表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亜人の行進—ソロの狼煙—  作者: しまうま
第2章 ソロと闇夜の行進曲
10/21

第9話 黒緑の来訪者

 あれから3年が経ち、シヴァは18歳になっていた。

 視線は少し高くなり、槍を持つ手の位置も高くなっている。しかし、その表情に明るさはない。


「失望しているよね……?」


 深い森の中。高く盛られた土の前で、彼は跪いている。

 暗い青色の瞳を閉じて、沈黙をする。


 木の匂い、風の香り。

 葉が擦れて、枝が軋む音。


 シヴァの頭に浮かんでくる父と母や友人の顔は、月日の流れの中で少しずつ霞んでいる。


「でも、俺にしかできないことだからさ……。この墓が消えるのを見届けさせてよ」


 ゆっくりとシヴァは目を開ける。その瞳は暗くて冷たいが、奥行きはない。

 そんな彼の視界を覆う森には、灰も炭も残されていない。

 ワーウルフの匂いも音も残されていない。


 だから、シヴァは失われるのを待っている。


 墓か

 記憶か

 自分の命のいずれかを。




 シヴァはゆっくりと息を吐くと、地面に置いた槍を手に取った。

 立ち上がる。

 盛られた土に背を向ける。


 一歩、また一歩と歩き始めた彼は呟いた。


「俺は……。いや、考えるな。生きてる意味なんて考えちゃいけない」



 そんな時、ふと彼の足が止まる。

 北風が優しくその毛並みを撫でる。春らしく、暖かい陽気。

 何も変わらない。


 しかし、彼の鼻が異常を感じ取った。

 遠くから、忘れもしない匂いが昇ってくる。

 盛られた土から血が吹き出して見える。


 それは他に形容しようもない人間の匂い。自然物では醸しえない、全てが混ざり煮詰めたような悪臭がする。

 しかし、今回はどこか違う。

 確かに人間の匂いがするのだが、陽だまりや草木の匂いの方が少し強い。



 シヴァは咄嗟に木に登った。枝葉に身体を隠して息を殺した。その隙間から覗く彼の目からは、冷たさも消えていた。



 ************



 数十分が経った。

 匂いはさらに強くなり、足音だけでなく息遣いまでがシヴァの耳に届くようになっていた。


 感じる気配は50人ほど。隊列を組んで、まっすぐにこちらに向かっている。


 シヴァは息を殺して、じっとそれが現れるのを待っていた。鳥が側で戯れていても静か。通りがかりの鹿でさえ、彼に視線と耳が向くことはない。


 しばらくして、彼の瞳に対象が映った。


 体毛がない。

 牙がない。

 爪すらも短い。

 しかし、二足歩行で弓矢と剣を携えている。


 黒緑のローブに覆われた集団は彼の真下を通過していく。


「聞いたままだ……」



 そう心の中で呟くシヴァは、少しだけ歯を食い縛った。

 彼が感じた通り、その集団は50人ほど。その全てが武装していて周囲の警戒を怠っていない。

 そのことに気づいたシヴァは、あれが戦士の類であると直感していた。


 故に、彼はやり過ごすことを選ぶ。

 真上を気にしないその集団に悟られぬように、じっと待つ。


 視線すらも最小限に、大きく広く視野を保つ。

 だが、集団の中の1人が起こした行動が、シヴァの視線を釘付けにした。いつのまにか、彼はその目を大きく見開いていた。


 その1人は、地面に跪いていた。

 仲間たちの墓前で、祈りを捧げ始めた。


 かと思えば、その人物は立ち上がる。

 大声をあげて、広く森に呼びかける。


「聞こえるかワーウルフの民よ!! 私は——」


 森の中に響く声はその一つだけ。

 しかし、その力強い女の言葉に、シヴァの心臓が大きく跳ねる。

 咄嗟に彼は地面に降りる。木の後ろに隠れて、その人物を見る。


 その女はもう一度叫んだ。

 

「私はシグァの友人だ!!彼にエルフが来たと伝えて欲しい!!」


 それはその者が、この森には存在しないエルフであると名乗ったからでは決してない。

 集落の中でも滅多に聞かない、父の名前を呼んだからだ。


シヴァの手が小さく震える。

鼓動が大きく動き出す。


ふと、エルフの祈る姿が自身と重なった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