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14 君の笑顔が、眩しくて。

 ミュールの姿が、グラジオ様にも見えるようになってしまいました。

 ですが、彼女が可愛い猫ちゃんの姿をしていたためか、普通に馴染んでいます。

 今では、グラジオ様が私とミュール宛てにお菓子を持ってくるぐらいです。

 それも仕方ありませんね。可愛いは正義なのです。


 ミュールは、私の力が強まったこと、グラジオ様にも素質があったこと、私たちが一緒にいる時間が長いことなどが原因ではないかと話していました。

 これは推測に過ぎず、ミュールにも詳しいことはよくわからないそうです。


 姿は猫とはいえ、悪魔は悪魔。

 私は、グラジオ様に悪魔の存在と、人々が悪魔に取り憑かれていることを話しました。

 念のため、時間を遡ったこと、フォルビア様に刺されることは伏せておきました。

 気分のいい話ではありませんからね。必要だと判断したら、そのときお話すればいいのです。


 今はグラジオ様のみですが、この先、他の人にもミュールが見えるようになる可能性はあるでしょう。

 そうなったとき、なにをどう話すべきか。もしもの時に備えて、今から考えておく必要がありそうです。


 ちなみに、他の人に憑いた悪魔が感知できるのは私だけです。

 グラジオ様にはミュール以外の悪魔は見えませんし、感じ取ることもできません。

 グラジオ様にミュールが見えてしまったときはどうしたものかと思いましたが、秘密を共有する相手ができたことに、安心もしていました。

 相手が婚約者のグラジオ様ですから、なおさらです。





 今日は、軽く変装をしてグラジオ様と街に出ていました。

 お忍びデート、というやつです。

 珍しく、今日の午後はまるっとお休みなのだそうです。

 お昼過ぎから夕ご飯まで一緒に過ごす予定です。



「リリィ、ちょっと来てくれ」


 一緒に街を歩いていたグラジオ様が、女性向けの装飾品を扱う店の前でとまりました。

 私も彼に続きます。


「これ、君に似合うんじゃないか?」


 彼が指差したのは、紫色のガラス細工が使われた首飾り。

 アメジストに似ていて、とても綺麗です。

 その隣には緑色のものもありました。

 ミュールに取り憑かれた今、私の瞳は紫色ですが、元々は緑でした。

 本来の色のままだったら、彼は緑の首飾りを選んだのかもしれない。そう思うと、少しだけ胸が痛みました。


「……あまり好みではなかったか?」

「い、いえ! とても綺麗です」

「そうでしょうそうでしょう、若いお二人さん。どうぞ、手に取って見てみてください」

「ええ、では……」


 店主に促され、紫色の首飾りに向かって手を伸ばします。

 首飾りに手が届く直前で、グラジオ様の手とぶつかってしまいました。

 ぶつかった、といっても、とん、と軽くあたっただけです。

 揃って同じものに手を伸ばせば、そうなるでしょう。

 それだけのことなのに、グラジオ様は。


「す、すすす、す、すまない。そんなつもりはなかったんだ。許可もなく触れるつもりは……!」


 こんな具合に大慌てです。

 言っているうちに恥ずかしくなってきたのか、顔の赤みがどんどん増していきます。

 公衆の面前でキスでもされてしまったら、流石に困りますが……。少し手が触れ合うぐらい、私は気にしません。


「ほら、これ。君の瞳の色によく似ている。綺麗だ。店主、こちらいただこう」


 首飾りを手に取ったグラジオ様は、とても早口です。

 私の意思も確認しないまま、購入までいってしまいました。

 ちょっと手が触れただけでこの慌てっぷり。

 店主も微笑ましいものを見守る顔をしています。

 とても可愛らしく思えて、私もくすくす笑ってしまいました。



 首飾りを私に渡した彼は、ちょっと拗ねたような顔で頬をかいています。


「リリィ、そんなに笑わないでくれ……」

「ふふ、申し訳ありません」

「情けないかもしれないが、仕方ないだろう? ずっと君のことが好きだったんだから……。あっ……」


 ぽろっとこぼれた本音。グラジオ様は、自分の言ったことが原因で、再びぼぼぼっと赤くなりました。

 グラジオ様は、やっぱり素敵な人です。

 

「リリィ、もう勘弁してくれ……」


 私は何もしていませんが……。

 グラジオ様と一緒だと笑顔になってしまいますから、彼はそのことを言っているのかもしれません。

 でも、笑うなというのは無理ですよ。グラジオ様。愛しい人の、可愛らしい姿を見ているのですから。


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