もののけ討伐記 第三章
熱心に読んでくださる皆様。ありがとうございます。
今回は、ラスボスとの戦いです。
お楽しみください!
第三章 別の世
そこは、どこまでも仄暗い灰色の世界だった。
光も、地平もなく、ヤスニヒコがひとり宙を漂っていた。
なんだ?ここは?兄上は?トヨ殿は?姫は?
そう思う思念だけが働いて、体の実感がなかった。
「ほおう。もう気が付いたのか」
ふいに、そんな声が聞こえてきた。
「誰だ!」
「そんなことは、どうでも良い」
「ふざけるな!」
「まあ、良い。教えてやろう」
あまりの出来事に夢を見ているのかと思ったが、どうもそうではないらしい。その声の主は、あのもののけだった。中空に頭だけが浮かんでいて、吊り目の細い目を一層細くしながら笑っているようだった。
「そなたは、私の重力に取り込まれたのだ」
「重力?」
そんな言葉の概念は、もちろんヤスニヒコの時代にはない。
「そうか、わからぬか。それでも良いから、ただ聞いておれ。重力は時間も空間も飛び超える。そう。ここはそなたの時空ではない。私の次元なのだ」
そう言われても、聞いたこともない言葉の羅列にヤスニヒコは戸惑った。
「私はそもそも、そなたの次元の者ではない。時空の流れ者だ。たまたま面白そうな、そなたの次元を見つけて楽しんでいるのだ」
「楽しむ?」
「人の不幸は楽しい。違うか?」
「ばかか、おまえは」
「いいや、そうではない。そなたにはわかっているはず」
「わかるわけねぇぞ、そんなこと!」
「そもそも、そなたには月ほどの光がある。光があれば、影もある。光と言うのは、そなたの優しさだ。その影は、わかるか?」
ヤスニヒコは、いい加減うんざりした。
「いいから、はやく元に戻せ!」
「無関心なのだよ。たいていの者は無関心だ。だから光も影も区別がつかない。そなたは、それがはっきりわかる。わかるというのは、大きな力となる。その力を私はこれより吸収する。そうすれば、あの、日のおなごに打ち勝てる。そなたは私の一部となって、そなたの次元で楽しむのだ」
狂ってる。ヤスニヒコはそう思った。
しかし、ちょっと待て。日のおなごとはトヨ殿のことか?であるならば、勝つ見込みがあるではないか。何としてもこいつの言う、こいつの次元から逃げ出してトヨ殿と力を合わせれば・・・そう思ってヤスニヒコは、とにかくこいつの軛を打ち破る方法がないかと考え始めた。
朝日が昇る中、ヤスニヒコを失った悲しみは、皆を重苦しく包んでいた。
「別の世って・・・」
そう独り言を繰り返し、姫は涙を流していた。
あまりにも人の世の出来事ではない。無力感が漂っていた。
それぞれ、思い思いの場所に腰をおろして無言でいた。聞こえるのは姫の嗚咽の声のみだった。
シンが口を開いた。
「我らなら、勝てると思っておりましたのに・・・」
誰も追従しなかった。そんな気分でもなかった。
スクナが言った。
「何か、方法がないものか。あまりにもヤスニヒコ様がお可哀そうじゃ」
姫の嗚咽が大きくなった。
何かを思い出したのはサルだった。
「御子様、ひょっとして、あの暗黒の力なら・・・」
トヨはうなずいた。
「私もそれを考えていた」
「あの力なら、いえ、あの力を味方につければ、ひょっとすると・・・」
「もののけも、あの力を利用したのであろう」
「あの力は、何でございましょう」
「おそらく、神の力だ」
二人の会話を聞いて、皆が集まってきた。
姫がスクナの胸倉をつかんで聞きただした。
「何か、何か、方法があるのか?なぁサル、教えてくれ」
ヤスニヒコは、気が付いた。
この右手にくくりつけている鉄剣が、鍵なのだ。
トヨ殿の力を込めたこの剣なら、きっと魔を払う事ができる。だから、さっきから大層な言葉を並べながらも、ひと思いに襲ってこないのだ。私も兄上のように、清明な光を放つことが出来れば、きっと戦える。一人では勝てないかもしれないが、時間を稼げばきっとトヨ殿が助けにきてくれる。あまりにも既知外の出来事だからどこまで出来るかわからないが、今はそれに懸けるしかない。
ヤスニヒコは、覚悟を固めた。
