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宇宙戦隊リッキー団  作者: りったん
4/10

その名はススキノ

 リッキー達の乗るシャトルはささやかな空間跳躍航法をして、小惑星群の軌道付近に出た。


「何もかも皆懐かしいってか」


 ユッキーが思わず身を乗り出して狭苦しい操縦席の向こうにある所謂いわゆる猫の額程度のキャノピーから外を見る。そこには、太陽光に照らされて輝く数多あまたの小惑星があった。


「それほど昔じゃないって」


 ツッキーが突っ込む。


「ドノ小惑星ニ着陸シマスカ?」


 相変わらず辿辿たどたどしい人語で操縦席のアンドロイドが尋ねる。リッキーはニヤリとして、


「そりゃもちろん、我らが城、イトカワでしょ」


と告げた。


 イトカワ。


 遥か昔、まだ地球人類が月より外に有人飛行を果たせていなかった時代、「はやぶさ」と呼ばれた探査機がランディングに挑戦した小惑星だ。


 その形状から、「ラッコ形」と呼ぶ人もいたらしい。やがて、人類が太陽系の隅々にまで行けるようになると、小惑星群はその貪欲な連中の「餌食」とされ、多くが資源として移動させられて砕かれた。


 イトカワは、小惑星の中でも、地球に近い小惑星で、メインベルトからは外れている。その軌道は地球の内側に食い込み、火星の外側まで飛び出していて、不安定である。だからこそ、リッキーはイトカワを根城にしたのだ。


「ザキージフに見つけられて爆破されてないかな?」


 キッシーが不安そうに呟く。しかし、リッキーは大笑いして、


「あいつはそこまで俺達を恐れていないって。ザキージフにイトカワを爆破される確率より、イトカワが軌道を大きくずらして、地球か火星に落下する確率の方が高いよ」


「それにもしそうなら、奴が俺達を使うはずないしな」


 ツッキーが同意した。




 その頃、異星人ロンブの大艦隊の総司令であるブジュカは、旗艦のキャプテンシートに座り、寛いでいた。


「総司令、異星人共に不穏な動きが見られます」


 太陽系全体を見渡す事ができる巨大なレーダー網を操作していた技官が告げた。


「どのような動きか?」


 ブジュカは寛いだままの態勢で尋ねる。技官はブジュカの機嫌があまり芳しくない事に気づいたのか、身を強張らせて、


「この恒星系の第九番目の星から、第五番目の星付近へと空間跳躍をした船があります」


「空間跳躍? 星系外に向けてではなく、恒星方向に向けてか?」


 ブジュカは身体を起こし、技官を見た。目つきが鋭い。技官は殺されてしまうのではないかという錯覚に囚われた。


「偵察部隊を発進させよ。異星人共の目的を調べるのだ」


 ブジュカは傍らに控えていた副司令に命じた。副司令は踵を揃えて、


「了解しました」


と応じた。ブジュカはそれだけ言うと、まるで何事もなかったかのようにシートにもたれた。




 地球連邦大統領であるゴーウンのスーツの襟に盗聴器を仕掛けた犯人を調べさせていたザキージフは、ゴーウンの娘であるリオカが関わっている事を突き止めていた。


(あのじゃじゃ馬め、また首を突っ込むつもりか)


