第8章320話:公爵家2
厳しい立場に追いやられているグラムスティード家。
なかでも、ラミゼアの抱える鬱屈とした感情は、グラムスティード一族の中でも群を抜いている。
なぜなら、ラミゼアの適性職が【錬金術師】だからだ。
庶民ならばスーパーエリートのような扱いを受ける錬金術師。
しかし貴族社会ではそうではない。
上流階級において錬金術師とは、政治には役立たず。ただポーションを作るのが上手いだけの薬師。
失敗職なのである。
しかも、ラミゼアにとって不幸だったのは、現在の貴族社会においては、他に突出した錬金術師がいたことだ。
そう、ルチルである。
ルチルは錬金術においては、紛うことなき天才であり、彼女の錬成するアイテムは、時代さえをも変えうる。
錬金術師をバカにする貴族でも、ルチルの作る物には非常に注目しており、敬意を払っている。
しかし、名声をほしいままにするルチルに対して、ラミゼアの立場は最悪だった。
天才ルチルとは違い、ラミゼアは錬金術師の凡人。
彼女が作るアイテムは、木っ端の錬金術師よりは上ではあるものの、せいぜい秀才の域を出ないものだった。
『ルチルの劣化お嬢様』
『ルチルの下位互換』
『ルチルは天才、ラミゼアは凡才』
などと、口さがない者たちは言う。
ラミゼアは、同じ錬金術師の適性職を持つルチルと、たびたび比較され、そのたびに嘲笑されてきたのだ。
自分の適性が錬金術師だとわかった日から、ずっとラミゼアは、ルチルの引き立て役なのであった。
「ルチルだけが全てを手に入れて、私だけが全てを失う……」
自室のこもったラミゼアは、憎しみの炎を募らせる。
「許せない……」
ルチルを許せない。
許せない。許せない。
許せない……けど。
どうすることもできない。
たとえグラムスティード家が、ミアストーン家に戦争を仕掛けたって勝ち目がないからだ。
貴族も神殿も軍もグラムスティード家を味方しない。
詰んでいるのだ。
このまま何もできずに失脚していくのが、グラムスティード家に待ち受ける未来である。