サルは、その記憶を総動員してもののけに落ちた時の事、覗いて見ようとした大きな存在の事を思い出そうとした。しかし、どうしても思い出せない。無理をして気迫を込めても、その記憶は砂嵐のように閉ざされる。
「難しいか?」
トヨが、そう聞いた。
サルは頭を抱え、脂汗をかきながら、苦々しそうに答えた。
「はぁ、もうちょっとの所で、急に記憶が閉ざされまして・・・」
「そうか。それは神のご配慮なのだろうな。そなたがそなたとして生きていくための・・・」
サルの苦しみようを、ハラハラしながら見守っていた者たちも、これ以上無理強いできないような気がした。姫だけが、涙をためてサルを見つめていた。とにかく、その所在地がわからないことには手の打ちようがない。さすがのタケノヒコも何が何だか見当もつかず、ぼんやりと遠くの山並みを見つめていた。
大きな存在は、おそらくこの世に降り立った神の力であろうと、トヨは見抜いた。そしてそれは、例えば大きな岩などを依り代として存在しているはず。実は、ずいぶん前からトヨはイズツ国のどこかに不思議な力がなかったか、セイに探索を命じていた。
ヤスニヒコは、どうすれば鉄剣に清明な光を灯すことができるのか、その事だけを考えていた。もののけとの戦いではよく吹き飛ばされたから、その手に剣を括り付け、落としたり無くしたりしないようにしていた。その手に力を籠めたり、戦う気迫を集中してみたり。それでも、何の変化もなかった。その間、もののけは姿を消しており、いろいろと試してみたが、うまくいかず、呼吸が苦しくなった。
だめだ。これでは。
そう思って、大きくゆっくり深呼吸した。
ならば、呪文なら。
そんな考えが頭をよぎった。
呪文といっても、破邪、改心、癒し、結界とある。一体どれだ。
まて、もうひとつ。おまけのように教えてもらった神を称える呪文がある。
今はその力にすがるしかないだろう。
こんなことなら、真面目に鍛錬しておくべきだったな。
そう思って苦笑いしながらも、ヤスニヒコは神を称える呪文を唱え始めた。
その頃、もののけは一行を見下ろす中空にあり、次の獲物を見極めようとしていた。せっかくの下僕たちが一行に悉く倒されてしまって、新たな下僕を求めていたのだ。
その視線は、父母ともに、国ごと滅ぼされたという心の闇を抱える姫に向けられた。
結局、何も解決策が見つからなかった一行は、無力感を抱えたまま黄昏時を迎えた。
シンは、黙ったまま夕餉の支度を始めた。
このところシンはキヨと一緒に食事の支度をすることが普通になっていて、一人で行うことがこんなに寂しいものだったのだと気づかされた。薪をたく煙が目に染みた。そのせいかもしれないが、涙がぽろぽろと溢れてくる。ふと、人の気配を感じた。慌てて涙を拭い振り返ると、姫が立っていた。どんなに隠しても、涙の気配は姫にも察することができた。
今は、誰もがつらいのだ。
姫はその場に居づらく、その辺の山菜でも採ってこようと山の中へ入って行った。ふきのとうでも自然薯でも、何でも構わない。昔、ヤスニヒコが言ったように、つらい時でもいっぱい食べなきゃ。そう思った。
物静かな山の中。枯れ木落ち葉の風景を黄金色の斜光が照らしていた。
姫は、落ち葉の間を、木の幹にからむ蔓を丹念に調べながら歩いた。皆から離れてこうして一人になると、どうしても涙がこみあげそうだった。
「お姉ちゃん」
子供の声が聞こえた。
こんな山の中に?こんな時間に?
姫は訝しみながらも振り返ると、そこに小さな女の子が立っていた。
迷子にでもなったのか?
「お姉ちゃんは、何を探しているの?」
そんなことより、ここにいたら危ない。もののけはまだその辺にいるのだ。姫は女の子を抱きしめようとした。
「タクマ!その子から離れよ!」
遠くで叫ぶトヨの声が聞こえた。
何?トヨ様?だって、こんな小さな子がここにいたら危ないでしょう?
「離れよ!」
女の子を抱きしめていた姫は、遠くから聞こえる声の方を見た。しかし、トヨの姿は見えなかった。
だって、トヨ様。この子が危ないよ?だから連れて行かないと・・・
「そう。だから連れて行かないと」
抱きしめていた女の子がオウム返しのようにそう言った。
いや、その子は今、正体を現した。
もののけ?
