第8章311話:アリア
<ルチル視点>
王都。
屋敷にて。
私はしばらく学園には通わず、ダラダラと過ごすことにした。
しかし、そんな私のもとへ、さまざまな人物が訪問してくることになった。
一番最初に訪れたのはアリアである。
とりあえず2階のリビングへと通す。
椅子に座って、お茶を手に、二人で話を始める。
アリアはどうやら商売に関して、いくつかの現状報告をおこないに来たらしい。
ちょうどよい、と私は思った。
私もアリアに話したいことがあったからだ。
1つはメイルデント鉱山の件。
1つは元辺境伯領に商品を卸す件。
以上の二つについて、アリアに伝えることにした。
「――――というわけで、メイルデント鉱山の件に、一枚噛んでもらいたいのですわ。また辺境伯領には、マヨネーズやシャンプーなどの物品を卸し、交易を活性化させていただきたいんですの」
「なるほど。委細、承知いたしました」
とアリアが応じる。
私は告げる。
「領主として出来るサポートはさせていただきますわ――――と言いたいところですが、わたくしはもう領主ではありません。商売において領主の力を借りたい場合、フランチェスカを頼ってくださいませ」
「はい。……それにしても」
とアリアは前置きしてから告げた。
「領主と商会、どちらもルチル様がトップということは、ルチル領の政治も経済も、完全に掌握していることになりますね。いえ、それだけではありません。元大公領を含むルチル領は、ジルフィンドの中枢でもありますから、実質的にはジルフィンド全体をコントロールする立場にあるといえます」
「大げさな言い方……とは言えませんわね。今でも一番ヒトが集まってくるのは元大公領ですもの」
「はい。これはもう、ルチル商会がジルフィンド地方を完全制圧するしかありませんね」
とアリアが意気込んだ。
しかし、私は警告する。
「確かに、ルチル商会は、やろうと思えばジルフィンド地方でいくらでもお金儲けができるでしょう。しかし、一人勝ちはいけませんわよ」
「ダメなのですか?」
「経済の基本は、循環ですわ。しかし一人勝ちをする商会というのは、その循環をせき止めてしまい、経済全体に悪影響を与えてしまいますの」
「ふむ」
「自分たちだけ儲ければいいという考えを、中小商会が持つぶんには構わないのですが、ルチル商会のような大手がそれをやってしまうと、弊害のほうが大きいです。ですから、経済の自然な循環の中で、適度に稼ぐことを意識してください」
ルチル商会は、ジルフィンドの経済全体に影響を与える存在になっていく。
だとしたら、ルチル商会の儲けばかりでなく、経済への影響も考えながら商売をやっていかなければならない。
あと単純に、富の過剰な一極集中は、恨みも買うからね。
「なるほど。ご慧眼、感服いたしました。今のお言葉を、肝に銘じます」
「ええ。よろしくお願いいたしますわ」
話がひと段落する。
あとは従業員の募集や、販売計画に関する、細かい話し合いなどをするのだった。