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第一話 青いバッジ

こんなことってあるのだろうか。


冬休みが明け、学校へ向かっている最中。

私は確かに交通事故にあったはずだ。


凍った道路でスリップしたのか、大型トラックが不自然に回転しながら歩道へ突っ込んできた。

それは逃げようとも思えないほどあっという間で、最後に覚えているのは恐怖と圧迫感。痛みを覚える前に、多分気絶した…または死んだはずだった。


なのに今、私は完全なる無傷の状態である。

更になぜか学校の保健室のベッドの上で目覚め、そのことを確認したのが五分前。

そして現在、馴染みのあるチャイムを聞きながら布団の中で記憶を整理している。


いくら思い出そうとしても、混乱するばかりだ。

命は助かったものの意識が戻らないまま、夢を見ているのか。そうに違いない。


誰かが保健室に入ってくる物音が聞こえた。


すみれ?」


ベッドをぐるりと取り囲むカーテンの向こうから、私の名前が呼ばれる。


「起きてます…」


そう返事をするとカーテンが遠慮がちに開かれ、立っていたのは二人のクラスメイトだった。


心配そうな表情でベッドサイドに歩み寄るポニーテールの女子は、親友の文佳ふみか

その後ろからこれまた心配そうにこちらを覗いている日英ハーフの男子は、私の従兄弟のノア。

文佳もノアも、普段から常に私とつるんでいる友達だ。


「菫、大丈夫?」


「ううん」


食い気味に否定する。

どんなに楽観的思考の持ち主の私でも、大丈夫ではないことくらい分かる。まず自分の状況が理解できていない。

呆気に取られたように私のことを見つめている二人に、尋ねてみる。


「何で私ここにいるの?」


「始業式の途中で倒れたの。覚えてない?」


「…覚えてない」


覚えているはずがない。

だって私は、学校へ辿り着いていない。何故なら通学路で事故に遭ったのだから。

――とまくし立てたいのをぐっと堪え、私は考えを巡らせる。さて、どうしたことか。


ノアが口を開いた。


「すーちゃん。今日の日付は?」


「一月十日、月曜日」


「合ってるね」


ノアと文佳は互いに顔を見合わせて頷く。


「菫、見るからに寝不足っぽいし疲れてるから混乱してんだよ、多分。うちら学年集会行ってくるけど、もうちょい寝てな。終わったら迎えにくるから、一緒に帰ろ」


「…うん、ありがとう」


文佳とノアが出ていくと、私はこっそり手の甲をつねってみる。きちんと痛くて、この不思議な状況が夢でも何でもない、ただの現実であるということが分かっただけだった。

入れ替わりで様子を見に来たのは保健室の先生だった。


二見ふたみさん、起きたのね」


「はい、おかげさまで」


「顔色良くないし、まだ大人しく寝てなさいね。あとブレザーここに掛けておくわ」


先生は、壁のフックにぶら下げてあったハンガーを取ると紺のブレザーを掛けた。


「…あれ、先生。それ私のじゃない」


「えぇ?二見さんが着てた物よ。寝かせる時に脱がせたけど」


「…でも」


一見すると、いつもの制服だ。しかし襟元の校章の真下に、見覚えのないバッジが付いている。

楕円形の青い石がはめ込んであって、カーテンの隙間から差す光を反射してキラリと輝いた。


「私こんなバッジつけてないですよ。私のだったら、内ポケの生徒手帳に自分の名前が…」


そのブレザーの内ポケットに手を突っ込んで、生徒手帳を引っ張り出すと最初のページを捲る。

二見菫。疑うべくもない、自分の名前である。


「…私のだ」


「そりゃそうでしょ。だって二見さん、一組よね」


「はい」


「じゃあ何も問題はないじゃない。まごうことなきDom(ドム)の青バッジクラスなんだから」


まだ寝ぼけてるのね、と笑う先生。


「…ど、む?青バッジクラス…?」


今、なんて?


その時、ガラガラとドアを開ける音と共に「せんせー怪我したー」と生徒が入ってきた。


「はーい、寝てる子いるから静かにしてね」


「あの、せ」


「じゃあ二見さん、もう少し休んでて」


聞き返そうとしたが、先生は慌ただしくカーテンの向こうへ消えた。


このブレザーは確かに私のだけど、バッジは違う。全く知らない、初めて見るものだ。


眠気などとうに吹き飛んでいる私は、物音を立てずに布団を抜け出すと、カーテンを捲って向こうの様子を覗き見る。先生は今来た男子生徒の怪我の手当てをしていて…


「…あ」


…あの生徒のブレザーには、緑のバッジがついている。

一体これは何なんだろう。

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