ある池の出来事
夜中に喉が渇いて一階に下りると、そこには化物が出た。
それは、暗闇にあって、障子の木枠からぬるりと大きな頭をもたげて、金目鯛みたいな目をキロキロと動かす。それを、キバケと呼んでいた。
キバケは部屋の電灯をつけるとたちまちに姿を消してしまう。大きさはちょうど小学生くらいで、全体が黒く、貯金箱のニスのようにテカテカ黒テカりしている。
当時の私はあまりの不気味さに一睡もできず、大人に泣きついた。
祖母に相談したのは親が共働きの家庭で、手頃な相談相手が他になかったからだ。祖母がいうことには、子供の霊が遊びにきているんじゃないかということだった。
翌朝、私は近所の神社で数人の友達と追いかけっ子をしているうちに神隠しにあう。
見つかるまでの3日間、その間の記憶がなく、自分は木の根に足をかけて転んだだけと思っていたのだが、友人8人が消え、自分だけが助かった。
こつぜんと消えた友人たちは遺留物もなく、不気味な事この上なく。大人たちからこの事を口止めをされたのを覚えている。1週間ほど、町の大人達総出で捜索を行ったが、ついに靴の片方だけが4キロはなれた溜め池の畔で見つかった。
当時は溜め池に多量の農業用水があり、そこで遊んでいるうちに落ちたのだろうと結論付けられた。溜め池の壁には梯子もなく、子供の足では上りきることができなかったのだろうというのである。