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亜人の行進—ソロの狼煙—  作者: しまうま
第2章 ソロと闇夜の行進曲
18/21

第17話 表層

「ビジネス……? それは、お前達に協力をしろと言うことか?」


 シヴァの目は血走っている。彼がそう話す際に露出する牙は、その声色と共に敵意を隠せない。


 目の前の若い娘は和やかに笑ってその問いに答える。


「お互いにだよ。私達も、君に協力できる」


 それを聞いたシヴァは、彼女の顔に向かって指を刺す。その鋭い爪先を向けて、嫌悪を込めた言葉を投げる。


「お前達人間は、嘘で塗り固めた顔で協力を求めるのか……!?」


 すると、女の笑顔の質が変わる。まるで仮面を外すように和やかな雰囲気を解いて、鋭い目つきと共に口角を上げる。


「ワーウルフはこんな風に腹の底を見せ合うのか? 感情を剥き出しにして、互いの利益をどうやって計る?」


「互いの利益だと!? ふざけるなよ……!!」


 シヴァが叫んだその時、木製のドアが勢いよく開け放たれる。

 現れたのはネルとシューシで、その姉弟は共に肩で息をしている。


 ネルは状況を把握したのか、息が整うことを待たずに声を上げた。


「アイミー!!……少し待つように言ったでしょ……!?」


 そう言って近づいてくるエルフ2人に、若い娘は視線を向けない。

 シヴァを見たまま、彼女は吐き捨てるように言った。


「私は待っていたさ。だがまさか、私達のビジネスをワーウルフに話していないとはね。驚いたよ」


 その言葉と睨みつけるシヴァの暗い青色の瞳に、ネルは小さく俯いている。

 それを見かねたシューシが彼女の代わりに弁解をする。


「アイミーさん。3年前の復讐を終える前に、それを言えると思いますか?」


 彼の声は淡々としていて澱みはない。同様に曇りのない目でシヴァを見ると、更に言葉が続けられる。


「シヴァさんも、わざと刺されたりしなければ説明する時間はありましたよ。この人達に会わないという選択も尊重しました」


 そのアイミーと呼ばれる人間の娘はシヴァから視線を外し、エルフ2人に瞳を向ける。


「なるほど、事情はわかったよ。だが、先にそれを話していれば私の時間は無駄にならなかった」


 アイミーの視線が一瞬、シヴァに向く。彼女はエルフに視線を戻して更に語る。


「何か言わない理由があったんだろ?」


 その問いにはネルが沈んだ声で答えた。


「彼はシグァの息子だから……。私はシグァが残したものを信じたいの……」


 その言葉を聞いたアイミーの表情は、シヴァには見えない。だが、その耳にははっきり聞こえた。彼女は鼻で笑ったのだ。

 そしてすぐに、アイミーは言葉を投げる。


「こんな死ぬに死ねない中途半端な奴が、あの? 流石に、器は遺伝しないか」


 すると、シヴァは歯を食い縛り立ち上がった。震える膝に手を置いて、何とか二本の足で体重を支える。

 腹に巻かれた包帯が赤く染まり始めた。

 その痛みを掻き消すように彼は叫ぶ。


「黙れ!! お前が、お前達人間が俺と父さんを比較するな!!」


 しかし、アイミーはその怒号に怯まない。それどころか彼女は、挑発するように言葉を投げた。


「その言葉で読めてきたよ。お前、自分がわからないんじゃないか? 何かのために生きる父親の、想いと無念に()()()()()()が自分にはない。だから、生きるに生きれず、死ぬに死ねない」


 シヴァは歯を食い縛る。膝に爪を食い込ませる。

 その姿を見たアイミーは更に追い打ちをかける。


「ワーウルフの戦士は種族のために戦うと聞いている。では一体、()()()()()?」


「黙れ!! 俺は!! 俺……俺……?」


 その言葉にシヴァは膝から崩れ落ちた。

 床に敷かれた毛布に額を擦り付けて、ただひたすらに叫び声を上げる。


 「なんだよこれ? やめろ」


そんな思いとは裏腹に、絶叫が耳を震わせる。


 しかし、これは崩壊ではない。

 まだ、シヴァの中に火は燻っている。



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