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亜人の行進—ソロの狼煙—  作者: しまうま
第2章 ソロと闇夜の行進曲
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第14話 決着と血

「な、なんだお前らぁ!!」


 そんな怒号を発したのは、この砦の主である醜く太った中年の男だった。その裸を隠そうともせずに、側にあった剣を抜いては侵入者達に先端を向ける。富によって膨れた体と、権力によって濁った瞳が揺れている。

 その目に弓矢が映ったのか、その男は先ほどまで弄んでいた裸の女を盾にした。


「衛兵!! 早く来い衛兵!!」


 砦主は叫ぶ。しかし、返ってくるのは静寂だ。

 そんな中。固まるシヴァを他所に3人のエルフは弓を構え、矢をつがえて男と距離を詰めていく。

 その途中で、シューシは砦主に向かって言葉を投げた。


「衛兵は殺しましたし、この砦もすぐに制圧されます。ああ、細身な女性がタイプなんですか? あなたの盾には向かないですね」


「お前らエルフか!? ふざけやがって!!」


 そうして、3人は広がり射線を確保する。シューシ以外の2人は男に動くなと脅しながら、彼の号令を待っていた。


 だがシューシは言葉を投げ続ける。しかし、今度はシヴァへ向けてだ。


「で、シヴァさん。僕たちがやってもいいんですか?」


 しかし、その問いにシヴァは答えない。自身の頭に小さく爪を立てて、彼はシューシに問い返した。


「シューシ……教えてくれ。この檻と枷は刑罰か何かか……?」


 その声は少しだけ震えている。

 それを聞いたシューシは振り返らない。そのまま、何の気なく答えた。


「え? いや、どうでしょう……。僕達の社会に当てはめるなら狩猟……ですかね?」


「は? 人間は、人間すらも狩るのか……? これが、狩ったものへの扱いなのか……?」


 シヴァの言葉にシューシはやっと振り返る。


「……やっと理解できました。シヴァさん。人間の世界には上だけでなく、()()()()がいるんです。自然に生きる僕達とは異なる点です」


 シューシは淡々と言葉を続ける。真っ直ぐに事実だけを突きつけてくれる。


「人間は、()()()()には何をしたって良いと思っています。同じ人間でこれです。他の生き物にはどこまでだって傲慢に振る舞い、無下にできる。彼らにとって僕達は、自然の中の対等な存在なんかじゃない」


 それを聞いてシヴァは歩き出した。

 槍を板床に突き刺して、部屋に入る。


「人間の世界では、敬意のない狩猟が成立するんだな……」


 そのままシヴァはシューシを追い抜いて、砦主に近づいていく。


「ありがとうエルフ達。もう、終わらせることにしたよ」


 シヴァの瞳の奥の何かが揺れる。その脳裏には仲間達の墓と、積まれた遺体の光景が浮かぶ。

 そこに心からの哀れみを抱いて、前へ進む。


 砦主は叫んだ。

 ワーウルフへの侮蔑と、怒りだ。

 対してシヴァは冷たい沈黙のまま迫っていく。


 距離にして3m。そこで突然、ワーウルフは走り出す。

 裸の女を抱え、剣を持たない左手側。シヴァはそこから男に襲いかかった。


 男の叫び声が耳に響く。

 醜い声と共に砦主は、盾として抱えた女を蹴って突き飛ばす。


 シヴァに女がぶつかった。


 かと思われたその時、森の中で培った身体能力と反射神経が颯爽と障害を躱してみせた。

 小さなステップで身体を翻し、最小の減速で迫る。


 男の不快な叫び声が消えた。

 シヴァの爪が、砦主の喉を抉り潰したからだ。


 生臭い血が溢れ出る。

 すぐに男は倒れて動かなくなる。



 シヴァの手は震えていた。それは、初めて人間を殺したからではない。

 その血塗られた手に、仲間達の死がフラッシュバックしたからでもない。



 灰色に少しの暗い青色が混じる毛。それに覆われた腹が赤黒い血に染まっていた。

 染まるだけでなく、血滴が床にポタポタと落ちている。


「痛いな、これ……」


 左の側腹部に剣がつき刺さっている。彼はそれを躊躇いなく一気に引き抜く。


「でも、もういいや……」


 血が溢れ出し、足の力が抜けていく。それと共に視界が狭く、ぼやけていく。

 見上げても空はない。ただ、天井が曇天の夜空に見える。


 シヴァはゆっくりと、その意識を失った。

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