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プロローグ 始まりは悲劇
ある夜。アルティリア王国の国境付近、ルーカハイト辺境伯の領地にて。
ルーカハイト家次期当主のグラジオと、子爵家の娘・リリィベルの結婚式が行われていた。
みなに祝福された、幸せな結婚式。……のはずだった。
式の途中、新郎新婦の幼馴染で、リリィベルの親友でもあったフォルビア・ユーセチア伯爵令嬢が、リリィベルの腹を刺した。
二人を祝福する言葉を述べながら、笑顔で、握手でも求めるかのように。ナイフを突き出したのだ。
次の一突きは、妻を庇ったグラジオの腕に。
血だまりに倒れる花嫁。
腕にナイフが刺さったまま、妻を守る花婿。
あはは、あははは、と狂ったように笑う女。
幸福な式から一転。会場は悲鳴と怒号に包まれた。
リリィベルは、薄れゆく意識の中で、愛しい人が自分の名前を呼ぶ声と、親友の笑い声を聞いていた。
子爵家に生まれ、辺境伯の妻となる女性、リリィベル・リーシャンの物語は、悲劇から始まる。