1話 あなたを愛する事はない、ですって
結婚式をしたその夜、準備を終えて待っていた
わたくしに。
乱暴に入ってきた貴方はこう言った。
「お前を愛することはない」
「3年たったら白い結婚が成立する!
それまでにカレアの無実を証明して必ず救い出して見せる!!
それまではお前が妻だ。腹立たしいがな!
母親が違うとはいえ妹を罪に陥れて平然としている悪女め!
この屋敷ではお前の自由にはさせん!
大人しくしていろよ!?」
わたくし
リリア・ベルナールの後妻の連れ子で、
カレア・ベルナールを慕っている貴方。
わたくしの3年間の我慢が始まる。
☆☆☆
「お初にお目にかかります。
私めはこのベルナール辺境伯家執事のトーマスと申します。
ようこそいらっしゃいました。
さぁ、こちらへ。旦那様の所にご案内致します」
白い髪が混ざったオールバックの老執事が
そう言うとくるりと身を翻して歩き出す。
その後をついていくわたくし。
シルバーブロンドのまっすぐな髪と翠の瞳。
侯爵家から連れて来たメイドのサラは数歩後ろを歩く。
調度品は最低限で鎧などが多い屋敷。
奥へと進んでいく。そして
コンコンコン、とノックをし
「旦那様、リリア様をお連れいたしました」
トーマスが言うと
「入れ」
と言う声に扉を開けるトーマス。
わたくしは中に入る。
そこには机の書類に目を落とす、
紺色に藍色の瞳の男の姿が。
この方が、わたくしの夫になるお方。
ライアン・ベルナール辺境伯。
「リリア・カーナイト。よく来たな。
部屋で休むと良い。
トーマス、部屋へ案内しろ」
わたくしが挨拶をしようとすると遮る旦那様。
「旦那様・・・」
トーマスが何か言いたげに口を開くが、
「聞こえなかったのか?
早くリリアを部屋に案内しろ」
というライアン様。
その間こちらに一度も視線を向けず、書類を見つめたまま。
「かしこまりました。さぁこちらへ」
促されて退出するわたくし。
退出する瞬間藍色の瞳と視線が合いましたが、憎しみに満ちていました。
「こちらがリリア様の部屋でございます」
案内された部屋は質素。最低限の調度品しかない。
「ありがとう。それと
この子はわたくしが連れてきたメイドのサラよ」
「サラと申します」
「メイド長に紹介しますので、私と一緒に来てください」
そう言われて連れて行かれるサラ。
その間にわたくしはトランクを開ける。
・・・と言っても、中身はは少ないのだけれど。
少し小さいドレス数着に
母の形見の小さなルビーのネックレス。
そして編み物や刺繍糸や針にデザイン画。
それらを眺めていると、ノックとともにサラが現れる。
「お嬢・・・いえ奥様、戻りました」
「どうだった?メイド長達は?」
わたくしはサラに聞く。
「メイド長や執事、メイドの殆どは奥様の噂とあの件の真相を知っていました。
謝り倒されまして。
でも1人、貴族のお嬢様のメイドが・・・
「あんな悪女に仕えているなんて可哀想」
と言いまして。
なんとか笑顔を返しましたが
メイド長と執事が激怒していました」
「あらあら、噂は嘘だったと知らない方かしら?」
「いいえ、噂は本当だと信じ込んでいる方のようで。
メイド長が嗜めていましたが、
「どうせオクサマが罪を着せたのよ!
そういうの得意だ、って聞いたもの」と。
執事のトーマスさんにその場でクビを言い渡されていました」
「はぁ、皆あの子を信じていたから・・・」
そこではっとするサラ。
「あ、お荷物!!
すみませんでした!!すぐに・・・」
そう言ってテキパキとしまっていくサラ。
少ない荷物がきちんとしまわれる。
「そういえば旦那様も、噂は嘘だったと信じておられないようでしたね・・・」
ぽつりと呟く。
「ええ、元々カレアと婚約したがっていたしね。
・・・今夜は何もないわ。
多分この先も」
「それは・・・」
「その方が都合がいいわ」
そう、この後の事を考えるとね。
・・・そして冒頭へ
言いたい事を全部言ったからか
「そういうわけだ。私は忙しい。
ここに来たのもお前に説明しなければならなかったからだ。でなければ来ない!
お前は私を愛しているようだが、
私からの愛はないと知れ!
ではな」
と出ていく夫。
その後姿を見送るとため息をつく。
「・・・はぁ、疲れた。
想像通りだったけれど」
それにしても・・・
「わたくしが愛しているなんて、
何故そんな勘違いをしているのかしら?
それにカレアの事、母親違いの妹と言っていたわね?
血の繋がらない赤の他人なのに。
何故かしら?
あの時貴方だって見たのに。
あの子がわたくし、いいえ
あの家の血を引いていないという決定的な瞬間を」
それでも信じているとしたら、
頭がおかしいのではないかしら?