姫はそう思ったが、急に意識が遠のいていった。
異変に気付いたタケノヒコの蒼白い矢がもののけに飛んできたが、ふっと気配が消えて、虚しく山の斜面に突き刺さった。
皆が駆け付けてきた時には、一切の痕跡が消えていた。
「いったい、どうすればいいのか!」
ゼムイが珍しく、吐き捨てるように言った。
「解決の糸口が、まるで見えぬ」
タケノヒコも、呆然とするばかりであった。
「何とかなりませぬか?トヨ様」
カエデがそう語りかけても、トヨは中空を見つめるばかりであった。
「やはりトヨ様の言われる通り、心に曇りのある者は狙われるのでしょうな」
サルのつぶやきに、ジイが言い返した。
「姫様に曇りなどないぞ」
「いいや、タクマノ国の事、わだかまりがないとは・・・」
ゼムイは語尾を濁し、一同は沈黙した。重い口を開いたのはカエデだった。
「そうですねぇ。心に曇りなんて誰だってひとつやふたつ持ってますから」
「そうじゃ。タケノヒコ様とてヒナの事が・・・」
言いかけてスクナは口を閉ざした。
「いや、待て。確かにそうだ」
タケノヒコも認めた。
「ならば何故、私もトヨ殿も狙われず、他の者が狙われるのか?」
「兄上は、そのあたりが肝だと?」
「ああ。解決の糸口なのかも知れぬ」
ムネの問にタケノヒコが答えると、サルが何かに気が付いた。
もののけは、姫を自分の次元に引きずり込んでいた。
その重力で姫の自由を奪い、やがては他のもののけのように自分の手下にするつもりでいた。地平も水平もない、無限と思われる灰色の空間で姫は意識を失っていた。しかし、目には見えない遠いところとは言え、同じ空間にいるヤスニヒコは姫の気配を感じた。
姫までも引き込まれたか。
とにかく急いでこの軛を破らないと姫が危ない。
私は、必ず姫を守る。ヤスニヒコは心の底からそう思った。
一行は、宿営地に戻ると、酒を飲んで眠っている二人の元もののけを叩き起こした。
「何をなさいます!」
驚いて飛び起きた男に、トヨは蒼白く光る破邪の勾玉を近づけた。
「ひぃい!」
男は怖がる様子を見せた。カエデが、光っていないただの勾玉を近づけてみたが、それには別に怖がる風もない。
「これか・・・」
トヨがそうつぶやいた。
「そうです・・・」
そう言ったのは、キヨだった。
「キヨ!」
シンが、息も絶え絶えで今にも崩れ落ちそうなキヨを支えた。
「そなた、気が付いたのか?しかし寝ておれ、苦しそうではないか」
「いいえ、寝てるわけにはいきませぬ。トヨ様にお伝えせねば・・・」
「何を?」
「トヨ様。奴は蒼白い光を嫌がります。高波動の者と呼び、逃げる素振りさえ見えました」
中腰の姿勢だったトヨは、そのまま座り込みうつむいて何か考えを巡らせているようだった。
確かに。と、トヨは思った。
もののけや迷って出た者は、確かに低い波動のようだ。それに対して神懸かりとなる時は、高い波動のようなものを感じる。
もののけを倒す糸口に確信めいたものをトヨは感じた。
姫を守りたい。
その強い思いを呪文に替えて、ヤスニヒコは懸命に唱え続けた。どうせ、無理。と、折れそうになる弱い心を押しのけて。
一体どのくらい唱え続けているのか。
一瞬のようであり、永遠のようであり、そもそもここでは時間の流れなどあまり関係ないようだ。
しかしどんなに唱えても、トヨやタケノヒコのように輝くことはできなかった。自分が早く助けないと、姫はもののけにされてしまう。そんな確信だけはあり、そんな姿だけは見たくないという思いもあり、その心の葛藤は、何もできない自分への苛立ちも加えて大きく乱れた。
そんな時。
ヤスニヒコは気が付いた。
心を静謐に。
呪文は唱えれば良いというものではない。
集中して、魂を込めねば。
鼻から息を吸い込んで臍下丹田に落とし込み、頭を、体を、清らかに保つ工夫をして、
余計な考えを追い出して呪文に集中した。その先にある神の光をイメージしながら。
意外なところに突破口があった。
「不思議な大岩なら、ワシらのムラの近くにございます。あとひとつ山向こうです」
勾玉の訳を聞いた元もののけの一人がそう言った。
「ワシらのムラは昔イズツの都でして、その頃から神様が宿る岩として大切にしてきたものです」
もう一人の元もののけも、うなずきながらそう言った。
「そう言えば、ワシらが気を失ったのも、あの辺りだったような」
ジイは喜びを満面に表して、大声をあげた。
「でかした!ワシらを早速案内せい!」
「そうさね、早速案内してほしいところだけれど、トヨ様、いかがでしょう?」
カエデの問いに、トヨは即断した。
「ただちに出発しよう」
シンが心配した。
「しかし、キヨの具合が・・・」
「うむ。クロとタクを護衛に残そう。大丈夫だ。我らが大岩に向かえば、もののけはたちどころに察知し、その邪魔をしに現れるだろう。よってここは安全だ」
「シン。そなたも残って良いぞ」
タケノヒコがそう言うので、シンはここに残ろうかと思った時、皆のところにキヨが再び姿を見せた。
「トヨ様。私も行きますよ?蒼白い波動を使えるのは、トヨ様、タケノヒコ様、それに私だけなのですから」
脂汗を流して息も絶え絶えなキヨを見て、誰もが「無理だ」と思った。トヨもそう思い止めようとした。
「私は、参ります。今ここでお役に立てなかったら、死んでも死にきれないし必ず後悔します。そんなこと、絶対に嫌です」
真剣に訴えるキヨを見て、トヨは迷った。
今、キヨにとって何が一番なのか。
我々の力になること?
