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ドMはやめられない  作者: 川崎春
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前編



 アリルは、吹っ飛ばされて叫んだ。

「ひぃぃ~!」

 主人は蔑むようにアリルを見て告げる。

「この役立たず!お前はここに残って騎士団の足止めをしろ!」

「そ、そんな、お待ちください」

「煩い!」

 アリルは主人に足蹴にされてその場にうつ伏せになって倒れ、その間にアリルが集めた金目の物や証文の入った袋を持って、主人は部屋からドタドタと走り去っていく。

 しかし主人の逃亡は玄関で終わる。騎士団が来たのだ。

 ガチャガチャと金属の擦れる音と乱暴な足音がして、アリルの倒れている部屋の扉が開かれる。

「……」

 複数の騎士達は微妙な空気に包まれたまま、目の前に倒れているメイドを見下ろした。

「またお前か」

 呆れた声で言ったのは、騎士団で貴族街を管轄にしている騎士隊の隊長であるアークだ。

 アリルはむくりと起き上がると、目を輝かせてアークを見る。

「取り調べですか?」

「事情聴取はするが取り調べはしない」

「え?拷問?」

「事情聴取だけだ」

「縄で縛ってもらっても、鞭打ってくださっても構わないのに」

 苦虫を噛み潰した様な表情でアークは呟く。

「……このドMメイド」

 アリルがうっとりとアークを見上げるまでが形式美だ。

 この捕り物で、大捕り物で活躍したという高揚感は騎士達から失われていた。


 平民の中産階級が台頭しつつあり、貴族達も爵位に関係なく才能の無い物は貧しくなる。その為、悪事を働く者が増えた。

 脳筋で才能のない貴族。それも次男や三男が悪事に手を染めない為にはどうするか。腕に自信があるなら騎士になる。頭が良ければ文官。どちらも人手不足だから歓迎される。

 騎士の給料はそれほど高給ではないが、引退して平民となっても読み書きができる脳筋と言うのは教師や剣術の師として身を立てる事が出来る。

 アークもそんな風に人生を考えている一人で、シャレルド侯爵家の次男だ。

 彼の家は没落こそしていないが、裕福な訳ではない。妹が居るからだ。

 父と兄は事業を興して貯蓄しているが、持参金には到底追いつかない。侯爵と言う肩書が持参金を吊り上げているのだ。この国では爵位に応じて持参金の額が決まっている。侯爵家と言うと王族にも嫁げる立場である為、持参金は莫大なものとなる。

 弟も城で文官をしており、妹の嫁ぎ先へ持たせる持参金を稼いでいる。

 そんな家柄なので貴族街の騎士隊隊長を二十三歳と言う若さで担っている。侯爵家の子息と言う肩書だけで低い爵位や平民の騎士は大人しくなるし、親子共に真面目である為、もめ事を起こさず真っ当に勤める事を見込まれているからだ。

「また居たの?」

 玄関でこの館の主人を捕縛した副隊長のワイズが目を丸くしてアリルを見る。

「おう、まただ」

 アリル・オルディアン。

 この女、平民ではなくオルディアン伯爵家の次女である。長女のマリアンは婿を取り家督を継いでおり女傑と名高い。領地経営も潤滑で投資する事業も大当たりしている。更に商会も持っている。大金持ちだ。

 マリアンと繋がりを持ちたいであろう男は大勢居り、アリルを嫁に望む者はいくらでも沸いて来る。

 しかし……アークもワイズも残念な物を見る目でアリルを見る。

 この性癖(つまりマゾである事)を理由に彼女は結婚を拒み、虐めてくれそうなご主人様を探し求め、素性を隠してメイドとして働いているのだ。


「妹は一緒に教育を受けたのです。領地経営からメイド仕事まで、あの子は何でもこなせますの。私よりも有能ですわ。国の情報部からもお誘いを再三受けているのですが……」

 アリルを引き取りに来たマリアンは涙ながらにアークに語った。

「この様な込み入った事をお聞きしても良いのか分かりませんが……」

 アークは姉マリアンなら、アリルの性癖の理由を知るかも知れないと訊いてみたら、とんでもない事を言われた。

「私が……虐め過ぎたせいです」

 マリアンとアリルは一年も違わないで生まれた姉妹だった。しかも容姿が良く似ている。両親の愛情と跡継ぎの座を独り占めしたかったマリアンはアリルを虐めぬいた。両親に見えない場所で使用人まで脅して。

