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亜人の行進—ソロの狼煙—  作者: しまうま
第2章 ソロと闇夜の行進曲
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第19話 月歩

「ワーウルフの毛皮や牙よりも、私はその力に魅力を感じている」


 そう力強く言ったのはアイミーで、その言葉を聞いたシヴァの心は騒めいていた。

 彼がそんな胸の奥に爪を立てている間に、アイミーは言葉を続けていた。


「だがそれも、私が用意したテストを易々とクリアしたからだ」


 彼女は人差し指を立てたかと思えば、ネルとシューシを順に指す。そうして、最後にシヴァに手のひらを差し伸べた。


「私の価値観は完全に、君達に変えられてしまった」


 その瞬間、シヴァの頭に何かが過ぎる。しかし、それ以上に心がうるさい。


「私の勢力に、亜人が欲しい。君達の力をあらゆることに利用したい」


「利用だと!? 不快な腹の内をペラペラと……!!」


 すると、アイミーは小さく笑う。


「そうだろう? だが本来は、不快にさせないように表情を作り、言葉を選び、探り合うものさ。互いが互いを利用できるかをね」


 そしてまた、シヴァの脳裏に何かが過ぎる。その一瞬で消えるものを追いかけるために、彼は目の前の疑念を爪で裂く。


「俺達が人間を利用する……!? 従属の間違いだろ!?」


「従属もまた利用さ。利益次第では隷属だってね。だから、君は計らないといけない。自分の利益と相手の要求が釣り合うのかを」


 そうして、アイミーはシヴァの目を真っ直ぐに言葉を続ける。


「亜人による()()()()()()()()を私は要求する。私の統治・管理のもと生活し、繁栄し、戦うことを求める。そうやって人間社会で活躍し、存在感を高めれば、他の勢力も必ず亜人を欲しがり、利用したがる」


 いつのまにか、シヴァの心は凪いでいた。意識が全て頭に向かい、心音が耳に届かなくなる。


「ワーウルフとして、君は何を求める? 何を実現したい?」


 そんなアイミーの問いかけが、シヴァの脳の奥深くに入り込む。

 それを追いかけるように、彼は自身の額を右手で触り、沈黙をした。

 深く深く、シヴァも思考する。しかし、その問いに全く追いつけない。頭の中で、閃光のように過ぎる何かが彼の目を眩ませる。


 そんなシヴァの耳に触れたのは、ネルの震えた声だった。


「アイミー。その問いは人間的すぎるよ。ねぇ、シヴァ……」


 彼女の翡翠のような緑色の瞳は潤んでいて、シヴァを映してはいるが歪んでいる。

 そんな彼女は少し息を吸ったかと思えば、さらに言葉を続けた。


「君の父シグァはね、旅狼(ソロ)になる前に、神聖な山の頂上に槍を突き刺したんだって」


 シヴァの目に浮かぶのは、天狼山の頂に突き刺さっている古びた槍で、その横に見たこともない若年の父が立っている。


「彼はそれを、人間世界から逃げるんじゃなく、進み行くためにした決意だと語ったわ」


「それってまさか……」


 シヴァは咄嗟にアイミーとシューシに視線を送る。双方が小さく頷く中で、ネルはさらに言葉を続けている。


「シグァと私は、人間世界を見て回ったの。当然、何度も血を流したよ。でも、それ以上に人間の暮らしが輝いて見えた。だから、2年もの間を旅ができたし、草案を作ることもできた。でも……」


 ネルは右目をその手で覆った。

 シヴァの目に浮かぶのは、父の潰れた右目だ。


「ワーウルフは人間にとって化け物だった。有力者の元どころか都市にすら近づけなかった。だから、見た目も人に近い私に、シグァは夢を託してくれたの。彼が言った最後の言葉が忘れられない」


 シヴァは自然と、父の声を思い出していた。ネルの声にピッタリと重なり、耳に届く。


【理解してくれる人間は絶対にいる。例え何十年かかっても良い。諦めずに探して欲しい。その間に俺は、俺にしかできないことをしてくるよ】


 そうして、ネルはシヴァに問う。


「シヴァにも、シヴァにしかできないことがあるんじゃない? 」


 しかし、シヴァの口から飛び出た言葉は弱々しい。


「俺は……父さんみたいには……」


 その瞬間、頭の中を過ぎった何かがその姿を表した。

 黄色くて丸い。輝いているが、それは決して眩しくはない。


 シヴァの目が潤み出す。心の奥が熱くなる。


 父と会う約束の日。その前日に、崖縁に腰を下ろして眺めたのは一つしかない月だった。


 奥底で燻っていた想いにあの光が届く。それにより、煙のように失くした自分の言葉が浮かび上がる。


【俺も旅に出たい。集落から逃げるんじゃなくて、多くの選択肢を得るために】


 シヴァは涙を拭いて、目を見開いた。その瞳が映すのは、ネルではなくアイミーで、彼女に向かい力強く言葉を放つ。


「俺は……シヴァ=ハンズは! 選択肢を残したい……!! ワーウルフの先頭は、俺が歩く!!」


 それを聞いた彼女は微笑んだ。


「アイミー=テイラーだ。私を利用して、大いに進み、選択肢を広げてくれ」

第2章完結

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます。

続いて、第3章もお楽しみいただけますと嬉しいです。

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