父母の仇を討つこと?
それとも、力尽きることで父母の元へ行こうとしているのか?
「ここに残るなんて、絶対に嫌!」
キヨの心底を、さすがのトヨもはかりかねた。
「御子様。私がキヨを背負って行きます。手足となります。だから、キヨの思いをかなえさせてください。お願いです」
シンは土下座して、頭をこすりつけていた。
「そなたのような、うらなりでは無理じゃ。ワシが抱きかかえて行こう」
ムネがシンの肩に優しく手をかけて、そう言った。
皆、キヨの事を足手まといだと思ったりはしなかった。トヨのように深く考えてもいなかったが、少なくとも、父母の敵討ちがしたいのだろうと同情的だった。
「わかった。キヨもこい。期待している」
トヨがそう言った時、皆の顔にも笑顔が浮かんだ。
暑くも寒くもないのに、かなりの汗を流しながら、ヤスニヒコは懸命に呪文を唱えていた。呪文のリズムに、思わず意識が遠のきそうになった。慌てて我に返ってまた唱える。余計な意識を追い出して、集中力が高まった時、わずかながら蒼白い光が鉄剣に発現した。
意識には昂ぶりも、恐れもなくて、清明な世界を感じる。体の自由も効く。
よし。
これで戦える。
背後に、もののけの気配を感じ、はねのいて見ると、やはりそこにいた。
細い目を引きつらせていて、あの不敵な笑いはなかった。
「ほおう。そなたも高波動の者か」
「わけ、わかんねぇこと、言うな」
「低波動のままの方が扱いやすかったが、まぁいい。その程度では私は倒せない」
もののけの後ろには、気を失った姫が宙に浮いていた。
「姫は、返してもらう」
「面白い」
もののけは、その姿を大きく変えた。黒い雲のような本体に赤黒い稲光をまとい、圧倒的な威圧感でヤスニヒコの前に立ちはだかった。
しかし、その時のヤスニヒコは動じなかった。
姫を取り返す。
その事のみを考えて、蒼白く輝く剣を振るった。
ヤスニヒコ。
トヨは遠くにヤスニヒコの気配を感じた。
想像以上の悪しき力となったもののけの気配もわかる。早くヤスニヒコと姫を助けなければ。
一行は、元もののけの二人に案内されて、月明りの山道を歩いている。皆、何も言わず黙々と。どの顔にも悲壮な覚悟が浮かんでいた。連れ去られた二人を助けたい。ただそれだけだった。
どれほど歩いたのか。月はもう傾いていた。
先頭を行く、元もののけの一人が指さした。
「あれでございます」
そこには大きな岩が静かに佇んでいた。
タクやクロには、ただの岩にしか見えなかったが、トヨはその岩が放つ圧倒的な力に、大粒の涙が溢れてきた。
苦しい息のもと、キヨが話しかけてきた。
「トヨ様・・・」
トヨは涙を拭い、うなずいた。
「わかっている。悲しみも喜びも、全てをつつむ大きな力だ」
「はい。この力をお借りできれば、別の世への扉は開くかと。でも、その方法が・・・」
「ああ。わからない」
トヨでも分からないのか。皆は凍り付いた。もう打つ手がないのか。そんな思いが渦巻く中、元もののけの一人が言った。
「あの、昔からこの岩にお願いする時は、皆で手をつないで岩を囲み、おまじないしますが・・・」
それだ!