 両親は事業に忙しく家を留守にしがちだった。だから気づいた時には、アリルは辛いと思う次元を通り越し、快感だと思う様になっていたと言う。だから姉のいじめがないと生きていけない。と言い、家族の精神を断崖絶壁から突き落とした。

「あの子は優しすぎたのです。私の酷く醜い感情や行動を愛として受け止めようと頑張って……壊れてしまいました」

 両親はアリルの様子に耐えきれなくなり、マリアンに家督を譲って修道院に入り、父も修道士に、母はシスターになってしまった。孤児院で今は子供達の世話をしているという。マリアンも今では過去の未熟な己を責め、アリルに対して酷い事をするなら死ぬとまで思い詰めている。

 ところが、何もしてこなくなったマリアンに愛されなくなったと思い込んだアリルは、寂しさから家を出て現在の様な状況に陥る事になった様だ。

 虐めをする。つまり悪人の家にするりと潜り込み、有能さ故に主に接近して暴言を浴びて暴力を振るわれる。……諜報部が目を付ける程に潜入が上手い。

 騎士隊としても毎度毎度大捕り物に行くとアリルが居るのだ。諜報部が欲しがる理由も分かるが、諜報部員としては使い物にならないとも理解している。

 虐めてもらえるかどうかが、全ての基準になっているからだ。

 騎士隊の半数は婚約者も居ない未婚の若者だ。うら若く美しい女性(それも実家がお金持ち)を助けているのだから、結婚したら玉の輿かもと思ったが、マリアンからの話や実際のアリルとの遭遇を繰り返す事で、彼女が居る屋敷は怪しいという事件発生現象の様に考える様になっていった。既に騎士隊の中で彼女は女性として扱われていないのだ。

「いっそ、証拠の有無に関係なくアリル嬢が居る屋敷を探して家探しした方が早くないか?あの子いつも怪我をしているじゃないか」

 屋敷の主人を護送し、家探しをした後で書類整理をしながらワイズが言うので、アークは言った。

「それはダメだと、騎士団の団長と諜報部から通達が来ている」

「そんな上からアークにわざわざ?」

「そうだ。アリル嬢は虐められないと寂しくて死んでしまうかも知れないそうだ。それに事件のある家にばかりいるアリル嬢の存在が公になれば、殺される可能性があるからだとか」

 ワイズはげんなりして言った。こんな物は詭弁だ。

「おいおい……上はアリル嬢をどうするつもりだよ」

「あれをどうにかするなんて、簡単な話ではあるまい。通達が来たのだから気にはしているらしい。出来うる限り気を付けるしかないな」

 二人は陰鬱な気分で残りの作業をこなした。


 家に帰ってから部屋に食事を運ぶように家令に言いつけて着替え終わるとノックの音がする。

「入れ」

許可したが……入って来た人物を見るなりアークは声を上げる。

「うわ!」

 メイドはアリルだったのだ。

 アリルはにこりと笑うと軽く頭を下げ、食事を置いて行く。

 呆然とその様子を見るアークにアリルは言う。

「本日よりアーク様の専属メイド兼婚約者候補のアリルでございます」

 訳が分からずアークはアリルを見る。

「は?」

 アークが眉間に皺を寄せて言うと、アリルは笑顔で応じた。

「私、アーク様をお慕いしておりますの」

「……俺、Sじゃないけど」

 女性に告白されたのにサッパリときめかない。

「アーク様だからですわ!」

 両手の指を絡ませて胸元に持って来ながら言う。

「姉に虐げられても、使用人達にも見て見ぬふりをされた幼少期。思い起こせば、『大丈夫か!』なんてお決まりのセリフと共にお姫様抱っこしてお医者様に連れて行って付き添って下さる殿方なんて、今まで居ませんでしたから」

