0話
開けられないドアがある。
殺風景な部屋を出て、狭く薄暗い廊下の先に、そのドアはあった。
汗の滲んだ手で取っ手を掴み、力を込めて引く。が、びくともしない。
自分には開けられないと知っている。それでも――。
――この先に君がいるのなら、僕は必ずそこへ行く。
呼吸を止め、もう一度右手に力を込める。
瞬間、パリンッと何かが割れたような音がして、ドアは勢いよく開いた。
目に飛び込んできたのは、床の上に横たわる少女の姿だった。
「……寝ているの?」
呼びかけながら、少女の元へ歩み寄る。
「起きて」
返事がない。名前を呼んでも、体を揺さぶっても、起きる気配はまるでない。
――そうか、壊れているんだ。
欠けた皿、ほつれたセーター、キシキシと音を立てる椅子。
“モノ”はすぐに壊れる。壊れたまま、存在している。使える“モノ”はそのまま使い、使えない“モノ”はどこかへ消えていった。
彼女はどうだろうか。使えないのなら、どこかへ消えてしまうのだろうか……。
――嫌だ嫌だ嫌だ。そんなのは嫌だ!
得体の知れない何かが、沸々と心の底から湧き上がるのを感じた。
壊れた“モノ”は決して「なおせ」ないのだと言われた。ならば、何なら「なおせ」るというのか。「なおす」とはどういうことか。
開けられないはずのドアは開いた。「なおせ」ないはずの“モノ”だって、きっと「なおせ」る。
「なおせなおせなおせなおせなおせなおせなおせ!!」
少女の手を強く握ったまま、声の限り叫ぶ。すると、
「……ここ、どこ?」
少女はゆっくりと体を起こしながら、眠たげな声で呟いた。
あぁ、よかった。安堵し、少女の細い肩を抱きしめる。
こんな不安な思いは二度としたくない。どうか彼女が傷つかず、壊れず、永遠にこのままでありますように。
……なぜかはわからない。
全身の力が抜けて、なだれるように倒れ込んだ。一切の音が消え、視界はだんだん暗くなる。
何かがこちらを見ているような気がした。狭まる視界の隅で、円形の物体をわずかに捉えた。
それが何であるか、考える時間は残されていなかった。