そう思ったのはキヨだった。トヨはもう少し複雑に考えたため、半信半疑だ。
「トヨ様、今はそれしか・・・」
「そうだな。キヨ。トヨ殿、やってみよう。みんなで手をつないで呪文を唱えてみよう」
タケノヒコがそう言うと、皆もそれしかないと口にした。その声に押されるようにトヨも踏ん切りがついた。
「わかった。やってみよう。皆、勾玉を身に付け、手をつなげ。その輪の中心にこの岩を置いて神を称える呪文を唱えよ。ヤスニヒコと姫を助けられるよう、その事だけを考えて唱えるのだ」
山道を歩いてきた疲れがあるものの、一同、トヨの指示通りに動いた。
誰しもが、二人を助けたいと真剣に思っていた。
ヤスニヒコは蒼白く輝く剣で何度も斬りかかったが、全てかわされた。
斬り上げても、下ろしても、突いても、何の手応えもない。
「もう、いいか?」
もののけがそう言うと、ヤスニヒコの体は磔にされたように動かなくなり、ずいぶんと重く感じるようになった。
「私の次元で、私は重力を操るのだ。そなたに勝ち目はない」
ぐっ。と、舌打ちしながら、ヤスニヒコは叫んだ。
「重力なんて知らねぇ!わけわかんねぇ!そんなもんに負けてたまるか!」
「威勢がいいな。それで良い。そなたには月ほどの光、パワーがある。そのパワーを献上せい。私の一部になれ。この女は下僕とする。その他のそなたの仲間もいずれそうなる。そうすれば、私はもう誰にも負けぬ」
もののけは、その細い吊り目を一層釣り上げて不気味に笑った。
パワーなんて言葉は知らないが、やはりもののけはトヨ殿の力を恐れているのだ。と、ヤスニヒコは感じた。
ならば、助けが来るまで暴れて時間を稼がねば。
トヨ殿は、きっと来る。
ヤスニヒコは、大きく深呼吸をした。
目をつぶって呪文を唱えた。
体の隅々まで行き渡る清明な力を振り絞り、ついに重力の軛を打ち破った。
「ほおう。なかなかのパワーだ」
そう言うもののけに、ヤスニヒコは周囲の空間を震わせるほど渾身の刃を振り下ろした。
もののけは、ひらりと身をかわす。
しかし、その間にもヤスニヒコの二撃が襲う。三、四、五と、何度も何度も素早く剣を振るった。
「おまえのような別の世の者に、我々の想いは分からない!人それぞれの想いを断ち切るようなこと、私は絶対許さない!」
ヤスニヒコの気迫に、この空間の波動が共鳴を始めた。
もののけの見込み以上の力だった。
「ほおう。この者は・・・」
ついにヤスニヒコの剣がもののけを捉えた。
ヤスニヒコ!
呪文を唱えながら、トヨが叫んだ。
次元の向こう側にいるヤスニヒコの波動が見えた。
「糸口が、見えた。皆一層の呪文を!私はこのか細い糸をたどって、助けにゆく!扉は開かれる!頼む!」
皆が一心不乱に唱える呪文のハーモニーは、いよいよ大きくなった。
トヨは呪文を唱えながら、向こうへ、私を。と強く念じた。
その時。
天地の鳴動とともに、大きな岩が真っ白な光をまとい始めた。
一同が呪文を唱えながらも信じられない光景に畏れを抱く中、輪の中心にいるトヨは、その光を受け止めて、中空の彼方へ放った。見えざる大きな力が、糸をたどって中空へとかけ昇り、時空の扉を押し開けた。
それは、トヨとキヨとタケノヒコにしか見えないものだった。
機を逃さず、トヨは意を決して跳んだ。
ヤスニヒコの剣によって、もののけは霧散した。
はぁはぁと、荒い息を収めながら、ヤスニヒコはその様子を眺めていた。
勝ったのか?
そう思いつつ気を失っている姫に近寄って抱きしめた。
もう、大丈夫だ。
しばらく無言で抱きしめていた。
姫の顔を覗き込むと、息をしている様子が分かった。
よかった。
姫は生きている。
喜びが体中を駆け巡った。
また、けんかしような。そして、またあの笑顔を見せてくれ。
眼を閉じて微笑みながら、そんな事を思っていると、姫の眉がぴくっと動いた。
気がついたのか?
ヤスニヒコは姫の体を揺さぶった。
「姫、姫・・・」
やがて、ゆっくりと姫は目を覚ました。
「あ、ヤスニヒコ・・・」
そう言うと、姫はその白くて細い腕をヤスニヒコの首すじにからめ、力を込めて抱きついた。
「よかったぁ。ヤスニヒコ。無事だったんだ」
「ああ。そなたもな」
そう言うヤスニヒコの向こうに、恐ろしいもののけがいた。
悲鳴を上げる姫。
ヤスニヒコが振り返ると、さきほどまでとは違う恐ろしい形相のもののけがいた。
「そなたは、勝ったつもりのようだが」
ヤスニヒコは姫をかばいながら剣を構えた。
「そなたでは、私には勝てない」
「勝つ!何度でも!守るべきものがあるからだ!」
「ほおう。」
次の瞬間には、姫が宙空に引き上げられ身動きを封じられた。
何が起こったのか、ヤスニヒコには分からない。
「守るべき者とは、この者のことか?」
ヤスニヒコは呪文を唱えつつ剣を振るった。
しかし、かわされた。何度も何度も。