「ぎっくり腰の爺さんでも同じように扱う。騎士の職務だ」

「その冷静な言葉が私のM魂に突き刺さりますわ!」

 苦い顔になったアークにアリルは笑顔のまま告げる。

「では、アーク様に会いたくて、騎士団に捕まりそうなお方をご主人様にしていたと言ったら、信じて頂けますか?」

 アークは目を皿のようにしてアリルを見る。

「少しは貢献できまして?」

 確かにここ最近検挙率が上がって特別手当が出ていた。結構な額だった。

 呆然としていると、アリルは蕩けるように笑った。

「私はドM生活を続けたいのです」

「好きにしろよ」

「私の生きがいは、死なない程度に痛めつけられる事ですの」

 あまりに酷い言い分に、アークの顔も引きつっている。

「死んだら、痛めつけられても感じる事ができません」

「当たり前だ」

「アーク様はいつも絶妙なタイミングで助けにやって来て、嫌そうな顔とお言葉を下さいます。最高です」

 ご主人様に手ひどいおしおきを受けた後の救出。そして被害者を見て嫌そうにする。……騎士としての行動の遅さや対応を悔やむ要素である筈なのだがアリルにとっては最高のタイミングであるらしい。

「お前、俺に一目ぼれしたみたいに言っていたじゃないか」

「一目惚れだけで殿方に告白するような花畑頭は持ち合わせておりませんの。あなた様の事を知りたくて何度も逢瀬を重ねました」

 アリルにとっての逢瀬とは、事件現場で逢って事情聴取までの事らしい。

「結果、理想の殿方だと分かりましたので今回のお話を……」

「普通にデートに誘えよ!」

「お誘いしても断られるのでしょう?勿論、虫けらを見る様な目で。考えるだけで興奮しましたが、我慢しました」

 アリルは頭のネジがぶっ飛んでいるので、会話に引き込まれない様にアークは話題を変えた。

「よく我が家に入り込めたな。まさか父上か兄上が汚職でもしているのか?」

「いいえ。マリアン姉様の妹である事と、アーク様をお慕いしている事を事前にお手紙でお伝えしただけです」

「……絶対それだけじゃないだろう」

「アーク様に始めて助けられた時の様子をロマンス小説風に書いてみましたら、お義母様とティナ様がとてもお喜びになられて。こちらに迎え入れて頂いております」

 ティナはアークの妹だ。

「多才だなぁ!何でそういう無駄な使い方するかな」

 アークが呆れてつっこむ。

「そうでしょうか?私が何かすると怒るか意地悪を言う方ばかりなので、私は無駄だと思っておりません」

 アリルは、悪意を好意に捻じ曲げて解釈しているのだ。マリアンの言っていた『壊れた』の意味をようやく悟る。

(マリアン殿はどれだけ妹に酷い事をしたのやら……張本人ではどうしようもないのだろうな。第三者の手が必要か……)

 アークは面倒見の良い男だ。

 結局アリルを放置できず、婚約をする事に決めた。ある種の慈善事業だ。もし感性が真っ当になったら解消しようという程度の発想だった。


 しかし事は想像以上の大事になってしまった。

 マリアンはアリルが婚約した事を喜び、大金を持参金として送って来るだけでなく、国王からの直々の呼び出しでアリルを死なせない様に面倒を見る事を約束させられたのだ。

 ……彼らの両親のやっていた事業と言うのは、隣国との間に鉄道を引くという二国にとってとても重要な事業だった。半官半民の上に隣国も絡んでいた中で、かなり重要な役割を担っていたのだ。無事に開通したものの、家族を犠牲にしての働きが悲劇を生んだ事は王家でも重大な判断ミスと受け止められていたのだ。

