部まで移動していた。


「何でしょうか、お父様?」


 連邦大統領の令嬢であるリオカは、父ゴーウンに呼ばれ、大統領執務室に来ていた。


 彼女は、父の傍らに嫌らしい笑みを浮かべて立っているザキージフがいるのを見て、どうして呼ばれたのか、おおよその見当をつけていた。


「お前に訊いておきたい事があるのだ」


 ゴーウンは椅子に座ったままでリオカを見た。


「訊いておきたい事? 何ですの?」


 リオカはわかっていながら、わざと尋ね返す。ザキージフは笑みを消し、ゴーウンを見た。


「お前はまだあの極悪人と繋がりがあるのか?」


 ゴーウンは悲しそうな目で言った。リオカはほんの少し胸が痛んだが、


「まさか。あんなロクでなし、どうなろうと知った事ではありませんわ」


と言ってのけた。


(ごめんなさい、リッキー! 本当は大好きよ、愛してるわ!)


 心の中で絶叫するリオカであった。

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