表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亜人の行進—ソロの狼煙—  作者: しまうま
第1章 譜面のない行進曲
7/8

第6話 聞こえない

 既に太陽は天辺まで昇っていた。

 洞窟の前で彷徨くシヴァの手には槍があり、肩にかけた皮袋の中には食料と水。そして、命綱となる太い蔦。

 天狼山に登るための準備を整え、彼は父親を待っていた。しかし、一向に現れない。


「いいや、とりあえず南に向かおう! 父さんに何かあったと思うべきだ 」


 そう言って、シヴァは崖を降りた。

 すかさず天狼山に背を向けて歩く。北風が彼の背中を軽く押し、自然と歩調が早くなる。

 洞窟から離れ、森の中へ。深く深く進んで行く。


 しかし、何も起こらずに空は夕焼けに変わっていた。



 彼は手頃な木に登り、夜に備えている。


「数時間歩いたのに気配も感じない……。集落からは2日間の距離なのに、丸1日以上遅れてるってことだ……。考えられる可能性を洗い出そう……」


 そうして、シヴァは沈黙し考える。しかし、あの父に起こるアクシデントが想像できない。


 段々と夕陽は沈み、闇が森を呑み込んでいく。

 時間をかけて、光は少しずつ隠れていく。


 周囲が真っ暗になった頃、彼はポツリと呟いた。


「いや、何故かなんてどうでも良いんだ。明日、俺が父を感じなければ集落にいる。病気だろうが、怪我だろうが、皆んなが父の異変に気づく距離だ」


 彼は長く息を吐くと目を瞑る。

 木に背を預けて全身の力を抜く。


「日が出たら出発だ」


 そう心に決めて、眠ろうとする。

 しかし、シヴァの意識は一向に鮮明で、微睡は来ない。


 胸にこびりついた不安が騒ぐ。

 頭の中が曇っている。


 ふと、彼の脳裏に父が浮かんだ。

 毒による衰弱。失血による瀕死。


 いくつかのアクシデントによって、あの冷たい隻眼から光が完全に失われる瞬間にやっと、自分はその姿を見つけることができる。



 シヴァは目を見開いて飛び起きた。

 彼自身も驚くほどに、それが悪夢だったからだ。


「日の出なんて待ってられない……!」


 彼は木から飛び降り、南へと進む。段々と歩速は上がり、いつの間にか走り出していた。

 嗅覚と聴覚に神経を集中させながら、彼は速度を上げていく。


 しかし、父の気配はない。ワーウルフを感じられない。


 段々と心臓の鼓動が早くなる。呼吸が荒くなる。


 夜が明けてもがむしゃらに走り続け、集落までは残り数時間の距離。太陽は天辺まで昇り、温かな気温。


 異様なほど静かな森の中で、汗だくのシヴァの足が止まった。


 彼は自身の耳を疑っていた。自身の鼻を疑っていた。

 言葉は出ない。代わりに荒い呼吸音が悲鳴のように森に響く。


 シヴァはまた走り出した。困惑のまま、足だけが前に進めと身体を運ぶ。



 彼は必死に耳を澄ませた。集落の音が聞こえない。ワーウルフの何もかもが聞こえない。


 彼は咄嗟に鼻を覆った。これまでに嗅いだことのない強い匂い。しかし、それが何の匂いかは知っている。



 灰と


 血と


 戦いの匂い


 そして、糞尿と


 人間の匂い



 シヴァの目にはまだ、何も映っていない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