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15 事実は、変わらない。けれど。

 その後も、グラジオ様とのデートは和やかに続いていきます。

 露店で買ったお菓子を、人目につかない場所でミュールに分けてあげたりもしました。

 私には悪魔の生態はよくわかりませんが、顕現できる機会がとても少ないため、人間の食べ物を口にするのは本当に久しぶりなのだそうです。

 自分が何年生きているのかはミュール自身もよくわからないようですが、『人間が作るものもずいぶん美味くなったものじゃのう』と度々口にしています。



 だんだんと日が落ち始めてきた頃。そろそろ夕食へ、という話になりました。

 グラジオ様が予約してくださったレストランへ向かいます。

 その途中、がしゃん、と何かが倒れ、割れるような音が聞こえてきました。

 ほぼ同時に、怒鳴り声と悲鳴も。どちらも男性のものです。

 町の人たちがざわつき、逃げ出す人も現れ始めています。


「リリィ、君はそこで待っていてくれ! アマド、リリィを頼んだ!」


 異変を察知したグラジオ様が、騒ぎの中心へ向かって駆けだします。

 グラジオ様の言葉に反応し、アマド様が私の隣に。

 アマド様はグラジオ様の友人で、右腕とも呼べる人です。

 今回も、私たちの護衛を引き受けてくれました。

 

「グラジオ様……」


 少し離れた位置から、今も何かを殴ったり投げたりするような音と悲鳴が聞こえてきます。

 そんな場所へ、一目散に駆けていったグラジオ様。

 心配が顏に出ていたようです。アマド様に優しく「大丈夫ですよ」と言われてしまいました。


「あの人は……お強い」

「それは……。そうですが……」


 それでも心配です。グラジオ様、どうかご無事で。

 そんなやり取りの直後、わっと歓声が上がりました。

 グラジオ様! グラジオ様だ! と、人々が沸いています。

 どうやら、もう鎮圧できたようです。本当にあっという間でした。

 先程までの混乱から一転。沸き立つ観衆が生まれています。


 アマド様と一緒に、人だかりの中心へ。

 そこには、唸り声をあげる男性の両手を拘束し、馬乗りになるグラジオ様がいました。


「グラジオ様……! よかった……!」

「リリィ。すまないが、もう少し待っていてくれ。アマド! この男を憲兵に引き渡す」


 グラジオ様の周辺には、男が壊したのであろう調度品が散乱。

 暴行を加えられたと思われる男性もいて、手当のための人員も呼ばれました。





「あなた……!?」


 加害者が憲兵に引き渡される直前、群衆から女性が飛び出してきました。

 どうやら、この男性の奥様のようです。


「グラジオ様! この人がなにをしたと言うのですか!」

「あなたは、この男の奥方か? すまないが、憲兵へ引き渡させてもらう。……暴行と、器物破損。俺自身の目で見た」


 女性は、「そんな……」と力なく呟いて、その場にへたり込んでしまいました。

 自分の夫が、犯罪者として連れていかれるのです。どれほどの苦しみと悲しみでしょう。

 私は、そっと奥様の肩に触れました。こんなこと、気休めにもなりません。でも、そうしたいと思ったのです。


「そんなことをする人じゃないんです。暴行、だなんて……。きっと何かの間違いです! 信じてください! リリィベル様」

「っ……」

 

 とてもおつらいことはわかります。ですが、グラジオ様がその目で見たというのです。

 私には、暴行の事実を否定することはできません。

 ……罪を犯した事実は変わりませんし、償いもしなければいけないでしょう。

 それでも、1つだけ。私に、できるかもしれないことがあります。


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