 プライベートルームで子飼いの兵からの報告書を読んでいたザキージフは、苦々しい顔をして、報告書を握り潰し、床に叩きつけた。


 人工的に発生させられている重力のお陰で、報告書は地球上と同じように床で若干跳ねて止まった。


「急ぐ必要があるな」


 ザキージフはプライベートルームを出ると、足早に廊下を歩いた。




 リッキー達の搭乗しているシャトルは、イトカワに接舷していた。リッキー達は、イトカワの内部をくり貫き、中に宇宙船一隻を隠していたのだ。


「ありがとさん。もう帰っていいよ。コーンラ所長によろしくな」


 リッキーは操縦室から出る時、アンドロイドに言った。


「ドウカ、ゴ無事デ」


 無機質な声で、アンドロイドは言葉を返した。リッキーは苦笑いして、操縦室を出た。


 四人は宇宙服を着込むと、シャトルのハッチからイトカワに飛び移る。


 直径三百メートル程のイトカワには、重力はほぼない。四人はフワリフワリとイトカワの上を歩き、中への通路の入り口に辿り着く。


 リッキーは蓋にあるハンドルを手際よくクルクルと回して、グイッと引き上げた。特殊合金製の銀色の蓋が開き、通路が見える。


 リッキーはツッキー達に目配せし、一番先に通路に飛び込んだ。ツッキー、ユッキー、キッシーと続いた。


「おうおう、お懐かしい姿だなあ」


 リッキーは通路を抜け、宇宙船がつなぎ止められている簡易ドックに出ると、内部の照明をONにし、光の中に浮かび上がる自分達の船を見て言った。


 流線型の白い船。全長は五十メートル。幅は二十メートル。高さは二十五メートル。


 ザキージフやリオカ達が乗っている超巨大戦艦や、ブジュカ達の戦艦に比べれば、吹かないうちに飛んでしまいそうな小さな船だ。しかし、船の性能は大きさで決まる訳ではないというのが、リッキーの持論である。


「よーし、エンジンチェックして、発信準備だ、キッシー」


 ツッキーが通信機を通じて言う。彼が設計から製造まで仕切った船である。


「了解!」


 キッシーは嬉しそうにツッキーについてハッチへと浮遊して行く。


「ユッキー、お前はこっち」


 リッキーがツッキー達について行こうとしたユッキーを呼び止める。


「ええ? 俺?」


 ユッキーはガックリと項垂れ、リッキーが進む方に身体を向ける。


 二人が向かうのはイトカワに船を隠すために造った巨大な扉だ。非常に残念な事に、予算の都合で開閉は手動なのだ。


 しかも、結構力がいる。ユッキーはそのメンバーに加えられるのが嫌で、そっと逃げ出そうとしていたのだが、リッキーがそんなユッキーの企みを見逃すはずがない。


「そうだよ。お前しかいないだろ?」


 嬉しそうに言うリッキーを恨めしそうに見るユッキー。重力がほとんどないイトカワであるが、その扉は設計ミスなのか、それとも部品を間違えたのか、動きがスムーズでない。だから力がいるのである。


「あーあ」


 ユッキーは大きな溜息を吐き、いやいや感丸出しで動き出した。


「そんな顔するなよ、ユッキー。これもミユのためだと思えばいいんだよ」


 リッキーはユッキーの思い人の名を出した。ユッキーはリッキーを見て、


「それはそうなんだけどさあ……」


 彼はまだ渋い顔をしていた。


「おーい、エンジンチェック終わったぞ! 早く扉開けろよ!」


 ツッキーの声が聞こえた。


「はいよお」


 リッキーは動きの悪いユッキーの背中を押し、扉に向かう。


「ほらほら、そんなんじゃ、ミユに愛想を尽かされちゃうぞ」


 リッキーはあらゆる言動を駆使して、ユッキーに発破をかける。ユッキーは溜息を無数吐きながら、何とかリッキーと力を合わせて扉を開ける事ができた。


「よぉっし!」


 リッキーはユッキーとハイタッチし、そのまま船へと浮遊する。船内に飛び込むとハッチを閉じ、素早くブリッジに移動する。


「お待たせ! さあ、発進だ、ツッキー」


 ブリッジの中央に備え付けられたキャプテンシートに腰を落ち着けると、リッキーは言った。


「オーケー、リッキー。我らが船、ススキノ、発進します!」


 ツッキーの掛け声でその船、「ススキノ」はゆっくりと動き出した。


 船体をつなぎ止めていた無数のロープが次々に千切れて行く。やがて「ススキノ」はその雄姿をイトカワの外に現し、太陽の光を浴びて白い身体を輝かせる。


「さあてと。これからが本番だな。どんな手で行こうかな?」


 リッキーは嬉しそうに舌舐りし、ブリッジの窓の向こうに広がる宇宙空間を見つめた。




 ザキージフは、大統領執務室にいた。


「そのような事、まだ先でも良かろう?」


 ゴーウンは迷惑そうに目の前に立っているザキージフを見上げた。


「いえ、今だからこそ、お急ぎ願いたいのです。お嬢様はまたリッキーに心を惹かれているご様子ですので」


「それに、盗聴をしていたのが我が娘とは、にわかに信じがたいしな」


 ゴーウンは腕組みをして呟く。ザキージフは一瞬イラッとしたが、


「それは紛れもなく真実なのです。ですから、急ぎたいのですよ、私とお嬢様の婚礼を」


と言った。

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