「人の想いとは、笑止。そなたらの想いなど私の前ではゴミも同じ。そなたらは、ただ苦痛に顔をゆがめて死んでゆくが良い」
「そんな馬鹿な話があってたまるか!」
「ほおう。ならば、この娘の四肢がちぎれる様を見るが良い」
姫の体は中空で磔のように手足を拡げて、その顔は苦痛に満ちた。
「やめろぉ!」
ヤスニヒコは渾身の力で剣を振るったが、逆方向に引っ張る力で吹き飛ばされた。
「おまえらは、もうめんどくさい。代わりはいくらでもいる。死ね」
「ふざけるな・・・」
無理に飛ばされた衝撃で意識朦朧のヤスニヒコは、動かない体を呪った。
こんな訳も分からないところで、訳も分からず死なねばならぬのか。
くやしくて、仕方なかった。
轟音が轟き、閃光が走った。
それは、もうだめだとヤスニヒコが思った時だった。
大音響を伴って閃光が走ったと思ったその後から、より大きな輝く光が見えた。
トヨ殿・・・
そう思うと、溢れる涙をヤスニヒコは抑えきれなかった。
「ヤスニヒコ、よく頑張った。あとはこの姉に任せよ」
姉?今トヨ殿は姉と言ったのか?混迷する意識の外側には、確かにトヨがいた。
もののけは、苦い顔をしてトヨを見つめた。
トヨは蒼白い閃光を放って、姫を開放した。
「姫!」
そう叫んで、ヤスニヒコは朦朧とする意識、動かない体で懸命に姫に近寄った。
姫はまた気を失っていて、ヤスニヒコはただ抱きしめた。
「そなたは、違う世界をつなぐ糸がわかったのか?」
「神のお力ゆえ」
「ほおう。あの力の事もわかったのだな」
「そうだ。そなたが利用したものだ。そこをたどってここに来た。神のお力をもてあそぶなど、断じて許さぬ」
「ただの人間が、時空を越える私を許さぬだと?」
「私の怒りに触れよ!」
トヨは全身から蒼白い炎を噴き上げた。
「ほおう。少し波動が上がったか?しかしそれでもまだ私には及ばぬ。先ずはそなたから死ぬが良い」
もののけの攻撃は目には見えにくい。わずかに空間が歪み、その強力な重力で吸い込んで押しつぶすようなものだ。目では見えないから、トヨはその気配をいち早く察し、右へ左へとかわした。それはもう、瞬間のようであり、永遠のようであり、激しい連続攻撃をかわし続けた。
わずかな隙をついて、トヨは反撃を試みた。
今度はトヨが放つ蒼白い光が連続弾となって、もののけを打ち続けた。
双方、一歩引いて間合いを取った。
「ほおう。そなたにこれほどの力があったとは・・・」
「気づかぬのか?これは私の力ではない。神がお力を貸しておいでだ。そしてそれは、扉の向こうから仲間が私に届けてくれている」
「ほおう。仲間・・・」
「そうだ。そなたには分かるまい。人を、仲間を、想う心が」
「そのようなものは必要ない。私には下僕がおれば良い」
「心得違いだ!」
トヨは再び蒼白い光の連続弾を放ち、もののけも、その重力でトヨを絡め取って押しつぶそうとした。それはもう、瞬間のようであり、永遠のようであり、時空の不思議なゆらぎの中で、ヤスニヒコは呆然と激しい戦いを見上げていた。押しているのは、もののけであった。トヨには疲れが見え始めていた。
なんとかならないか。
ヤスニヒコはそう思ったが、もう体が動かない。重力攻撃を避け続けるトヨに対して、もののけは光の連続弾を受けながらも、その力に翳りが見えない。
トヨ殿の攻撃は効いていないのか?
そんな絶望的なイメージがヤスニヒコには浮かんだ。
どうすればいい?どうすれば・・・
ヤスニヒコは焦りさえ覚えた。
それは、瞬間のようであり、永遠のようでもあった。
やがて、力尽きたトヨはとうとう重力に絡めとられた。
くっ。ヤスニヒコは覚悟した。
荒い息の中、トヨは磔のような姿で中空に浮かんだ。
「なかなか楽しかったぞ。しかし、そなたは邪魔だ。今、死ぬが良い」
あ。トヨ様。
姫が目を覚ました時には、トヨがとどめをさされそうになっていた。
もう、終わりか?どうしようもないのか?
ヤスニヒコの眼から涙が溢れた。
強力な重力波が、もののけより放たれた。
周囲の空間を歪めながら、まっすぐ、トヨに向かっている。
ヤスニヒコと姫は思わず目を伏せた。
その重力波は、トヨの目前で強力な蒼白い波動によって方向を捻じ曲げられ、何もない空間へと飛び去った。
「タケノヒコ様!」
トヨがそう叫ぶと、ヤスニヒコと姫も顔をあげ、タケノヒコを認めた。
「待たせたな」
「何故?ここへ?」
「キヨの力を借りた。キヨは今扉の前で私たちと仲間たちの絆をつないでいる」
兄上!そう叫びたかったが、その前にヤスニヒコは回復の呪文をトヨへ放つよう姫に頼んだ。姫はうなずくと、残る力を振り絞り、大音声で唱え始めた。
タケノヒコはトヨをかばうように前面に出た。もののけは、厳しい表情を見せた。
「そなたも来たか。しかしもう飽きた」
もののけは再び大きな重力波を放った。
しかしそれは、タケノヒコに切られて霧散した。
何故?
