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赤の他人とは思えない

作者: 日上口

10月2日


日本一周を終えて、その報告の2時間後に自殺した22歳の青年。

ADHDと診断され、自分の人生の意味を見失った。彼はバイクが好きだった。


【日本一周】


それは彼にとって、ただの旅と意味付けるには些か自身と向き合う時間が長すぎたのだろうか。

美しい景色をいくつも見た。人の温かさにも触れた。楽しいことを沢山した。約5ヶ月間の旅だ。画面の向こうでは彼の旅を応援し、見守っていた人が何百、何千、何万人といた。

だが、彼の記憶の片隅には常に1人暗闇を走る恐怖と孤独が付きまとっていた。

5ヶ月間、彼は何度横道に逸れて飛び降りてしまおうかと考えたのだろう。一体何度、先の見えない暗闇に脅えて、体を震わせて硬い寝床を縋るように寝たのだろう。

僕には何もわからない。バイクに乗ったこともなければADHDと診断された経験もない。ただ同じ年に生まれただけの僕には、彼の考えどころか顔も声も知ることは出来ない。

ただ僕はこの悲劇を暫くは忘れることが出来ないだろう。そう、しばらくは。結局ニュースでたまたま目に付いた赤の他人の話、僕の脳に日々押寄せる情報の波がいつかは彼のことなどどこかの遠洋まで運んでしまうだろう。僕もそれをわざわざ追いかけて船を出したりはしない。ましてや必死に泳いで追いつこうなんて考えもしない。それが事実であるだろうし、それでいいと思う。

ただ、僕はこうして今の想いを文章に綴っている。いつかはどこかへ流れるこのメモも、完全に消えることはない。ある時偶然にこれを見て、僕は名も顔も声も知らぬ、ただ同じ年に生まれただけの青年を、僕の年下になった青年を思い出すのだ。そしてこのやるせない気持ちが思い起こされる。

次に彼を思い出した時、「馬鹿な事をしたよお前は」と、天国に向かって一笑するか。「お前は賢い奴だった」と賛辞を送るのかは、まだ暗闇を超えてみないと分からないことだ。


ーーーーーーーーー


追記






お前は賢いやつだったよ

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