転生マジシャン、偽物マジックを見る。
「ヴェリタス」
「ああ、アレーティア。これはひどいな。あのコー・ウアンという人物は、マジックとうたっているが、魔法じゃないか。ネタがバレていないと気づいていないのか・・・」
俺は、隣に座って一緒にマジックショーを見ていたアレーティアに返事をした。
彼女は控えめにに言っても美女で、周りからもちらちらと視線をうけているが、本人は気にしていない。本来は上位貴族である侯爵家のご令嬢だから、周りからの視線が当たり前になっているのだろう。
人前に立つのに慣れているのは、マジックのアシスタントとしてはとてもありがたいが、さきほど周りからの視線をうけて、「変装しているのに、高貴さが隠せてないかしら?」などとおっしゃっていた。
「ヴェリタスほどのマジシャンはなかなか他にいないわね」
「まぁ、まだマジックが普及していない、という要因が大きいだろう」
「それもあると思うけど・・・それより、まだ見る?あの、魔法を使った自称マジックのお遊びショー」
アレーティアが目線で促した先には、コー・ウアンがなぜかいばりながら、なぜかドヤ顔で、ステージ上でマジックを披露していた。実際、魔法を使ってごまかしているだけだから、マジックではないのだが・・・。
「せっかくだし、最後まで見ていこう。これはこれとしてある意味おもしろい。漫才としても見れるんじゃないか?」
「あなた、たまに変な楽しみ方するわね」
アレーティアは呆れながらも俺と一緒にあの偽物マジックを見ることにしたようだった。
「それにしても、観客は気づいていないのかしら?」
「どうだろう。気づいている人は気づいているんじゃないか?それに、魔法の素養がなければ、あれがマジックではなくて、上部だけそれっぽく見せた魔法だと気付かないだろう」
「それもそうね」
しばらくして、偽物マジックショーが終わり俺たちは会場から出ようと歩き出すと周りからの声が聞こえた。
「なぁ、さっきのあれ魔法じゃなかったか?」
「そう?わからなかったけど・・・」
「ああ。上部だけそれっぽく見せているけど、マジックではなくて中身は魔法だった。コー・ウアンは劣化魔法師なのか?」
アレーティアにも周りのお客さんの今の会話が聞こえたようで、こそっと俺に耳打ちしてきた。
「ねぇ、バレてるわね」
「そうだな。それにしても、劣化魔法師か」
「言い得て妙ね。でも、いいの?」
「うーん、よくない気がする。あのコー・ウアンだけが劣化魔法師のレッテルを貼られるだけならいいが、他の本物のマジシャンやマジックまで飛び火したらまずい」
「そうね。この町でマジックする予定はなかったけど、してく?」
「そうだな。本物を見せてやろう」
「決まりね!!」
アレーティアは、嬉しそうに笑顔になって、くるっと回って先に歩いていってしまった。
そんなにマジックをやりたかったのだろうか。
俺は、ウキウキしながら歩いてしまったその背中を追いかけることにした。
突然だが、俺には前世の、地球で日本人だった頃の記憶がある。
世界的に有名なマジックの大会で優勝し、凱旋帰国のつもりで日本に帰る途中で爆発テロにあった。
直前の周りの会話から察するに、警察の警備の隙がつかれたらしい。爆発を起こしたテロリストが優秀だったのか、警察の警備が無能だったのかはわからないが、起こってしまったのはしょうがない。
今はこうして転生して、地球とは違う、魔法のある世界でマジックをやりながら旅をしていた。
この世界には魔法があり、俺も最低限の魔法は使えるが、マジックには一切魔法を使っていない。純粋にマジックの技術だけでやっている。
魔法は戦闘の道具としての側面が強く、場合によっては忌避されることもあるからと、非魔法師もマジックを行えるようにしたいからだ。
この世界ではマジックがほとんど認知されていなかった。そんな中、魔法を使わずに裾野を広げることで、マジシャン人口を増やしたい、という意図もある。
だから、先ほどの上部だけのコー・ウアンのように、劣化魔法師のレッテルを貼られるのはあまりよろしくない。
せっかく世間に受け入れ始めたマジックの印象が下がるのは避けたい。
「さて。それはそれとして、アレーティアはどこにいったんだ?先に宿に戻ったのだろうか?」
アレーティアを探しつつ宿に戻る途中、なぜかコー・ウアンに遭遇した。
「これはこれは!もしやヴェリタスさんではありませんか?」
「えーと、コー・ウアンさんでしたっけ?お会いしたことがありましたっけ?」
「以前あなたのマジックを見て感銘を受けましてね。私も、同じことをしたいと思ったのですよ。もしや、私の華麗なるショーをご覧になっていただけのですかな?」
「あーえーと、見るには見たのですけど、俺と同じと言うのはちょっと違うのではないでしょうか・・・」
「なぜですか?確かに、あなたよりも華がありますからな」
いや、違う。上部だけそれっぽく見せているのを華があると言われても・・・
もしかして、ネタがバレていることに気付いていないのか。
俺は、コー・ウアンの耳元で小声で話した。
「俺と違うと言うのは、マジックではなくて魔法だということです。コー・ウアンさんのは魔法ですよね?」
「なんですと!いくらあなただとしても、言っていいことと悪いことがありますぞ!あなたの目は節穴ですか!」
いや・・・節穴じゃないから、魔法だと気付いんたんだけど・・・
「先ほどのお客さんの中にも気付いている人はいたようですよ。劣化魔法師と呼ばれていました。魔法を使ってもいいとは思いますけど、マジックを謳うならもう少しうまくやったほうがいいと思いますよ」
「何を言っている!もしや少し名が知られているからといって、つけあげっているのではないでしょうね!あなたみたいな口先だけで成長しようとしないようなポンコツマジシャンは私がすぐに追い抜いてやりますよ!!今にみてなさい!!!」
コー・ウアンは捨て台詞のそう言い、顔を赤くしながら去っていってしまった。
「・・・なんだったんだ?」
俺はおもわずため息をつき、アレーティアとのマジックの打ち合わせのために宿に向かった。




