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アオハルオーバードーズ!  作者: 若松だんご
1.アオハルオーバードーズ計画
5/37

(五)

 「うわ。なんや、コレ。日焼け止め?」


 翌日。逢生(あおい)の誕生日当日。

 机の上に広げられた包装紙の真ん中。ポツンと現れた日焼け止め。

 夏鈴(かりん)がカノジョとして、逢生(あおい)のために用意したプレゼントを前に、健太が驚き、少し引いた。

 誕生日プレゼントに日焼け止めって。

 健太と僕と未瑛(みえい)

 包装紙から出てきたそれに、いっしょに見てた僕も引く。


 「そうよ。SPF50+、PA++++。使い心地はサラサラ、汗にも水にも強くて、最強に紫外線から肌を守ってくれるのに、ちゃんと石鹸で洗い流せるの。あたしが、今年の自分用に買っておいたヤツだけど。逢生(あおい)にあげるわ」


 「いや、そういうことを訊いてるんやなくてやな」


 健太が訊きたいのは、「どうして日焼け止めが誕プレなのか」ってこと。


 「この先、つき合うって言ったらさあ、逢生(あおい)にも海に来てほしいんだよねえ」


 「――は?」


 「最初はシュノーケルとかも考えたんだけど、それぐらい逢生(あおい)だって持ってそうだしさ。で、こっちにしたの。日焼けって、一気に焼いちゃったりすると、後々大変なことになるからさ」


 「あの、ボクも結構日焼けしてるけど? これでも陸上やってるし」


 プレゼントを受け取った逢生(あおい)が、戸惑いつつ自分の肌を指差す。僕と健太と逢生(あおい)と。男子三人の中では、一番逢生(あおい)の肌がよく焼けてて、日焼けでどうのってことはなさそうだけど。


 「潮焼けをなめるな! 海と陸じゃ全然違うんだよ!」


 夏鈴(かりん)が吠えた。


 「海の上は潮風も吹いてるから、陸にいるより日焼けの度合いが強烈なのよ。健太のお父さんを見たらわかるでしょ。長いこと海にいたら真っ黒くろくろ、コゲのスケになっちゃうんだから。せっかく逢生(あおい)は、こんなツルツルのキレイなお肌をしてるんだからさ。日焼けには気をつけたほうがいいよ」


 逢生(あおい)の肌のツルツルさ加減を、撫でて確かめる夏鈴(かりん)


 「おい、ヒトのオヤジをコゲパンみたいに言うなや」


 その夏鈴(かりん)に、健太がツッコむ。


 「わかった。ボクも、コゲパンになりたくないもんね。ありがとう」


 「だから、コゲパンじゃねえっての」


 逢生(あおい)にもムシされ、健太が一人ごちる。


 「っていうか、夏鈴(かりん)。お前、逢生(あおい)に自分の趣味につき合わせるのかよ」


 立ち直りの早い健太が問いかけた。


 「そうよ? あたしの恋人になるってんなら、泳ぐのはもちろん、マリンスポーツ、レジャーにもつき合って欲しいのよねえ」


 「つき合うって、そういう意味じゃねえんじゃね?」


 「あら。恋人ってのはそういうもんじゃない? 好きなことをいっしょにやるってのも、恋人の形だと思うけど? 共通の趣味があるってのはいいことじゃない?」


 「そ、それは……」


 確かに。

 アウトドアなカレシと、インドアなカノジョ――とかいう正反対より、二人で共通の趣味を持ってる方が、カップルとして長続きしそうな気がする。

 ただ、この夏鈴(かりん)逢生(あおい)のペアの場合、やや逢生(あおい)夏鈴(かりん)の方に、引っ張られ?(引きずられ?)てる感がしないでもないけど。


 「それに。アンタ、さっきからずっと文句ばっかり言ってるけどさ。昨日の今日で誕プレ用意するのって大変だったんだからね?」


 腰に手を当て、夏鈴(かりん)が健太に向き直る。

 プンスカ。

 その態度から「怒ってる」のがよくわかるし、さもありなんとも思う。

 仁木島町には、およそ物品を購入できる「お店」は、一軒しかない。あの、昨日僕らがパキコを食べた、雑貨屋兼食料品店兼駄菓子屋の美浜屋だけ。洗剤とか、カップ麺とか、生活に必要なものは取り扱ってるけど、カレシに贈る誕プレとなると、あの店で選ぶのはかなり厳しい。

 だから、もし誕プレを用意しようと思ったら、バスと電車を乗り継いで隣の市に行くか、ネット通販で取り寄せるしかない。昨日、それもあんな夕方に言い出されたのでは、とてもじゃないがどちらの方法も使えない。

 だから、自分用に買っておいたヤツだけど、新品を逢生(あおい)にプレゼントした。 

 夏鈴(かりん)が、健太に怒るのも無理はないというわけ。


 「それよりさ。昨日から思ってたんだけど、〝アオハルオーバードーズ計画〟ってなんなの?」


 夏鈴(かりん)が話題を変えた。


 「その〝アオハル〟イコール〝青春〟ってのはわかるんだけど。〝オーバードーズ〟ってナニ?」


 「ああ、それ? なんかホラ、テレビのニュースとかでやってるじゃん。トーヨコ? とかのアレ」


 よくぞ訊いてくれました!

