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亜人の行進—ソロの狼煙—  作者: しまうま
第2章 ソロと闇夜の行進曲
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第13話 欲望の匂い

「全体指揮をネルに任せて良かったのか? リーダーはお前だろ?」


 そう言ったシヴァが寄り掛かるのは冷たい石壁だった。石造りの薄暗い部屋では静かに、蝋燭の灯りが揺らめいている。

 その小さな光が照らすのは3人のエルフ。そして、いくつかの兵士の亡骸だ。


 その遺体から矢を引き抜きながら、エルフのうちの1人がシヴァに顔を向けた。

 薄い金色の髪が揺れ、色白な肌は蝋燭の灯りのせいで赤っぽい。女エルフのネルとよく似た顔立ちだが、その瞳は静かで落ち着いていて、表情もなかなか崩れない。

 そんな彼女の弟シューシはシヴァの問いに答えた。


「人間社会のことは姉貴が一番詳しいんですよ。だから、制圧はあっちに任せて、僕がこの別働隊を指揮してるんです」


 その返答にシヴァは吐き捨てるように更に尋ねる。


「砦主を殺すのに、わざわざ別働隊が必要か?」


 シューシを含むエルフ3人は矢を回収し終えると立ち上がる。

 手についた血をボロ布で拭いながら、歩き出す。


「姉貴は貴方に砦主を殺して欲しいんですよ。シグァさんの仇をその息子に討って欲しいんです」


 シヴァは木製の扉を開ける。石造の建造物。その廊下に彼らは出る。

 向かうのは上へと続く階段で、シヴァとエルフが通った道には血の足跡が付いていく。

 彼らの足音が空間に響くが、それを掻き消すようにシューシの淡々とした声がこだまする。


「でも、シヴァさんはそのつもりが無さそうですね。人間への殺意が見えない」


「別に……。俺が見えてないのは殺す意味だよ」


 彼らが堂々と話すのは、ここが砦主の屋敷だからだ。

 そして既に、シヴァはその主の寝室以外には人間がいないことを感じ取り、3人に知らせている。

 その部屋から出る音は、こちらの声など届かないほどに大きい。


 だから、シューシも緊張感なく会話を続ける。


「殺す意味ですか……狩猟民族らしいですね。命を奪うためだけの殺しは無意味ですか」


「別に意味なんかなくても殺せるだろうさ。復讐だ。みんなの事を思えば大義だ。ただ……なんだろうな」


 シヴァと3人のエルフは階段を登っていく。


「シヴァさん。僕は常々、姉貴のような感情で動けるバカを羨ましく思っています」


 そのシューシの言葉にシヴァは小さく笑う。


「酷い言いようだな」


「だって、感情で動けば、その想いにケリをつけることができるでしょ? 後先や周りのことを考えずに楽になれる」


「お前、苦労してんだな」


 一同は階段を登り切る。踊り場の先に一つの扉が待ち受けている。

 そこに向かいながら、シューシは更にシヴァに言う。


「こう言うと失礼ですが、貴方は1人なんです。感情にケリをつけた方が絶対に良い」


 その言葉をシヴァは鼻で笑う。

 両開きの扉の前で、彼は大きく息を吐いてゆっくりとドアノブを回す。


「姉弟揃って、余計なお世話なんだよ。まだ、こっちは整理がついてないんだ」


 シヴァは扉を開け放った。


 生暖かい風が、その身にまとわりついては冷えていく。


 彼の目に、様々なものが飛び込んできた。


 テーブルには彩りの果物や、焼いた肉とパンが盛られていた。その皿の横には宝石や金で膨れた布袋。更に壁際には、埃を被る大きな壺や絵画が並んでいる。


 しかし、シヴァの瞳に映るのは、不快で醜い光景だ。


 人間の女達が鉄檻の中で身体を小さくし、震えていた。

 更にその奥では、枷をつけられた女達の肌に触れて、中年の男が笑っている。



 シヴァの鼻を、混ざり合った強い匂いが刺激する。その耳に届く異音は次第に大きくなっていく。


「は?」


 シヴァは一瞬固まった。その揺れた瞳を何度も何度も瞬いていた。


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