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亜人の行進—ソロの狼煙—  作者: しまうま
第1章 譜面のない行進曲
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第4話 天狼山の頂

 死者の魂は天に昇る。残された肉体は生者が焼き、煙として天へ送る。

 遺灰はその場で土を被せ、その盛り土は時の流れと自然に任せて平地に戻す。

 それが、ワーウルフの葬儀だ。


 そんな文化の集落において、天狼山の頂は古くから死者に声を届けるための聖域であった。時には、族長が天啓を授かるために赴く地でもある。


 そんな場所で戦士の儀が行われるのは、天に自身の決意を届けるため。

 そうシヴァは理解している。



「シヴァ。これを持って行って! 昨晩の残りだけど!」


 薄暗い住居の中で、明るい声色でそう言ったのは母であった。肩掛けの皮袋には肉団子でいっぱいになった包みと、片手サイズの水袋が入っている。

 その物自体に熱はないはずなのに、受け取った彼の手を温めては肩を軽くして寄り添ってくれる。


「ありがとう。母さん」


 シヴァは彼女の瞳がうっすらと潤んでいることに気がつくと、笑顔を作って言葉を続ける。


「俺、ワクワクしてるんだ。自分が何をしたいのか、何のために生きるのか。それを自分で探せるのがとても嬉しい。だから、待っててよ」


 彼は入り口に手をかけた。眩い光が入り込む。


「立派な戦士になって帰ってくるから!」


 シヴァは光の中へ、住居の外へと飛び出した。


 **********



「シヴァ。北に2日間歩け。あとは匂いでわかる」


 低い声で彼に声をかけたのは父であった。

 赤く冷たい瞳を向けて、骨でできた槍を手渡す。

 その後ろでは20人ほどの戦士達が並んでいた。


 集落の外れ。朝日が差し込む森の中で、空気は少し張り詰めている。


「2日経ってからの1か月後だ。その朝に私は現れる。そして、天狼山の頂に登る」


 族長である父の言葉にシヴァは頷くと槍を受け取った。冷たく硬いその感触を感じたかと思えば、肩に少しの重さが加わる。

 族長の後ろで並ぶ戦士は皆一様に、平然とその骨の槍を持っていた。


 その瞬間に、シヴァは初めて戦士達に共通し、自分に無い大きな違いに気づいたのだ。


 それは目だ。瞳の奥が父のように深くて暗い。

 彼らと自身では見えている景色が違うことにやっと気づけたのだ。それでもシヴァは真っ直ぐに見返すことができている。彼の目には光と力が備わっていた。


「こちらを見ろ」


 その淡々とした言葉で、シヴァは視線を族長に戻した。戦士達よりも一層深く暗い目が彼を捉えている。

 そして、族長は彼を締め付けるような低い声で語りかける。


「お前はまだ戦士ではない。これはその入り口ですらない。わかるな?」


 シヴァはゆっくりと頷く。

 すると、それを見た族長の真っ赤な瞳が鈍く光った。


 族長は少し息を吸い、言葉を溜める。かと思えば少しだけ語気を鋭く言葉を紡ぐ。


「もし人間を感じたら、絶対に察知されるな。人間に接触するのは戦士の役目。隠れる以外を許さない」


「はい。わかりました」


 族長はその返答を聞いて、彼に背中を向ける。シヴァと同じ暗い青色が混ざる灰色の毛。広い背中。

 その背中越し父は言った。


「1ヶ月と2日後。頂で話す。なぜ私が旅狼ソロになったのかを」



 その日、シヴァは初めて集落の外で寝た。

 その日、シヴァは初めて1人になった。


 ワーウルフ。

 シヴァ15歳の春。


 彼の運命は大きく変わっていた。

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