 健太がしたり顔になった。けど。


 「それってさ。過剰に風邪薬とか飲んで、気持ちよくなるって――アレ?」


 少し眉をひそめて逢生(あおい)が尋ねる。

 テレビでやってるアレ。

 健太の言う「アレ」は、ドラッグストアなんかで購入できる風邪薬なんかを飲んで、フワフワした気分になったりする青少年が増えてるっていう問題。風邪薬や咳止め薬には、麻薬ほどではないけど、そういう成分も入っていて、過剰(OVER)摂取(DOSE)することで、気持ちよくなるとかなんとか。もちろん、そんな無茶な服薬をすれば肝臓にダメージを負うし、依存性も発生して止められなくなって、最終的に死に至ることもある。

 薬の過剰摂取(オーバードーズ)。OD問題。


 「そう、ソレソレ! ソレの青春版!」


 「青春版?」


 「そうや。薬は過剰に取ったらあかんけど、青春なら過剰に摂取してもええやろ?」


 「まあ、それは……」


 悪いとは言えない。

 投げかけられた視線に、とりあえず頷く。


 「オレはな、青春ってやつを浴びるように摂取したいんよ。十七の夏は二度とない! せやもんで、なんとしてもこの夏に青春、アオハルしたいんや!」


 「十七の夏……ねえ」


 夏鈴(かりん)が健太の勢いに、少しだけ後ずさる。山野もどういう顔をして受け止めたらいいのか、わからないって感じであやふやに笑う。

 夏鈴(かりん)はこの夏に誕生日を迎えるけど、山野はまだ十六の夏だし。


 「で? 健太は具体的にどんな夏にしたいんだよ」


 逢生(あおい)が言った。


 「そこまで言うなら、具体的なこと、考えてきたんだろうな」


 「おう! 昨日、明音(あかね)ン家で予習してきたから、バッチリだ!」


 「バッチリって。お前、ボクン家でマンガ読んでただけじゃないか。遅くまで居座って、それも、民宿の方に置いてある、古い少女マンガばっかり」


 「マンガで予習って。イタイわね」


 エッヘンと胸を張る健太に、逢生(あおい)夏鈴(かりん)がツッコむ。


 「うるさいな。いいんだよ、マンガで。マンガはトキメキ、アオハルの宝庫だ!」


 そう、なんだろうか。息の合う逢生(あおい)夏鈴(かりん)ペアと違って、僕と山野は、あいまいに笑うしかできなかった。


 「いいか、まずは〝朝、カレシを起こしに、幼なじみカノジョが彼の部屋を訪れる〟んだ!」


 「はあ?」


 「『もう! 早く起きないと遅刻だよ!』なんて感じで。あと、『お弁当作ってきたの。よかったら食べて♡』ってのもええなあ」


 声色作って、語りだした健太。

 誰も止めない。

 フムフムと聴き入ってるからじゃない。

 面白いから喋らせておけ。

 うわあ、ドン引き、引きますわあ。

 どうしよう、反応の仕方がわからない。

 聴いてる側の内心はそんなところだろう。


 「あとは、自転車で二人乗りってのもええなあ。手を繋いで歩くってのも悪くない。昨日、榊が言うとった夕方なんかやと、最高やな。映画とかにもありそうな光景や」


 あるんだろうか。そんなベタな光景の出てくる映画。


 「学校帰りにカフェとか立ち寄って、二人でナントカペチーノってヤツをいっしょに飲んでもええな」


 カフェって。

 この町にそんなシャレたもの、あったっけ? 

 美浜屋と、逢生(あおい)たちの両親が経営してる民宿しか飲食できるとこ、ないけど。


 「んで。『それ、美味しいの?』とか訊いて、『飲んでみる?』みたいなやり取りした後、ウッカリ間接キスしてもうたりとか」


 「キモ!」


 速攻夏鈴(カリン)が身震いしたけど、健太はお構いなしに妄想を続ける。


 「恋のライバルが出てきて、二人の間に障害がってのも悪くない展開やけど、それするには役者が足りんからなあ。そこはカット。それよりは、夕暮れ時に浜辺を歩くってのをオレは推したい」


 「夕暮れ時?」


 「そうや。赤く染まった波打ち際を並んで歩く、カレシとカノジョ。カノジョは麦わら帽子と白いワンピース。波に合わせて、ワンピースの裾が風に揺れて、カノジョの白く細い脚にまとわりつくんや。そんでもって、麦わら帽子がフワッと風にさらわれて、海に向かって飛んでく。それをパシッと捕まえるカレシっていう、そういうの。なんかロマンチックで、カッコよくね?」


 陶酔から戻ってきた健太が問うけど。


 「薬と違って、中毒にはなってなくても、ヤバいヤツにはなってるわね。どんなマンガを読んできたのよ」


 「激しく同意」


 夏鈴(かりん)の意見に、全員が頷いた。

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