 マリアンもそうだが、アリルも非常に優秀だ。二人が真っ当に育たなかったのは、両親を王家が国の利権絡みで家に帰らせなかったからだ。そして……その恩恵を受けている事業を今はマリアンが主導で維持されている。

 実はマリアンにも歪みが出ているという。彼女は、何かを虐める事でしかストレスを発散できないのだという。彼女なりに発散するような趣味を持とうとしたが心を病み、事業から外れると言い出した。

 立ち上げ時に貢献した両親と引き継いだマリアン。その代わりとなる人材はそう簡単には見つからない。

 王家は慌てて彼女の婿として体が頑強で痛みに快感を覚える変態騎士をあてがった。どれだけ虐めても壊れない上に喜ぶ夫の出現に、マリアンは安定したという。

(姉妹そろって騎士がお好みか。俺は生憎普通だが、いいだろう……)

 アークは腹をくくったのだった。


 結婚して分かった事だが、アリルには想像以上の資産があった。

「これ、どうしたんだよ?」

「鉄道以外の事業は、私が事業主とされておりますので両親の元部下の方々が取り仕切って下さっています」

 服飾、雑貨、食料、宝飾品の輸出入……。やっていない事はないのではないかと言う程の量にアークは眩暈を覚える。

「これも両親の愛ですわ」

(優秀な一族なのは分かったが……両親二人で回していた事業の半分以上をまだ若い娘一人にって。贖罪じゃなくて罰じゃないのか?鉄道一本のマリアンの方がマシじゃないか?)

 さすが、娘達の異常に気付かない程のワーカーホリックは、贖罪方法もおかしかった。

(ブラック社長兼業を愛とかほざくこの女をどうするべきか……)

 アークはまず事業を回しているそれぞれの分野の部下を集めた。そして決済の書類を積み上げて見せる。

「すべての事業計画や認可だけで、月にこれくらいある。……人間一人にやらせるには多すぎる量だと思うのだが」

 各分野で出している書類だけで、他の分野の書類を見ていない部下達は絶句している。

「アリルの看板だけを使いたいのであれば……アリルはオーナーと言う格好にして別に社長を選出してくれ」

 当然抵抗されたが、アークは食い下がった。

「アリルは何処にでも潜伏出来る。……お前達はいつも見られている。商売が傾きそうな時は嘘を吐かずに申告する事だ。彼女なら力を貸すだろう。そして夫の俺は騎士だ。不正が分かれば容赦はしない」

