第11話 受け継がれるもの
「つまり、そいつは人間社会で権力を持つために集落を襲ったのか?」
シヴァの問いにエルフの女は少し沈黙をする。
風に揺れる薄い金色のショートヘアを手で押さえ、翡翠のような瞳を彼に向ける。
「権力者に取り入ったと言う方が近いよ。ワーウルフの発見が稀有な理由はわかるよね? 自然と、君たち特有の勇ましさは希少品になる」
その女の視線が、牙や爪・毛皮に移っていくのをシヴァは感じていた。
彼の頭に浮かぶのは、仲間達の遺体の山だ。
自身の両腕に湧き上がる、ブヨブヨとした肉の感触を握りつぶすと、彼は呟く。
「不快だな……」
「そうだね、許されることじゃない」
その女の相槌に、シヴァは牙を剥き出しにし唸った。戸惑う彼女の目を真っ直ぐに、彼は睨みつける。
「お前を不快だと言ったんだ……!! そこまで知っていて、何故そんな態度でいれる!? まさか俺が言うまでずっと、その噂とやらが父さんとは関係ないと思っていたのか!?」
すると、咄嗟にエルフの女は目を伏せて首を垂れる。
「本当はこの墓を見て全て察していたの。気づいていないフリをしたのは、どうしても生き残りのワーウルフに協力してもらう必要があったから……。人間の匂いのする私達と衝突がないようにしたかった」
「ふざけやがって……。協力、協力。それに仇討ちなんて言葉で俺を焚き付けようとまで。お前達は砦を襲いたいだけなんだろ、違うか?」
シヴァは力強く槍を握る。木でできた柄が、軽く軋む。
そんな時、2人の間に割って入ったのは、その女と顔の似た、薄い金色の髪の男エルフだ。
「姉貴が失礼をすみません。ご指摘の件、確かに砦を奪うのが我々の目的です。それにはどうしてもワーウルフの力が必要なのも事実です。ただそれは、この一団全体の目的。姉貴だけは違います」
冷静に、それでいて力強い言葉と動じない緑色の瞳。
その後ろで女のエルフは同じ瞳を潤ませている。
「シグァは隠れ住むことを恥じていた。世界の外で生きることは屈辱だと言っていた。だから、私は決めたの! ワーウルフの敵が現れたら、一緒に戦おうって!!」
彼女の言葉を聞いたシヴァはゆっくりと息を吐く。肺から出る空気と共に、思考をゆっくりと抜いていく。段々と昂った感情は鎮まっていき、槍を握る手も緩む。
「名前は?」
そう言ったシヴァの視線はエルフの女に向いている。
彼女が名乗ると、彼はさらに言葉を続ける。
「ネル。父に代わって、協力はする。だが、手伝うだけだ。俺は戦わない」
シヴァの瞳は冷たくて浅い。心に何かが欠けているのは、彼自身にもわかっている。
だから、胸に手を当てた。そして小さく爪を立てる。
父が残した約束が、その何かを埋めてくれると静かに願った。
それでいて、集落を滅ぼした者の側ならきっと、見つかるのではと脳裏を掠める。
盛られた土の墓を見るシヴァは、風に揺れる枯葉だ。
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そして、1週間ほど時が流れる。
暗闇と同化した森の中で、2つの暗い青色の目が光っている。
月のない夜。星も雲によって妨げられた。
灯りのない空の下で、ワーウルフの瞳は遠くの篝火を捉えている。
狭くて高い山の頂上。それと一体化した砦が断崖に食い込むように建っている。高さ数mの厚い石壁は不安定な岩盤の上で畝り、短い急斜面を登る者を待ち受けている。
「侵入経路を探る。エルフ達はここで待っていてくれ」
そう言って、ワーウルフは闇に消えた。




