表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
変貌のバトルクライ  作者: 海洋ヒツジ
兆しの章
21/72

幕は静かに上がる4 頭上の攻防


       ◐


 カドラム軍の戦闘機、ファイアイーグルは、硝煙の漂う空を駆けながら、シャルコルの町に陣取るアルトラン軍へと迫っていった。

 まず挨拶とばかりに、町の外に築かれた塹壕へ機首を向ける。軌道は敵兵の頭上をかすめるように。三機の黒塗りの機体は轟音をまき散らして進む。

 すれ違いざま、塹壕に隠れるアルトラン兵士に機銃を浴びせていった。


 運悪く体を隠しきれなかった兵士数人が、銃弾の餌食となって血を噴く。傷を負ったのは、自前の魔想防壁を持たない兵士だ。


 仲間の怪我を衛生兵が治そうとするが、無論そんな猶予をカドラムの戦闘機は与えない。


 ファイアイーグルは旋回して、またも塹壕に迫る。今度は並んだ塹壕の列をなぞるような軌道をとろうとした。


 だがその時、シャルコルの町から飛翔する影があった。


 アルトラン軍の空戦兵役、羽ばたくワイバーンに騎乗した魔導兵、竜騎兵(ドラグーン)だ。


 ワイバーン――赤褐色の鱗に覆われた飛竜は、細身の腕と同化した翼を羽ばたかせて一気に舞い上がる。背に人を乗せながら、その飛行は軽やかなもの。


 三機のファイアイーグルの軌道上に、竜騎兵がそれぞれ二騎ずつ立ちふさがる。

 進路上に障害を確認したファイアイーグルは、塹壕への掃射を諦め、竜騎兵を回避しようとする。


 そうした中、カドラム軍の一機が正面衝突も顧みないという風に、竜騎兵へと突っ込んだ。すれ違いざまに機銃を浴びせようという腹づもりだ。


 その目論見通り、機銃は飛竜に、わずかだが命中したかに見えた。


 しかし竜騎兵は堕ちない。機銃は飛竜の鱗に届くことはなかった。

 わずかの銃弾は、直前に竜騎兵が展開していた魔想障壁(ウォール)を破るには足りなかったのだ。


 限界まで近づいたファイアイーグルが射撃を止める。今度は眼前の竜騎兵から離脱するべく、両翼を傾けて軌道を曲げた。


 それをアルトランの騎手は逃さない。魔想障壁を張っていた者とは別の竜騎兵が、その時既に巨大な魔想の火球を造り終えていた。


 竜騎兵を守っていた魔想障壁が解かれたのと同時に、機体の側面から狙うように火球が放たれた。至近距離からの火球は着弾。カドラムの機体が火を噴き、衝撃でコントロールが失われた。一機のファイアイーグルは回転しながら墜落し、地上で爆発した。


 残ったカドラムの二機を、他の竜騎兵が追い立ててゆく。


 速さのファイアイーグルと防御の竜騎兵。両者とも退くことはなく、戦いは継続。

 地上の兵を残し、戦いの場所は空の高嶺に移行した。


       ◐


 頭上を敵の戦闘機がもの凄いスピードで駆けぬけたすぐ後、アラタ達のいる地点はカドラムの強力な爆撃を受けていた。


「しっかりしろ! 大丈夫だ!」


 爆撃で抉られた土砂が塹壕内に降りかかってくる。


 アラタはそんな周囲の状況を見る余裕もないまま、先ほどの戦闘機の射撃で傷を負った兵士に呼びかける。傷の手当てをし終えたところだが、その兵士は気が動転していた。


「痛いぃ……血がどんどん溢れて、このままじゃ死んじまうよぉ!」

「動くな! 生きたいならじっとしててくれ、頼むから!」


 兵士の腹にあてられた包帯はすぐに血で染まった。新しい包帯を兵士に掴ませ、自分で血を止めさせる。痛み止めは打ってある。


 魔想による攻撃や防御と違い、治療は専門の知識と理に適った手段で行わねばならない。この行為ばかりはカドラム側にも共通のことだろう。

 魔力を練ってイメージを出力する魔想は便利な代物だが、医療行為への応用方法は未だに見つかってはいなかった。それというのも、魔想によって造り出される現象は、時間が経つにつれ脆くなり崩れてしまう性質があるためだ。魔想で医療品を造っても、あまり意味がない。


 とはいえ治療魔想などというものがあったとしても、生まれてこの方魔想を扱えたためしのないアラタには関係のない話だろう。


 頭上にいた戦闘機と竜騎兵は別の場所に飛び去ってもう見えない。


 今はそれらと取って代わるように、爆撃の雨が降り続いていた。顔を出すことすらままならない状況だ。


「クソ野郎が!」

「誰かこの耳障りな音を止めろ! 耳に地竜でも飼ってるみたいだ!」

「あぁ!? なんだって、聞こえねえよ!」

「だからぁ、耳によぉ!」

「うげぇ、げほっげほっ! 口に砂が入った! ちょっと飲んじまったよ……」


 身を守るしかできない兵士が不満に声を荒げる。敵の攻撃を受けて興奮しつつあった。


 運悪く塹壕の中に砲撃を叩き込まれ、動かなくなった兵士もいた。


 同じく砲弾が直撃した魔導兵の障壁は、ただの一発で砕けた。そうなると魔力を大きく消費してしまうが、命は無事なのでまだ戦えた。


 そして敵の大砲が大人しくなりつつあった頃、一つの声が兵士たちの興奮を頂点まで引き上げる。


「敵だ! 敵がそこまで来ているぞ!」


 声を聞いた兵士たちは噛り付くように塹壕の外を確認する。

 アラタも恐る恐る、それにならった。


 灰色の兵士、カドラムの軍が、硝煙の間から湧き出るように、徐々に平野を埋め尽くしていく光景が見える。

 まるで地獄から這い出す悪魔のようだった。

アルトランの戦闘兵器における技術はリアルの中世くらいまでで止まっていますが、カドラムの戦闘兵器はおおむね近代(たまに現代・近未来)くらいの技術力となっています。

ざっくり「魔法VS機械」みたいなテイストになればいいかなーと思います。


次回の更新は12/24の17時ごろになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