3話 それからと翌日
続き
旦那様とわたくしの婚約は解消される事はなかった。
処分も保留。それは何故か。
婚約解消はわたくしが願わなかったから。
旦那様がカレアにコロリと騙され、カレアに纏わりついてわたくしに罵詈雑言の嵐を浴びせても、
贈り物も一切せず、パーティのエスコートもせず、蔑ろにしていても解消しなかったのは、
【辺境の民達の暮らしを良くしたかった】
旦那様の処分も、侯爵家の技術を伝え
土地が良くなる兆しを見せるまでは、
と国王陛下と辺境伯夫妻にお願いして継続してもらった。
だが、カレアの事件や関係者の処分中に、
辺境伯が病に倒れ、一命は取り留めたものの後遺症が残り政務などを行える状態ではなくなった。
旦那様にも弟がいてその方に継がせる予定だったが成人前。
辺境伯の親族に爵位を預ける案も出たが、
時々出没する魔物達やちょっかいを出してくる隣国に対応するには不十分だという判断の元、
旦那様が爵位を継ぐ事になった。
学園を卒業していなければ貴族として認められない。だが旦那様はまだ在校生。
卒業資格はクリアしていたので、特例で早く卒業して継いだ。
(本来なら卒業も取り消しのはずだった)
辺境伯は領地の別邸(代々の辺境伯が眠っている場所の近くにある)で療養。夫人は辺境伯の介護の為について行った。
旦那様の弟ライナス様は離れで後継の教育を施されている最中。
(兄弟仲が悪かった為に離れ離れで過ごしている)
数ヶ月後には貴族学園入学の為に王都の寮に入るとの事。
婚約中に何度かお会いしたが、賢く優しく、芯の強い方だった。
この結婚は、民の為。
あんな男に愛などない。
(婚約成立直後からノウハウを持つ者達は領地に入り、民達に教え始めている。
この地が良くなるまでの辛抱)
そう己の心に言い聞かせ、眠りについた。
翌日
「おはようございます奥様」
サラが部屋に入って来る。
そしてベットを見て眉を寄せるが
「着替えをお手伝いします」
と言った。
「あの旦那様、本当に何もしなかったんですね」
「お前を愛する事はない、って言ったわよ」
「ええ!?言ったんですか?
お決まりの台詞!」
「あと悪女とか色々と。
何故かわたくしが愛していると勘違いもしていたわね。
何故婚約を解消しなかったか、知らないみたい。
前辺境伯から説明を受けている筈だけれど」
「人の話を聞かない人なんですかね?
それにしても悪女って・・・」
「怒らないの。さ、行きましょう。
案内してくれる?」
「はい奥様」
ぷりぷりと怒るサラを宥めてリビングに向かう。
サラはすぐにこの屋敷に馴染み、メイド長からの評判もいいと言う。
そしてリビングに着くが旦那様はいなかった。
執事のトーマスがいて、
「旦那様は早くに朝食をお1人で摂られました。
奥様と食事は一緒に摂る気はないそうです」
淡々と告げる。
「そう、分かったわ」
そう言って席に着く。
そして出された料理に眉を寄せた。
固いパン、クズ野菜で作られたスープ、
しなしなの野菜のサラダ。
「旦那様もこれと同じ物を食べたのかしら?」
トーマスに聞くと
「いいえ違います。
これは奥様にお出しするようにと旦那様がシェフに命じて作らせたもので・・・。
『カレアに出していたものをお前も食べてみろ。
カレアを苦痛をその身に味うといい』
と旦那様からの伝言です。
申し訳ございません。私共では旦那様に逆らえず・・・。
ドレッシングは旦那様が去った後でこっそりとかけました」
そう言いながら平頭するトーマスと、
同じく平頭しているいつの間にかやって来ていた
シェフ(顔が青ざめている)に
「貴方達を責めはしないわ。
逆らったら解雇されてしまうもの。
・・・それにしても困った旦那様だ事」
わたくしがカレアにしていた事ではなく、
家族ににされていた事なのだけれど。
そう思いながら食べ始める。
うん、実家で食べていたのよりマシだ。
パンはそんなに固くないし、
クズ野菜にしてはやたらと大きい具材が入っているし、サラダはしなしなだけれど、
このドレッシング美味しい。
嫌がらせになれていないのかしら?というくらいに優しい。
気になる事といえば
「野菜が小さいのね。
まだ、野菜などは育ちにくいのかしら?」
とトーマスに聞く。
「侯爵家が派遣してくれた方々が教えてくれた技術でだいぶ良くなってはおります。が、
やはりまだ小さく。
他領から野菜などを買っています。
肉は魔物の肉が多いですね。
味は独特ですが美味しいですよ。
牛肉などは贅沢品です」
そう教えてくれる。
「なのでカーナイト侯爵家との婚約が成立した時領民達の喜びは凄まじいものでした。
そして旦那様達のせいで無くなると思われ
どうなるのかと絶望もしました。
ですが、奥様は見捨てなかった。
感謝しております」
そう言って深々とお辞儀をする執事やシェフ。
にこりと微笑んで
「貴方達がどういう暮らしをしているか、教えてくれてありがとう。
わたくしも頑張らなければ。
・・・食事はこのままでいいわ。慣れているし、
魔獣のお肉も出して欲しいわ。
旦那様に逆らわない形でお願いね?」
わたくしがそう言うと頭を上げ、
「かしこまりました」
「頑張ります!」
そう言ってまた深々とお辞儀をした。
ちなみに終始烈火の如く怒っていたサラは、
最後には鎮まっていた。
嫌がらせを指示されたコック
「どうすれば??こうすればいいのか!?」
執事
「やれやれ・・・」