 そして一同を見据える。

「アリルは過労で死ぬのも愛だと言って喜ぶが、俺が夫になった以上その体質は正してもらう」

 殺人的な書類の量、困ったら頼る姿勢。……アークの指摘に楽をし過ぎていたと自覚した者達は、新たな経営体制を整えた。

 結果、一年もするとアリルは売上の一割を徴収する出資者と言う扱いになったのだ。


 アークが次にしたのは、田舎への転居だった。

 アークは騎士団を退団した。王族の計らいで男爵の位を授かり、小さな土地をもらえる事になった。いくつかの候補があって、アークは地図を広げて思案した。

 マリアンは王都に、アリルの両親は西の修道院に居る。

 検討した結果、南東のド田舎にアリルの金で屋敷を建てた。両親やマリアン、事業の相談もあちらが来なければ出来ないという状況を作ったのだ。

「兄様、ご両親やマリアン様と和解させてあげないの?」

「それはお前の理想だ」

 ティナは息を呑む。

「いいか?アリルは被害者だ。まだその傷も癒えていないのに周囲の気持ちを反映して和解させる気か?」

「私はただ、そうなったらいいと……仲良くするのは悪い事じゃないでしょ?」

「それは問題があるのに、今まで通りに振舞えと言っているのと同じだ」

「そこまでは言ってないわ!」

「俺からすれば妻に理想論を押し付けられている様で不愉快だ」

 ディナが涙目になる。アークはその頭を撫でる。

「お前が思う以上に……難しい問題で時間が必要だ。分かるな?迂闊な事を言うものではない」

「ごめんなさい……」

「俺もキツかったな。悪かった」

 アークはハンカチでその涙をぬぐった。

「兄様、アリルお義姉様が好きなのね」

「当たり前だろう。独身でも構わないと思っていたのに結婚したのだから」

 アークはニヤリと笑う。

「容姿は凄く好みだ。特に足首はいいな」

 ティナが虫けらを見る様な目でアークを見たが、彼は気にしなかった。


 使用人はアークの家で雇っていた者から志願者を選んだ。

 田舎暮らしに憧れる使用人が居てくれるといいなぁと言うあまり期待しない応募だったというのに、五人もついて来た事にアークの方が驚いた。侯爵家の使用人は皆貴族だからだ。

「私達は地方貴族の次男や次女ですので」

 彼らはそう言って笑う。アークは現地調達も考えていただけに思いがけず使用人を得て喜んだ。

「いつでも遊びに来いよ。待ってる」

 父と兄は朗らかに手を振る。

「そちらの新鮮なお野菜を送って頂戴」

 母も妹もそう言って笑って送り出した。

 アークの領地は、小さな村が二つあるだけだ。管理と言う程の物もない。納税義務は男爵なので物凄く少ない。アリルが出すというので素直にそうした。……こんな場所では金の使い道がないのだ。

 暇な日々。

 そこでアークは考えて、ある事を始めた。

「アーク、もうやめて下さい。死んじゃう」

「俺はお前が死ぬと思う寸前で助ける男だ。安心しろ」

 やっているのは……フットマッサージだ。毎晩風呂上がりに薄く油を塗ってひざ下までをもみほぐすのだ。

 やがてアリルはうとうとして、そのまま寝てしまう。死ぬと寝るは違うのだが、アリルは似た感覚を覚えるらしい。

(何度か凍死しかけた事があったらしいが。そのせいだな……)

 真冬に眠っているところに、マリアンから水をかけられた事があると聞いた。アリルが病気になると両親が帰って来るからと言う身勝手な理由だった事も。

 よく眠れる香りだというポプリが枕元に置かれ、アリルが朝まで眠れる様になるまで半年以上かかった。それでも、少し風の強い日や雨の日は音で飛び起きるのだ。アークと使用人達は、起きた時にすぐ気付ける様に当番制で待機している。

「おやすみ、アリル。良い夢を」

 結婚して二年になるが、アークはアリルに男女関係を求めていない。彼女は寝るのを極度に恐れ、隣にアークが居ると全く眠れない状態だったのだ。

 それは一緒にこちらの屋敷に移って来た使用人も理解していて、表向き普通に振舞えるだけに痛ましいというのが共通認識だ。

 ここでの暮らしはアリルを虐める人がいない。当然アリルは探しに行く。

 アリルはじっとしている事を嫌い、毎日この周辺の土地へとふらりと出かけてなかなか戻って来ない。アークも騎士時代と同じく鍛錬をしたり、領地経営について勉強したり書類仕事をしている事が多いので、二人は昼間一緒に居ない。

 食事の時間はお互い決めていないし、アリルは朝弁当持ちで出かけてしまう事もままある。ただ夜は必ず帰宅し、一緒に食事をとるのだけを決まりとした。アリルはアークと男女の関係になっていない事を気に病んでおり、この約束だけは必ず守った。

 アークは猫の様なアリルを家に縛り付ける気は無かった。

 もしトラブルに巻き込まれても、夜には帰って来る事になっている。帰って来ない場合にはアークが探して迎えに行けばいいのだ。

 アリルの疲れ切ってフットマッサージをされて眠る日々が緩やかに流れていく。

 最初は鞭を差し出してアークに打ってくれと頼んだりもしたアリルだが、だんだんと酷い事をして欲しいという衝動は減っていった。たまにアークと手を繫いで一緒に散歩までするようになった。

 家を出て何処かに行く頻度も減って、家で使用人と一緒に家事をしたりして過ごす様になった。

 アリルは自分の居場所をゆっくりと作っていく。アーク達はそれを見守っていた。

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