ヤスニヒコには疑問だった。トヨの攻撃すら効かなかったのに。
タケノヒコにも分からない。しかし、彼にはできるという直感と確信があった。
そうか。
トヨには、その訳がわかった。剣の鋭い切先に蒼白い光を集中させることで、切り裂くことが出来るのだ。面での攻撃よりも一点集中。トヨはそう思った。そして、姫の回復の呪文は、皆の体力を癒し始めていた。
「ほおう。この一万年の間、私をここまで苦しめた者はいなかった。しかし、おまえたちはめんどうくさい。そろそろみんなで死ぬが良い」
一万年?
絶対嘘だとヤスニヒコは思った。
「ヤスニヒコ!」
トヨが叫んだ。
「剣の切先に力を集中させよ!そして、こまかな粒と粒の間を切り裂くように思い描いて剣を振るえ!」
何?それ?
よくわからないが、今はやってみよう。
ヤスニヒコは立ち上がれるまでに回復していた。
三人に囲まれても、もののけは落ち着いていた。
じりじりとしたにらみ合いが続く。
口火を切ったのはトヨだ。
激しい連続弾がもののけを襲った。
折を見て、タケノヒコが斬りかかる。
かわしたもののけをヤスニヒコが襲う。
目まぐるしく立ち位置を変え、激しい攻防が続く。
姫は懸命に回復の呪文を唱えていた。他の三人は、神を称える呪文だ。
それは、瞬間のようであり、永遠のような、とりとめもない時間だった。
やがて、三人の呪文のハーモニーがシンクロし、もののけの空間をも共鳴させた。
「ほおう。」
自身が生み出した空間の変調に、もののけは恐れを抱いた。
このまま三人相手では危ない。
先ずは弱点を・・・
そう考え、標的にしたのは、姫だった。
この者が居る限り、三人の力は衰えない。
もののけは、小さく鋭い重力波を放ち、それは姫の体を貫いた。
「姫!」「タクマ!」
三人が絶叫する中、姫は崩れ落ちた。
ヤスニヒコが近寄り、姫を抱き起した。
姫は意識を失っていた。ヤスニヒコはその体に取りすがり、気が付くように何度もその名を呼んだ。
三人の攻撃がやみ、もののけも間合いを取った。
さて、次の標的はこの小僧か・・・
もののけの意識がヤスニヒコに向いた時、トヨはそれまでにない真っ白な光に包まれた。
「私の怒りに触れよ!」
そう叫ぶと、その体から真っ白な波動の奔流がもののけを襲った。
その威力はもののけの理解と力を越えていた。支えきれず押されて、やがてもののけの姿は霧散した。
勝利の確認をする前に、トヨは姫に近寄り、取りすがった。
「タクマ。死ぬな。そなたは我が妹だ。呪文を、回復の呪文を唱えよ」
ごふっと血を吐いて、姫の意識が戻った。
「姫!」
ヤスニヒコが叫んだ。
「ああ、ヤスニヒコ。トヨ様。敵は?もののけは?」
「心配するな姫。今トヨ殿が討ち果たした」
「ああ。よかった・・・」
そう言うと、姫の意識は再び遠のいた。
「トヨ殿、急ぎ我々の世に戻って、姫の手当てを」
トヨは、別の方角を見つめた。
「ヤスニヒコ、もうしばらく姫を介抱せよ」
タケノヒコはそう言いながら、トヨと同じ方向を見つめていた。
何?
ヤスニヒコも顔をあげると、霧散したはずのもののけが再生しつつあった。
こんな化け物相手に、いったいどうすればいいのか。
ヤスニヒコが諦めかけた時、トヨは敢然と立ちあがり、再び激しい連続弾を浴びせた。
不完全な姿ながら、もののけは反撃の重力波を皆に放った。
しかし、その威力は衰えていて、全員しのぐことができた。
息もつかせぬトヨの連続弾を撃ち込まれ、もののけの体は躍った。それほど弱っていた。その側でタケノヒコはつぶさに観察し、もののけの弱点を探していた。
ヤスニヒコは、姫を守りながら、終わりのない戦いに半ば諦めていた。どうあっても倒せない。元の世にも戻れない。姫は重傷だ。
どうしたらいい?どうしたら・・・。
タケノヒコは思った。もののけの体は融通無碍であるが、その細い切れ長の目は実体があるようだ。そう思い定めて斬りこむタイミングを見計らっていた。しかし回復の呪文がない今、トヨの気迫と体力は長く続かない。ならば、機会は一度きり。その時に備えて、タケノヒコは気持ちを昂らせ、気迫の全てを剣に注いだ。
すると。
その気迫の昂ぶりにもののけが気づいた。
ねめまわすように、タケノヒコを捉えたその一瞬。
蒼白く輝く剣が、横一閃。真一文字にもののけの眼を切り裂いた。
「ぐおおう」
断末魔のような叫びをあげて、もののけは崩れ落ちた。
よし!
