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3 二人とも、私の大切な人。

 悪魔から身体を取り戻した私は、まず状況を把握することにしました。

 今の私は、リリィベル・リーシャン、15歳。辺境伯や伯爵家を補佐する子爵家の生まれ。

 銀の髪に、緑の瞳……のはずが、何故か瞳の色が変わり、アメジストのような紫色に。

 私にとりついた悪魔・ミュール曰く『わし好みの色にしてやった』とか。


 ミュールをしばき、他にいじった部分があるのかと問い詰めれば、『そこだけじゃあ……』『静かで落ち着いたお嬢ちゃんだったはずじゃろ……。どうしてこんな暴力女に……』とぷるぷる震えていました。

 遡った世界では、私の瞳は最初から紫だったことになっているようで、誰も色の違いについて言及してきません。

 悪魔の言葉を信用するわけにはいきませんから、色々確認し直しましょう。


 グラジオ様とフォルビア様が幼馴染なのも、フォルビア様と親友であることも前と変わらず。

 その辺りのことは、リーシャン家にあった記録や、手紙のやりとりからわかりました。

 記録を見た感じでも、時期的にも、グラジオ様から婚約を申し込まれるのはこれからです。

 婚約する前か後か、判断する方法はたくさんありますが……。中でも、わかりやすいものが1つ。




 訓練場に向かえば、予想通り、グラジオ様はそこで剣をふるっていました。

 ルーカハイト辺境伯領は、2つの国と隣接しています。

 先代たちの尽力により比較的良好な関係ではあるものの、いつ争いが起きてもおかしくありません。

 有事に備え、兵士たちはもちろん、次期当主であるグラジオ様もしっかりと鍛錬を積んでいるのです。


 グラジオ様は、私より2つ上の17歳。幼い頃は少し気弱なところもありましたが、今の彼は立派な当主を目指して日々己を鍛える、素敵な男性です。

 恵まれた体躯から放たれる技の威力は、どれほどのものでしょう。

 師範と打ち合う彼の黒い髪から汗がつたい、キラキラと輝きました。


「グラジオ様」

「ああ、リリィベル。どうしたんだ、こんなところに」


 打ち合いを終えた彼に声をかけると、「リリィベル」と呼ばれます。

 婚約後、グラジオ様は私のことを愛称の「リリィ」と呼ぶようになるのです。

 わかっていたことですが、やはり婚約前なのでしょう。

 髪色と同じ黒い目を細め、笑いながら私に近づいてくる彼の両腕は、普通に動いています。

 最後に会ったときは片腕が動かない状況でしたから、彼の元気な姿を見て、涙ぐんでしまいました。


「お、おい。本当にどうしたんだ」

「砂埃が、ちょっと」


 笑顔を作って涙をぬぐう。この訓練場の足場は土でできており、砂埃が舞うこともあります。

 グラジオ様はまだ心配そうにしていますが、とりあえずは私の言葉に納得してくれたみたいです。


「砂が入ったなら、目をこすらない方がいい。医者を呼ぶか?」

「いえ、そんな。大げさですよ。でも……ありがとうございます。グラジオ様」

「そうか……? 痛みが続くようなら言うんだぞ」

「はい」


 ちょっと過保護なぐらい優しいところも、変わっていません。

 私が大好きだったグラジオ様です。

 彼が元気なこと、変わっていないことを確認したら、すごく安心しました。


「ふふっ……」

「リリィベル?」


 嬉しさから、笑みがこぼれる。

 くすくす笑う私を、グラジオ様は不思議そうに見つめていました。



***



 次は、私たちを刺した張本人――フォルビア・ユーセチア様の元へ。


「リリィ!」


 ユーセチア伯爵家を訪ねれば、目的の人にはすぐに会うことができました。

 2つに束ねた赤い髪を揺らし、ぱあっと笑顔を見せながらこちらに駆けてくる、可愛らしい女性。

 この方が、フォルビア・ユーセチア様。16歳。

 明るく、優しく、活発。キラキラと輝く水色の瞳は、みんなに元気をくれます。

 領民も含め、誰にでも好かれる人でした。

 今だって、突然やってきた私を、友人として歓迎してくれています。


「事前の連絡もなく申し訳ありません、フォルビア様。……少し、お会いしたくなってしまって」

「そんなのいいの。お友達じゃない。会いに来てくれて嬉しい! よかったら、お茶にしない?」


 花がほころぶような、とはこんなときに使う言葉なのでしょう。

 私に向ける彼女の笑顔は、本当に可愛らしくて。

 一緒にいると、心が温かくなります。フォルビア様は、そういう人なのです。

 彼女があんな凶行に走るなんて、とても考えられません。

 私たちの結婚式までの5年間に、フォルビア様に何が起きたというのでしょう。




 紅茶とお菓子を並べて、二人でお話を。

 フォルビア様のくるくると変わる表情を見ていると、私まで笑顔になってしまいます。


「お嬢さん方、俺も混ぜてくれるかな?」


 少し経ったころ、グラジオ様が私たちに合流。

 訓練が終わった後、私の行先を聞いて追いかけてきたそうです。

 幼馴染三人が揃うと、更に賑やかになります。

 こういうとき、主に話すのはグラジオ様とフォルビア様で、私は二人の話を聞いて笑っていることが多くなります。

 こんな時間が、ずっと続けばいい。

 5年後も、その先も。こんな風に、三人で過ごしたいと。心から思いました。


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