第16話
ゲームが終わった後、アレクシスの周囲にはすぐに人だかりができていた。
景品のすべてがアレクシスの財力と伝手で手に入った事実が、すぐに広まったからだ。
(見たところ、有力な貴族の息子も来ているし、一応これで予算オーバーした分は大目に見てくれるかしら)
晶子はワインを一口飲みながら、満足げにその光景を眺めていた。
「ティエナ様」
「ん?」
振り返ると、一人の令嬢が両手を結んで、少し緊張した様子でティエナを見ていた。
「先ほどは素敵な景品をありがとうございます。あんなに美しい真珠、見たことがありません」
(この子はさっきの最後の令嬢ね。名前は確か……)
晶子が名前を思い出そうとする前に、令嬢はドレスの裾を摘まんで、きちんとお辞儀をした。
「失礼しました。セレーネ・ディメイゴと申します」
「ああ、ディメイゴ伯爵の御令嬢でしたね」
ここ数日でDucereがまとめてくれた招待リストをもとに、一人ひとりの詳細を思い出しながら頷いた。
「ありがとうございます」セレーネが少し照れくさそうに話し続けた。
「あんなに楽しい催し物は初めてでした! しかも最後の一人にまで楽しみがあるようにして下さって。感激しました」
「楽しんでいただけて何よりですわ」
晶子が微笑みながら答えると、周囲の令嬢たちも集まってきた。
「ティエナ様、このパーティー、ティエナ様が準備されたのですか? 飾られた花々が美しいですわ」
「ティエナ様の本日のお召し物も素敵で。もっと控えめなものをお好みだと聞いておりましたので、意外でしたわ。」
実際、晶子が目覚める前のティエナは地味なドレスばかりを着ていた。
ティエナの記録や使用人の話から推察するに、彼女は周囲の期待やプレッシャーから、自分の意志とは裏腹に控えめな服装を選ばざるを得なかったのだろう。
「皆様の前で、しかも夫に恥をかかせるわけにはいきませんから」
正直、アレクシスの反応が心からどうでもよかった。だが、ティエナが見下されることには我慢ならなかった。
「景品はどのように選ばれたので?」
「どのような基準で選ばれたのでしょうか? ぜひ今後の贈り物の参考にさせていただきたいです」
その問いかけに、晶子は一瞬考えるふりをして、すぐに微笑んだ。
「皆さんが楽しんでいただけたら、私も嬉しいですから」
景品を選んだ理由など、特に深い意味はない。すべてはパーティーを盛り上げ、周囲の反応を引き出すための計算だ。しかし、そんなことを正直に言うわけにもいかない。
「特に選ぶ基準などはなく、ただ皆様が喜んでくださることを願って選びました」
その言葉に、周囲の令嬢たちは頷きながら納得した様子を見せる。
だがその間、晶子の視線はわずかにアレクシスに向けられた。彼の方は相変わらずワインを飲みながら人々と談笑しているが、どこか無関心な雰囲気が漂っている。
(どうせ、私のやることなど興味もないのでしょう)
その冷めた視線に、晶子は少し心の中で溜息をついた。だが、今はそれに気を取られるわけにはいかない。
「さて、それでは次の催しもお楽しみに…」
晶子はそう言って微笑みながら、会場を見渡した。
その瞬間、彼女の目の前に一人の男性が現れた。
「ティエナ様、素晴らしいパーティーでした」
その声に晶子は少し驚き、振り向いた。目の前に立っていたのは、先ほどのビンゴで景品を手にした令息ではなく、もっと落ち着いた雰囲気の男性だった。




