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亜人の行進—ソロの狼煙—  作者: しまうま
第2章 ソロと闇夜の行進曲
12/21

第11話 受け継がれるもの

「つまり、そいつは人間社会で権力を持つために集落を襲ったのか?」


 シヴァの問いにエルフの女は少し沈黙をする。

 風に揺れる薄い金色のショートヘアを手で押さえ、翡翠のような瞳を彼に向ける。


「権力者に取り入ったと言う方が近いよ。ワーウルフの発見が稀有な理由はわかるよね? 自然と、君たち特有の勇ましさは希少品になる」


 その女の視線が、牙や爪・毛皮に移っていくのをシヴァは感じていた。

 彼の頭に浮かぶのは、仲間達の遺体の山だ。

 自身の両腕に湧き上がる、ブヨブヨとした肉の感触を握りつぶすと、彼は呟く。


「不快だな……」


「そうだね、許されることじゃない」


 その女の相槌に、シヴァは牙を剥き出しにし唸った。戸惑う彼女の目を真っ直ぐに、彼は睨みつける。


「お前を不快だと言ったんだ……!! そこまで知っていて、何故そんな態度でいれる!? まさか俺が言うまでずっと、その噂とやらが父さんとは関係ないと思っていたのか!?」


 すると、咄嗟にエルフの女は目を伏せて首を垂れる。


「本当はこの墓を見て全て察していたの。気づいていないフリをしたのは、どうしても生き残りのワーウルフに協力してもらう必要があったから……。人間の匂いのする私達と衝突がないようにしたかった」


「ふざけやがって……。協力、協力。それに仇討ちなんて言葉で俺を焚き付けようとまで。お前達は砦を襲いたいだけなんだろ、違うか?」


 シヴァは力強く槍を握る。木でできた柄が、軽く軋む。


 そんな時、2人の間に割って入ったのは、その女と顔の似た、薄い金色の髪の男エルフだ。


「姉貴が失礼をすみません。ご指摘の件、確かに砦を奪うのが我々の目的です。それにはどうしてもワーウルフの力が必要なのも事実です。ただそれは、この一団全体の目的。姉貴だけは違います」


 冷静に、それでいて力強い言葉と動じない緑色の瞳。

 その後ろで女のエルフは同じ瞳を潤ませている。


「シグァは隠れ住むことを恥じていた。世界の外で生きることは屈辱だと言っていた。だから、私は決めたの! ワーウルフの敵が現れたら、一緒に戦おうって!!」


 彼女の言葉を聞いたシヴァはゆっくりと息を吐く。肺から出る空気と共に、思考をゆっくりと抜いていく。段々と昂った感情は鎮まっていき、槍を握る手も緩む。


「名前は?」


 そう言ったシヴァの視線はエルフの女に向いている。

 彼女が名乗ると、彼はさらに言葉を続ける。


「ネル。父に代わって、協力はする。だが、手伝うだけだ。俺は戦わない」


 シヴァの瞳は冷たくて浅い。心に何かが欠けているのは、彼自身にもわかっている。


 だから、胸に手を当てた。そして小さく爪を立てる。

 父が残した約束が、その何かを埋めてくれると静かに願った。

 それでいて、集落を滅ぼした者の側ならきっと、見つかるのではと脳裏を掠める。


 盛られた土の墓を見るシヴァは、風に揺れる枯葉だ。


 **********


 そして、1週間ほど時が流れる。

 暗闇と同化した森の中で、2つの暗い青色の目が光っている。

 月のない夜。星も雲によって妨げられた。


 灯りのない空の下で、ワーウルフの瞳は遠くの篝火を捉えている。

 狭くて高い山の頂上。それと一体化した砦が断崖に食い込むように建っている。高さ数mの厚い石壁は不安定な岩盤の上で畝り、短い急斜面を登る者を待ち受けている。


「侵入経路を探る。エルフ達はここで待っていてくれ」


 そう言って、ワーウルフは闇に消えた。

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