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7 祝福と、諦めと、気づき。

 私とグラジオ様の婚約から少し経った頃。

 公式に婚約が発表され、婚約パーティーが開かれました。

 会場に入ることができるのは、王侯貴族と、貴族に近い力のある領民のみ。

 2つの国に隣接する土地であるが故に隣国との関係も深く、他国の貴族も多く招待しています。

 もちろん、この地の伯爵家の生まれである、フォルビア様も参加しています。


「婚約おめでとうございます。グラジオ様、リリィ」


 赤い髪を1つに括り、ドレスに身を包んだフォルビア様が祝福の言葉を贈ってくださいました。

 彼女は、笑っています。笑っている、けれど……。

 その笑顔が、どこか作り物じみているようにも感じられました。

 いつもの彼女は、もっと、お日様みたいに笑うのです。

 今日はどこか影が感じられる。そんな気がしました。

 それでも、ほんの些細な、通常であれば見落としてしまうぐらいの違和感で。

 彼女が凶行に走ることを知っている私だから、気が付くことができたのでしょう。

 

「ありがとう、フォルビア」

「ありがとうございます、フォルビア様」


 グラジオ様と私、二人並んでそう言えば、彼女は喜びとも、切なさとも、悔しさともとれる……そのどれもが混ざったような表情で、唇を引き結びました。


「……本当に、おめでとうございます」


 感極まったように、声を震わせて。

 以前の私は、フォルビア様が心から私たちを祝福してくれているのだと思っていました。

 でも、違いました。逆行までした今になって、ようやく気が付いたのです。

 フォルビア様は――グラジオ様のことが、好きだったのだろうと。


 一通り祝福の言葉を述べると、彼女は「それでは」とお辞儀をして、ある男性の元へ向かいます。

 フォルビア様の婚約相手となる男性も、このパーティーに出席しているのです。

 ここで話したことをきっかけに、本格的に縁談が進み始めたと聞いています。

 

「フォルビア様……」


 これは、私の想像でしかありません。けれど、きっと……。

 彼女はこの場でグラジオ様への気持ちを過去のものにし、新たな道へ踏み出したのでしょう。


「リリィ。フォルビアと彼ならきっと大丈夫だよ。だから、今日は自分たちの仕事をしよう」

「っ! そう、ですね……。ごめんなさい。今日の主役は、私たちですものね」

「ああ。俺たちの婚約が……領地、この国、大切な友のためにもなるよう、このパーティーでしっかり顔見せしないとな」


 フォルビア様を目で追ってばかりで、目の前のことに集中できていませんでした。

 親友の心配をしていると思われたようで、グラジオ様に優しく手を握られてしまいました。

 グラジオ様は奥手な方ですが、こういった場面では次期当主として切り替えることができる、頼りになる人なのです。

 確かに、フォルビア様の動向を見守るのも大事です。

 けど、今は私とグラジオ様の婚約パーティーの真っ最中。

 彼の妻となる人間として、務めを果たさなければ!




 この地は元々、他国との争いで疲弊していました。

 アルティリア王国は肥沃な大地を持つ豊かな国ですが、国境付近の辺境ともなると話は違い、土地は痩せ気味で、資源も少ない。

 それでも国防のために軍備にはしっかりと予算が割かれた――軍事都市、と呼んでもいい場所だったのです。

 修行のために中央からやってくる兵や騎士もたくさんいたぐらいです。


 風向きが変わったのは、ルーカハイト家が辺境伯としてこの地を任されてから。

 グラジオ様の先祖にあたる人々が、数代かけて他国との関係を改善し、この地を貿易と異文化交流の入り口とし、領地と国を潤わせたのです。

 それだけに、国や領民のルーカハイト家への信頼は厚い。

 それでも、どこかで間違えれば他国との争いが始まる可能性は十分にありますから、いざというときのための準備もしています。


 国防。貿易と異文化交流。

 ミスをすれば争いへ。良好な関係を守り続けることができれば、発展へ。

 ルーカハイト辺境伯は、大変難しい舵取りを任されています。


 そんな家の跡取りとして生まれ、次期当主としての教育を受けてきたグラジオ様。

 彼が抱える重圧は、相当なものでしょう。

 幼い頃には、自分には無理だと言って泣くグラジオ様を見たことだってあります。

 それでも己の役目を果たすことを選んだ、とても強く、優しい人。

 

「グラジオ様」

「なんだい、リリィ」

「一緒に、みんなを守っていきましょうね」

「ああ」


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