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亜人の行進—ソロの狼煙—  作者: しまうま
第2章 ソロと闇夜の行進曲
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第18話 筋道

「旅する世界も……!! 護りたい場所も……!! 奪ったのはお前達人間だろうが!!」


 シヴァは声を振るわせて叫んでいる。その長い爪で破くように毛布を掴み、引き裂くように腕に力を込めていた。

 彼に巻かれた包帯はどんどんと赤黒く染まっていく。


 それを見たネルはシヴァに駆け寄ると、その清らかな手で血塗れの側腹部に触れようとする。


「痛いよね……。今、治療するから」


 そんな柔らかな言葉をシヴァは彼女の手とともに振り払った。


「邪魔してんじゃねぇよ!! あのまま、死なせてくれよ!!」


 その言葉をぶつけたシヴァの爪に血がついた。それは彼自身のものではない。振り払った時の手が、ネルの肌を傷つけたのだ。


 しかし、彼女は悲鳴一つも上げはしない。穏やかで、優しい瞳を彼に向け続けている。

 それを見たシヴァは、自身の額を床に擦り付ける。


「ああ、最悪だ……やめてくれ」


 そうして彼は伏せたまま、自身の頭を両手で押さえて呟いた。


「本当にこれが俺……? そうか……これが俺か……」


 そうして、沈むように彼は息を吐くとさらに小さく呟いた。


「森へ帰ろう……」


 そんな時、シヴァの耳がピクリと動いた。咄嗟に顔を上げて目を丸くする。

 かと思えば、その瞳には少しの憎悪が混じりはじめた。


 彼が睨むのはアイミーだ。

 彼女は口元に手を置いて、クスクスと笑い俯いている。


「面白いだろ? 人間」


 そうシヴァが悪態をつくと、さらにアイミーの笑いは強くなる。

 しかし、シヴァの目の奥の憎しみも強くならない。

 その代わりに、彼は眉を顰めて、笑う彼女に言葉を投げた。


「嘘の笑いだろ。何の真似だ?」


 すると、ピタッと笑い声が止む。アイミーは彼の目を見つめると、ニヤリと笑って言葉を返した。


「厄介だなワーウルフは。私の嘘が2回も暴かれた」


 かと思えば、彼女は意地の悪い微笑を解いてさらに話し続ける。


「だが、今の君は本当に無様だよ。苛立ちさえ覚えるほどに」


 その言葉は侮蔑ではなかった。そして、侮辱を意図したものでもない。

 それを彼女の揺るがない真っ赤な瞳が示している。


「そんなことはわかってる……!」


「いいや、わかっていないさ」


 彼女は目を逸らさない。だからこそ、シヴァも目を逸せない。

 そのルビーのような真っ赤な瞳に輝きはなく、静かで落ち着いたそれは、水面のように揺れることもない。


 そのままアイミーは穏やかに言った。


「君は特別不幸な訳じゃない。ワーウルフには良く起こる悲劇だ」


 その言葉にシヴァは歯を食い縛る。その瞳は揺れて、言葉は出ない。

 その間に、さらに彼女は言葉を続ける。


「君達の集落と同じことが、数えきれないほど起きている。特に君達の毛皮は——」


 その言葉を遮るように、シヴァはその手で自身の足を殴った。そうしてやっと、震えた声が喉から出てくる。


「そんなの……すぐに察したさ……!!」


 そして、彼は小さく息を吸うと、言葉と共に吐き出した。


「同族を結集して戦えと言いたいのか!? なら、どれくらい集めれば人間に勝てる? 千か? 万か? それでも足りないだろうが……!!」


 シヴァの体は震えていた。自然と顔は俯いて、震えた声で言葉を続ける。


「俺達は長い年月を掛けて、こうなったんだろ……? 俺が生まれるずっと前から負けてたんだ……」


 ポタポタと涙滴が落ちて、毛布に小さなシミを作る。


「そうだな。でも、()()()()()()を見つけた奴がいたらしい」


 その言葉にシヴァはゆっくりと顔を上げた。潤んだ瞳を隠そうとせず、彼女に向けてその目を見開く。


「その者が言うに、変えるのは——」


 その後に続いたアイミーの言葉は、鋭く差し込む光だった。

 しかし、暖かくは決してない。

 シヴァを優しく照らしもしない。


()()()()()()だそうだ」


 彼は自身の腕を交互に見つめた。

 その灰色に暗い青が混じる体毛は父親譲り。

 そして、それを映す暗い青色の瞳は母親譲りだ。



 アイミーは微笑みをシヴァに向けた。


「ワーウルフよ。ビジネスの話をしないか?」


 シヴァは、冷風吹き荒ぶ天狼山の山道を思い出した。

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