タケノヒコは手応えを感じた。
トヨはへなへなと倒れそうになり、タケノヒコに抱きとめられた。
空間の異変は続いていて、激震が走り、とことどころ明滅し、おかしな地鳴りのような音も聞こえてきた。
「扉へ戻るぞ!」
タケノヒコがそう叫び皆を促した、まさにその時。再びもののけが立ち上がり、再生を始めていた。
まさか。
皆の心に絶望が渦を巻いた。
諦めては、ならぬ。
トヨはそうつぶやいて、再び連続弾を放った。
もののけは、全身に連続弾を浴びていた。しかし。様子がおかしい。ぎこちなく動き、ところどころ崩れている。要は、壊れていた。
「そなたらのことはしっていた。だからそなたらのてのおよばぬところで、よわいのもたちのくるしみをたのしんでいた。なぜじゃまをする?」
「苦しみを楽しむだと?」
タケノヒコは、それまで見せたことのないような激しい形相となった。
「そうだ。よわいものはつよいわたしのいのままにしねばよい」
その時。
タケノヒコの脳裏に、あるイメージが湧いた。
あの日、あの時、あの草原で、ヒナが優しく笑っていた。
タケノヒコは、叫んだ。
「違う!断じて違う!人は、誰しも人を想い慈しみ、ともに生きていくものだ!心得違いだ!」
「ほおう。そなたらはおなじことをいうのか。もうあきた。そろそろしぬがよい」
もののけは、どす黒い大きな球を放った。
トヨにはわかった。それまでのような粗い力ではない。一点に凝縮されたもので、全てを押しつぶす破滅の力だ。かわしても無駄。
タケノヒコは、トヨとヤスニヒコをかばうようにその黒い玉の進路に立ち塞がった。
何を?
トヨはそう思った。
タケノヒコの鉄剣がまぶしいほどの光を放った。
「人の想いがわからぬ者に、私は断じて負けぬ!」
輝く鉄剣を大きく振りぬくと、空間を激震させるほどの波動が黒い球に直撃し、押し返した。もののけには、自らが放った黒い球を防ぐ力が、もう残っていなかった。
「ぐぬ」
短い叫びを残して、もののけは爆縮した。
「あ!」
トヨが叫んだ。
タケノヒコも気が付いた。
「いかん。揺り返しが来る!皆、急ぎ扉へ!そして元の世へ!」
この空間では歩いての移動ではない。心が動く方に体も動く。
皆は最後の力を振り絞って、扉を目指した。
大爆発の閃光が背後から襲ってくる。その後から轟音も聞こえてきた。
懸命に、扉へ向かった。
「皆さま、早く!」
扉の前にはキヨがいた。
蒼白い光を纏って、扉が閉じてしまわないように懸命に守っていた。
「成り行きは、気配で察していました。皆さまは早く元の世へ!この扉は私が始末してすぐに私も戻ります!」
「すまぬ。キヨ。頼む」
タケノヒコはそう言ってトヨを抱きかかえた。姫はヤスニヒコが抱きかかえ、二人は元の世へつながる糸を頼りに跳んだ。
大閃光がすぐそばまで襲ってきた時、キヨは残された蒼白い光の力を振り絞って扉を閉じた。
どのくらい時間が過ぎたのであろう。
夢うつつの中でトヨは声を聴いた。
「そうか。それがそなたの望みか。ならばそれで良い。ただし・・・」
そこで、トヨは目覚めた。
急に目を覚まし半身を起こしたトヨに気が付いて、シンが声をかけた。
「御子様。ようございました」
振り向くと、シンの顔には涙が見える。
「おおい、皆さま!御子様がお気づきじゃあ!」
トヨは、夢うつつで聞いた言葉の続きを思い出した。
ただし、その力と技、そして記憶は消える・・・
トヨは、右手で砂をつかもうとした。
しかしそんな力すら、もう残されてはいなかった。
確かに、何があったのか思い出せない。
皆がトヨの周りに集まった。
「トヨ。よかった」
そう言ったのは、タケノヒコだった。そして彼は人目もはばからずトヨを抱きしめた。
みんなの顔に笑顔が、あるいは涙があった。
辺りはもう、夜明けの時分であった。
朝日を浴びて、天空で何かキラリと光った。
「何じゃ?あれは」
ジイがそう言い、みんなが天空を見上げた時、その何かは冷たい空気をヒュンヒュンと切り裂きながら真っすぐタケノヒコ目がけて落ちてきた。
ドスッ。
タケノヒコの真横に落ちて大地に突き立ったのは、紛れもなくあの鉄剣だった。
「あれまぁ。タケノヒコ様を慕って戻ってきたのかねぇ」
カエデがそう言った。
「ああ。きっとそうだ。私のもとへ」
タケノヒコは、そう言って笑った。
完読御礼!
次回は「もののけ討伐記」の最終部分です。
どうぞよろしくお願いします。