プロローグ
火花が散る。
その苛烈で厄介な光は、まるで暗闇に陥った意識へと叩きつけるかのように瞬いた。
鈍く淀んだ聴覚、混濁した自我、融解しつつある記憶。それが今の自分の姿。
重い瞼をこじ開ける。すぐそこに広がるのは、既に終わった景色。
全ての生物がいつかは死に絶えるように、全ての出来事には結末がある。続いていたものが途切れ、物言わなくなる瞬間が。
この日、ある一つの出来事が、他の多くの出来事を終わらせた。
そうして終わったものたちの中に、どうしても手放せないものがあった。
また、大きな火花が散る。
そんな景色の中、相争う二人の姿がある。
二人がどうして戦っているのかを知らない。もう何もかも手遅れなのに、どこに戦う理由があるのか。それとも理由などなく、ただこの地獄に酔っているだけなのか。
一人は激しい雷光を纏った戦士。腕に集めた光を叩きつけると、その場所は抉れて穴となる。目に映るもの全てを消し飛ばさんとするような、荒々しい戦い方をする男だ。
もう一人は、たった一本の剣を持った兵士。嵐のような相手に立ち向かうにはあまりに頼りない装備で、しかし巧みに相手の中心に潜り込んで斬り込んでいる。さながらその男自身が、研ぎ澄まされた刃であるかのよう。
火花が散り、雷光が迸る。
黒煙が舞い、剣閃が切り裂く。
血液が飛ぶ。血液が飛ぶ。
こんな光景はどこかおかしいと思った。
自分と彼らとの距離が果てしなく遠い。どころか周囲の現実さえも自分を置き去りにしている。もはや自分の手のひらさえ信じられない。
こんな光景を見続けるくらいなら、失ったものの残響ばかりが頭を埋め尽くしてしまうのなら、意識は閉じていた方がいい。
遠く、深く、夢の果てへ。
自分にとっての始まりは六年前。白の景色。
雪が降らないはずの土地に雪が降った、そんな奇跡みたいな日からだった。