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アオハルオーバードーズ!  作者: 若松だんご
3.恋せよ乙女、恋して男子
14/37

(四)

 「――計画、進まねえ」


 放課後、掃除の時間。グデっとグダっと、溶けかけたチーズのように、ほうきの柄にすがる健太。

 コイツがこうして潰れて愚痴るのって。――デジャヴ?


 「計画が進まないって。そりゃあ、あんな曲しか歌わないんじゃ、しょうがないだろ」


 昨日のカラオケ大会。

 珍しく榊さんも参加して、大盛り上がり――にはならなかった。


 まず、古いカラオケセットだから、登録されてる曲も古い。

 おそらくだけど、90年代でストップしてる。その上、選曲の入力は、なんと数字。

 タッチパネルで曲を選ぶのではなく、カタログに載ってる曲の番号を、リモコンで入力するってスタイル。歌手順、曲名順にカタログから選ぶことはできるけど、まあ、そのカタログってのも、機材のアナログさといっしょで、時代に取り残されている。当たり前だけど、最新の曲なんてアップデートされているわけがない。


 「だから、カラオケなんて盛り上がらねえよって、言ったじゃん」


 逢生(あおい)がむくれる。

 昔、民宿で使っていたカラオケ機材。健太が強引に頼み込んで、ずっと放置されてたそれを使ったのだけれど。


 「うう~、あそこまで古いままだとは思わなかった~」


 健太がベソをかく。

 どうせ、得意な曲の一つや二つ歌って見せて、明音(あかね)ちゃんにカッコいいと思ってもらう魂胆だったんだろう。


 (『三年目の浮気』、……じゃなあ)


 健太の選曲。

 デュエット曲を二人でってのは、カップルっぽくて悪くないと思うけど。


 (だからって、「浮気」はないだろ)


 せめて『愛が生まれた日』にしておけ。

 逢生(あおい)がツッコんだけど、「オレ、これしか知らねえ」で健太が選曲して、明音(あかね)ちゃんとのデュエットに持ち込んだ。その上、歌詞もところどころうろ覚え。

 当然だけど、明音(あかね)ちゃんが「ステキ♡」になるわけがない。


 「でもさ、意外だったよな、榊さんの選曲とかさ」


 「そうだね。あれは意外だった。すごく上手かったし」


 ベソかき健太はほっといて。逢生(あおい)の意見に、ウンウンと頷く。

 珍しく参加していた榊さん。普段の彼女なら、「そんなことしてる暇があったら、本を読んでいる方がマシ」とかで、仲間に加わってくることないのに。

 僕と山野が遅れて到着した時。マイクを握って熱唱してたのは、なんと榊さんだった。

 『ロマンスの神様』

 カタログの最新曲として追加されてたもの。

 榊さん曰く、「高音域が出るかどうか試したくて選んだ」そうだけど。

 

 (あんな高音、出るだけすごいよな)


 声が嗄れることも、ひっくり返ることもなく歌いきってた。「まだまだだわ」と本人は不満げだったけど、低い男性音域の僕からしてみれば、「すげえ」の一言。

 まあ、この六月に、冬のテッパン曲を持ってくるのはどうかと思うけど。それでもスゴかったと感想を述べたい。

 カラオケ大会は、「最低でも一人一曲歌うこと」というルールが設けられ、遅れた僕と山野も、演歌が圧倒的割合を占めるカタログからどうにか選曲して歌った。

 けど。

 これで、アオハルオーバードーズ計画が一気に進む――なんてことはなかった。停滞。むしろ逆行した部分もあるような気がする。


 「チクショウ。夏までにはもっと推し進めたいのに……」


 グズグズ。

 健太が愚痴る。


 「なんで、夏! なんだよ」


 こだわる理由は?


 「夏と言えば、海! 海と言えば、水着! 水着と言えば、カワイイ彼女! 夏の日差しに輝く肌! 水を弾くキレイな肌! 体のライン露わなビキニか、ちょっとかわいくワンピースタイプか! スク水もアリだが、オレの性癖には刺さらへん!」


 あ。訊いた僕がバカだった。

 訊いたことを、超特大後悔。


 「ペチャパイを気にして、フリルいっぱいワンピースタイプとか、タンキニを選ぶのは許すが、ラッシュガードはいただけへん! 日焼けを気にするのはわかるが、それじゃあ、せっかくのお肌が見えへんやないか! おっぱい隠すのも論外や!」


 知らん。そんなこと。


 「なあ、逢生(あおい)よ。お前だって、夏鈴(かりん)のボディ、見たいと思わへんか」


 健太が、ススっと箒仲間の碧生(あおい)に近づく。その動きはまるで「レレレのオジサン」。

 真面目に掃除してた逢生(あおい)に近づくと、その肩に肘を置く。


 「アイツ、いっつも『あたし、泳ぎますけど?』みたいな、ガチの水着着てるけどさ。たまには、カレシとしてアイツのビキニ姿とか見たくねえか?」


 「そっ……!」


 「真っ青な空と海! 白い砂浜、浮かぶ雲! そこに健康的に焼けた肌! 白いビキニの隙間からこぼれんばかりに実った胸! ムダな肉などあらへん、キュッと締まった腰! パンツから伸びるスッと長い脚! カレシだからこそ拝める、その姿! 一回ぐらい、見たいと思わんか?」


 ウリウリ。

 健太が、真っ赤になった逢生(あおい)の頬を、肘でつつく。


 「なあ、お前ら、そのへんにしておけよ」


 特に健太。でないと。


 「――サイテー」


 ゴミ箱を持って教室に戻ってきた夏鈴(かりん)。続いて女子たち。

 ゴミ捨てに行ってた女子が戻ってきたのだ。

 おまけに、明音(あかね)ちゃんまでついて。全員して、穢らわしいものを見るように、こっちに視線をむける。


 「えっと、その、これはだな……」


 焦った健太が弁明を始める。


 「いい? 明音(あかね)ちゃん。男、特に健太はああいうヤツだから。うっかりアイツの前で素肌なんか晒しちゃダメよ?」


 「そうよ。男はケダモノなのよ。気をつけなさい」


 「はい!」


 忠告する夏鈴(かりん)と榊さん。真面目に聞く明音(あかね)ちゃん。


 「そうそう。未瑛(みえい)もね。大里くんはそうじゃないって信じたいかもしれないけど。アイツだって、頭んなかは、健太とどっこいどっこいよ」


 ――は?


 「そうね。おとなしい草食系に見えても、中身はケダモノ。羊の皮を被った狼かもしれないわ」


 いやいやいやいや。

 なんで、僕まで健太の同類にされちゃうのさ。

 そりゃあ、少しは、そのまあ……。ちょっとぐらいは想像したけどさ。山野の水着姿。でもほんのちょっとだけだし。そこまでハッキリ思い描いたわけじゃないし。山野なら、フリルやリボンを付けてもいいから、かわいいビキニ着てくれるとうれしいなって、恥ずかしいなら、フワッとパーカー羽織ってくれててもいいな、かわいいだろうなって思っただけで……。


 「はい! 気をつけます!」


 明音(あかね)ちゃん以上に、元気よく返事した山野。

 ああ、僕って、「羊の皮を被った狼」認定なんだ。まあ、そう思われるだけの妄想はしてたわけだし。

 ガックリと肩を落とす。

 その姿を見てか、山野がクスクスと笑った。

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