6話 離婚の時
ついにこの時が。
わたくしが結婚してから3年後、
旦那様がやって来た。
「今日で結婚から3年たった。
私達の間に子が出来なかった為、離婚する。
この書類にサインをしろ」
見ると離婚届。旦那様のサインは既に書いてある。
「あら旦那様、お帰りなさい。
魔物退治お疲れ様でした。
それにしても、いきなり離婚の話とは。
そうなると辺境伯家の援助は打ち切りとなりますが
よろしいのでしょうか?」
旦那様は顔を顰め、
「ふん、私の妻でいたいからと脅すとは。
卑怯な女め。
援助は続行だ。
侯爵家の令嬢であるカレアを迎えるのだからな。
お前が出ていくだけだ。
さっさとサインして出て行け」
「カレアは修道院から出てこられないはずですが?それにアレは侯爵家の人間ではありません。
学園での出来事とその後の親子鑑定で明らかになっています。
貴方にも立ち会って貰ったはずですが。
お忘れになったのでしょうか?」
そう言うと怒る旦那様。
「うるさい!あれは、あれは何かの間違いだ!
カレアは侯爵家の令嬢だ!」
と
「ほう。お前はまだそんな事をほざいているのか」
低くて聞く者全てを震え上がらせる声が響く。
驚いて振り返る旦那様。
そこには別邸にいる筈の車椅子に乗った先代の辺境伯と夫人。
「父上!何故ここに?
体は大丈夫なのですか?」
「ああ、車椅子で移動する事なら可能だ。
愚か者が離婚すると言い出すだろうから来て欲しいと手紙が来てな。
ここに来た」
冷ややかな眼を向ける先代様。
その後ろに立つ夫人は顔を伏せている。
「愚か者とは?」
首を傾げる旦那様に
「まだ気付いていないの?兄さんの事だよ」
弟のライナス様もトーマスと一緒に到着しました。
「ライナスお前!何故・・・」
「何故?僕の所にも手紙が来たからね。
帰って来たんだ。
丁度いいタイミングだと思ったし。
父上、母上、只今戻りました」
「うむ。よく帰って来てくれた」
「久しぶりね。少し背が伸びたかしら?」
「ええ少しだけ」
ほのぼのとした雰囲気をぶち壊す声が。
「お・・私が愚か者とは!?
愚か者はこのリリアです!
子供を作る気も無い!
毎日引き篭もるだけで何もしない、
それに冤罪すら認めようともしないのです!」
顔を赤くし力説する旦那様に
「お前が冷遇しているのだろう?
トーマスから手紙が届いている」
先代様の冷たい声が響く。
「え?手紙?」
どういう事だという顔をする旦那様。
「お前のやらかしを手紙で教えてくれていたのだ。
お前が繋ぎの当主に就任してからずっとな」
「え?繋ぎ?」
「はぁ・・・やはり頭から抜けていたようだな。
お前はライナスが成人して継ぐまでの繋ぎだ。
本来ならお前は辺境伯家の籍を抜かれ、平民落ちの上子供が出来ないよう断種、その後騎士団で見習いの立場からこき使う予定だったのを、私が病に倒れ、後遺症で執務が出来なくなり、後を継ぐライナスが成人前だったのもあって仕方なく繋ぎの当主にしたのだ」
「は?籍を抜く?断種?冗談でしょう?
何故私が見習いなど・・・?
ライナスが当主って嘘でしょう?
私の方が優秀ですよ??何故?」
「お前は婚約者であったリリアを蔑ろにした挙句、
平民の娘の嘘を信じて散々罵倒していただろう。
元王太子達『親衛隊』だったか?
皆罰を与えられている。
お前に罰を与える前に私が倒れてしまったからな。
それで勘違いしたのか?
それにお前は優秀でもない」
「え?」
「確かに剣の腕は優秀だ。だがそれだけ。
人の話を自分の都合の良い事しか聞かない。
自分より劣る弟や騎士達を馬鹿にし、
諌めようとした弟に暴行を加える。
一度思い込むと暴走する。
そんな者に辺境伯など任せられん。
執務も穴があったと報告を受けている」
「穴?」
「ああ、よく確認はせずにサインをしたりするからおかしな所が多々あったと。
お前は雑な所があったからな、癖が出たのだろうが、執務でやらかすとは嘆かわしい。
それに、魔物退治の時も下っ端や一下級騎士の装備品を新調させずに現場に向かわせたな?
『装備がボロボロだが新しい物に変えてくれと頼んでもすげなく却下される』
と報告が上がっている。
現場での下級騎士達の怪我も多いとか。
それを『弱いから』と騎士のせいにして、
無茶な訓練をさせていたとか?
その際で怪我人も多発したとも報告があるな。」
「そ、それは、騎士達が」
「お前は自分より弱い者を馬鹿にする所があったが・・・ここまでとは。
挙げ句の果てに『弱い者は辞めてしまえ』とも言ったとか?
辺境の長がなんと言う事を・・・」
「う」
「それに婚約を解消せずお前と結婚したリリアに、あの娘が侯爵家でしていた行いを
お前はしていたそうだな?
リリアは気にしないと言っていたそうだが。
ああ、お前が妻を殴った事も、編み物や刺繍を取り上げるようトーマス達に言った事も、
リリアへの手紙を勝手に読み、断りの手紙を書いたり、
ライナスが出ていった後のあの離れに押し込めた事も、
パーティーで貴族達に『あの娘が冤罪だ、
リリアを断罪する為に協力を』と
言って回っていた事も知っている。
学園の同期や後輩達に騎士団員を向かわせてありもしない罪を聞こうとした事も、
恐れ多くも陛下や王太子殿下達に手紙を送っていた事もな!!!」
びくりとする旦那様。
「だ、だって、カレアは無実・・・」
「まだ言うか!!!
お前も聞いた筈だ、
あの娘達が何をしたかを!
侯爵達がリリアをいないものとして扱っていたかを!
それにあの娘は平民!父親は前侯爵では無い!
鑑定の場にいただろう!
何故信じない?他の者は信じて悔い改めたのにお前だけだ!信じていないのは!
そして事もあろうに妻を殴るとは!
恥を知れ!」
俯く旦那様。
次回に続きます