表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/36

30 それでも、私は。

 辺境伯の妻となる者として学び、働きながら、悪魔を祓う日々。

 ミュールが見える人の数もどんどん増えてゆき、自分の力が強まっているのもわかります。

 ですが、フォルビア様についた悪魔には、未だに何もできていません。


 そのまま時が過ぎ、私は18歳に。

 悪魔に憑かれてから、約3年。フォルビア様は、今も明るく振る舞っています。

 ですが、精神的な苦痛な相当なもののはずです。

 これ以上、親友を苦しませたくない。

 私自身も、じわじわと追い詰められていました。




 このころには、ミュールもすっかり人々に馴染んでいました。

 私から離れて空を飛んでいても驚かれることはなく、ミュール様だ、と手を振られているぐらいです。

 ちなみに、猫型の方が人気です。

 猫の姿の方が可愛がられやすいので、ミュール自身も猫スタイルを好んでいるように見えます。




「リリィベル様、ミュール様。どうかこの子を……」


 町を歩く私たちに助けを求めてきたのは、子供を抱いた女性。

 まだ幼い娘さんが急に発熱し、なかなかよくならないのだそうです。

 医療は、私の分野ではありません。

 けれど、こういった体調不良にも、悪魔が絡んでいることがあるのです。

 心と身体は繋がっています。

 少し体調を崩したところに入り込み、身体とともに弱った精神を更に蝕む。

 そうすれば、通常以上の負荷を受け、心身ともに倒れる人の出来上がりです。

 お子さんには、悪魔が憑いていました。


『おお、これは我らの領分じゃな。祓ってやるからそこに立っておれ』


 ミュールが、私よりも先に動き出します。

 黒猫スタイルから、人の女性に近い姿へ。

 親子の足元に光の陣が出現し、炎が立ち昇ります。

 炎が消えるころには、悪魔は焼き尽くされていました。

 ミュールが言うには、私の力を通して顕現しているときであれば、下等悪魔ぐらいは祓えるとのことです。

 私……人間を通していることが重要だとかで、通常、悪魔同士は干渉し合えないとも。



「ありがとうございます、ミュール様!」

『なあに、これくらい気にせんでいい。それより、その娘。体調が悪いのは事実じゃから、しっかり休ませてやるんじゃぞ』

「はい……!」


 私の出番はありませんでした。

 猫に戻り、『まったく世話が焼けるのう』と言うミュールは、どこか嬉しそうで。

 彼女が私に本音を話してくれることはないでしょうが……。

 守護精霊として感謝されること、人々の力になることに、喜びを感じているように見えます。


 今の彼女になら――必要とあれば、もう一度、身体を貸し出すかもしれません。




 ミュールは人間の世界に溶け込み、私はミュールを信頼するようになりました。

 そんな、良好な関係を築いたからでしょうか。

 ある日、人の姿をとったミュールが私に問いました。


『リリィベルよ。どうしても、フォルビアに憑いた悪魔を祓いたいのか?』

「はい。どうしても、です」

『そうか……。なら、教えてやってもいいかもしれないのう』

「なにをです? なにか知っているのですか?」

『強大な悪魔の祓い方、じゃよ』

「……!」


 私が頷いたことを確認すると、ミュールはわざとらしくため息をつきます。


『人間に協力してやるなんて、我も阿呆になったものじゃ。……じゃが、我もフォルビアには世話になっておるからな。力を貸してやろう』

「ミュール……!」

『ただし、あれだけの悪魔を祓うとなると、タダでとはいかん。祓うためには……命を消費する』

「いのち、を?」

『ああ。命を消費する魔術じゃ。どれくらい持っていかれるかは、お前次第じゃがな』

「やります。……と言いたいところですが、先に説明をしてもらえますか? 命とか、魔術とか、一体……」


 ミュールは、色々なことを教えてくれました。

 彼女は、私が悪魔を祓って得た魔力を使ってこの世界に顕現しています。

 そうとしか聞いていませんでしたから、素の状態の人間には魔力がないものだと思い込んでいました。

 でも、そうではなかったようで。

 人間も、最初から微量な魔力を持っているそうです。


『お前はその量が普通より少し多くて、コントロールも上手かった。無意識じゃろうが、お前は普段から魔術を使っておった。自分の肉体から悪魔に魔力を流し込んで退治してたんじゃぞ、あれ』

「そうだったのですか……」

『おお。拳にのせて魔力を流し込む、恐ろしいパンチじゃった……』


 最近は落ち着いていますが、彼女に憑かれた頃は、肉体の主導権争いで殴りまくっていました。

 あのときの拳や蹴りで、私は自分の魔力をミュールに注入していたようです。

 悪魔にとっては恐ろしいことのようで、過去を思い出したミュールが怯えて震えていました。


『で、じゃ。フォルビアに憑いた悪魔を祓う方法じゃが。魔術で我とお前の力を増幅させたうえで、奴を引きずりだせばいい。干渉するとき、壁があるように感じるじゃろ? あそこから引きずりだして殴る。それで終わりじゃ。代償に奪われる命が、10年か20年か……それは、やってみないとわからんがの。……やるか?』


 ミュールの問いに、私は――


「はい」


 もう一度。はっきりと、頷きました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