表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/36

33 殴り勝った、その翌日。

 魔術発動から一晩が経ち。


「あれ……? 私……?」

「フォルビア様!」

「リリィ……。おはよー……」


 フォルビア様が目を覚ましました。

 まだ眠たそうな彼女が、口元を抑えながら欠伸をします。

 何があったのかはわかっていないようですが、ここがリーシャン家であることを理解すると、「もうちょっと寝ていいかなあ」とぽやぽやしていました。

 あのまま帰すわけにはいきませんでしたので、私の家にお泊まりしたことになっているのです。

 

 昨夜、私とグラジオ様の二人でフォルビア様を呼び出し、魔術を発動。

 ミュールの協力もあり、彼女の中の悪魔を引きずり出すことに成功。

 フォルビア様の手に触れ、悪魔のいる空間に接続。

 ここでようやく干渉することができました。

 思いっきり殴れば退治完了です。それはもう、思いっきり。

 数年分の想いを込めて、しっかり殴らせていただきました。ぼっこぼこです。


 後からミュールが話してくれたことですが……。

 悪魔の名前はメフィー。隣国の文献で何度も目にした名前です。

 ミュールはいつからメフィーのことを知っていたのでしょうか。悪魔の世界は謎です。

 人の精神を蝕むこと、他者からの干渉を防ぐことに長けた悪魔で、祓うとなるとかなり厄介なのだそうです。


『ま、じめっとした引きこもりなわけじゃな。人々に慕われる我とは大違いじゃ』


 ミュールはメフィーのことをそう評していました。

 慕われているのはあなたが守護精霊を名乗っているからでしょう、と思いましたが、本人が嬉しそうなので何も言いませんでした。





「ねえ。昨日、なにがあったの?」


 朝の支度を済ませたフォルビア様が、首を傾げます。

 当然の疑問ですよね……。

 なにこれ? と言いたくなる部屋に連れていかれて、いつの間にか意識を失って。目が覚めたらリーシャン家にいた。

 訳がわかりませんよね。

 聞かれるだろうとは思っていましたが、実際にそのときが来ると、答えに困ってしまいました。

 黒猫の姿でそばにいるミュールも、流石に空気を読んだのか黙っています。


「ええと……」


 目を泳がせていると、フォルビア様は水色の瞳を少し伏せ、考えてから。


「……やっぱりいいや。あのね、リリィ。私、ずっと怖い思いをしていたの。そんなことしたくないのに、大好きなはずなのに、ある人を傷つけたくなって……。ずっとずっと、耐えてたの」

「フォルビア様……」

「何年もそうだったんだけどね、今日はすごくすっきりしてて。……リリィ、ミュール様。ありがとう」

「よかった……。よかったです……」


 本人の口から話を聞いて、ようやく彼女を救うことができたのだと実感がわいてきました。

 私の目からは、自然と涙がこぼれます。

 これで、フォルビア様が凶行に走ることも、処刑されることもないでしょう。



 闇を祓う聖女と、守護精霊。

 私たちは今もそんな風に呼ばれていて、もちろんフォルビア様もそのことを知っています。

 だからきっと、フォルビア様を苦しめていた闇を私たちが祓ったのだ、と解釈してくれたのでしょう。





「フォルビア、どこか痛んだり、気分が悪かったりはしないか?」


 フォルビア様が目を覚ましたことを聞き、グラジオ様もやってきました。

 彼にもリーシャン家に泊まっていただきましたが、部屋は別でした。

 淑女の寝起きの姿を見せるのもよくないと思い、支度が済むまで待っていただいたのです。


「グラジオ様! 気分が悪いどころか……すっきりすっきりです! このまま朝の散歩にでも行きたいぐらいです」

「そうか……。それはよかった」


 フォルビア様の元気な言葉に、グラジオ様もほっと胸をなでおろしています。

 

 その後は、彼女の言葉通り、三人でリーシャン家の敷地を散歩しました。

 子爵家ですから、辺境伯や伯爵家ほど広くはありませんが……。

 それでも、朝日を浴びながら三人……と1悪魔で歩く時間は、とても心地いいものでした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